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【小説】あと96日で新型コロナウイルスは終わります。

~花火の翌日~

《花火が見えましたよ》

昨夜、親友からのLINEに私は号泣し、同時に安堵して、ぐっすりと深い眠りについていた。

親友は、コロナ禍以前から救急車だけでなく、ドクターヘリも飛んでくる救急外来もある総合病院に勤めていた。

外部には発表されてはいないが、新型コロナウイルスの重症患者を受け入れていて、激務の連続であることは想像にかたくなかった。

だからこそ、こちらから連絡をとることは控えていた。

ずっと、ずっと、3月からずっと。

向こうからの連絡がなさすぎて、彼女自身が新型コロナウイルスにかかって、重症で意識が混濁しているのではないかと危惧したくらいだ。


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月曜日、クリニックに出勤すると、ロッカールームでは昨日の花火で話題がもちきりだった。

「テレビを観ていたら、突然音がした。最初はなんの音かと思った。」

「急いで外に出て、見えるところまで走ったけど終わっていた。」

「私、泣いちゃってたら、中学生の娘も涙ながしていたよ。」

いつまでも感傷にひたるわけにもいかない。急いで着替えて、タイムカードの打刻を済ませた。

また、月曜日が始まった。

外来が始まってしばらくすると、受付のスタッフが話しかけてきた。

「検温したら、38℃の患者さんがいるんですけど。」


(ああ、まただ。)

電話連絡をせずに、取りあえず医療機関に来てしまう患者さんがいる。

駐車場にテントを張って対応できるような、設備も人員も確保できなかった。

パート勤務のなんの資格も持たない受付事務が透明の手づくりカーテンと繰り返し洗って使っている一般のマスクで対応しているのが現状だ。

(ここは総合病院でない、産婦人科クリニックなのに。なぜ、電話の一本も入れてくれないのか。他の患者さんにも迷惑がかかるし、いちばん最初に飛沫を受ける受付事務にも命があって、そのスタッフにも家族がいるのに。)

彼女たちは、1000円にも満たない時給で、ワクチンを打ってない体で新型コロナウイルスに立ち向かわざるを得なかった。生活費のために、子どもの学費のために。

アキナは、フェイスシールドをつけると熱のある患者さんに近づいていった。

新型コロナウイルスが終わるまで
あと96日。

これは、フィクションです。

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