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④オートクチュールな彼女は、チーププレタポルテな自分に興味津々。

『パトカーからの視線』

実体験に基づいたフィクションです。

相変わらず皇族みたいなオートクチュールを颯爽と着こなすお嬢と大学の近くを歩いているとき、パトカーが私たち二人の横を通りすぎた。

「そういえばさあ、バイトに行くために早朝、自転車を漕いでいたわけよ。そしたら、目の前をパトカーが横切ったんだけど、そのパトカーの助手席に乗っている警察官がこっちを見てきたわけ。」
と私が切り出した。

「うん。」

「私、うっかり目を反らしちゃったんだよね。やべって思ったときはもう遅くて、そのパトカーがUターンしてきて、『そこの自転車、止まりなさい』ってスピーカーで流れてくるわけ。」
と私は続けた。

「う?うん。」

「私が止まるとパトカーから警官が二人降りてきて、『鍵が壊れた自転車に乗ってるな。盗難車かどうか車体番号を照会する』って。」
と私は眉間にしわを寄せた。

「あら。」

「私、気にしていなかったんだよね。中古屋さんで買ったときからカギはなくって、だから、乗らないときはずっとチェーンをつけていたんだよね。」
と私は身ぶりを交えて説明した。

「うん。」

「若い警察官がパトカー内で車体番号を照会する間、40歳くらいの警察官と話してたんだけど、サイフの中に中古屋さんの手書きの証明書があるのを思い出して、それを見せたら、『これって、⚫⚫女子大のすぐ近くだね。もしかして、そこの学生?』って聞いてくるわけ。」
と私は目を見開いた。

「うん。」

「そうですって答えたら、その警察官、コロッと態度が変わっちゃって、『失礼しました!』って。あのときほど、OGに感謝したことはなかったなあ。その後、盗難の届けも出てないのがわかって、即無罪放免ってわけよ。」
と私は誇らしげに胸を張った。

「解せないことがいくつかあるわ。なぜ“うっかり目を反らしてしまい”、それに対して“やべっ”って思ったの?」
とお嬢が聞いてきた。

「別に私は不良じゃなかったし、悪いこともしていなかったんだけど、パトカーを見ると、反射的に『やべえ、逃げろ』って思うわけ。でも、ほんとうに逃げるところを警察官に見つかると、警察官は何かやましいことがあるから逃げているって思って、補導や職質をするわけ。」
と私は説明し始めた。

「う?うん。」

「だから、警察官がこっちを見てきたら、こっちは何もやましいことはありませんよってアピールするために、警察官の目をじっと見るの。反らすなんて、自分の方から職質して下さいって言ってるようなもんなのよ。」
と私は天を仰いだ。

「新たな疑問が出てきたわ。何も悪いことをしていないのに、なぜ『やべえ、逃げろ』ってなるのかしら?」
とお嬢は追及してきた。

「それは、う~ん。さがかな?」
と私は答えた。

「サ・ガ? 性?」
お嬢は余計混乱してしまったようだ。

「そう、性。これは、そこの地域で生まれ育った者にしか分からない性だね。」
私もそれ以上説明ができなかった。

先ほどのパトカーが、また横を通り過ぎていこうとした。

お嬢は道路に身を乗り出さんばかりに、前傾姿勢になると、乗っている警察官の一人を凝視した。

「あの警察官、私から目を反らしたんだけど、なぜかしら?」
とお嬢は言った。

「だって、お嬢を職質したら、どっかの組織に消されそうだもん。」
私がそう言うと、

「“どっか”ってどこよ⁉失礼しちゃう。」
とお嬢は言って、オートクチュールをひらひらさせながら、迎えにきている黒塗りの車の方へ歩いて行ってしまった。



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