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【小説】あと95日で新型コロナウイルスは終わります。

~妊婦健診も大切だけど~

アキナは、朝起きるとまず検温をした。

(1回目36.4℃、2回目36.3℃、咳なし、鼻水なし)

缶コーヒーのクチの部分を除菌ペーパーで念入りに消毒すると、匂いを嗅ぎ、口に含んだ。

(味覚嗅覚異常なし)

いつものようにホテルを出ると電車に乗った。

昨日はクリニックでちょっとイザコザがあった。

受付の検温で38℃を超えていた患者さんが来てしまい、対応したのだ。

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「本日はどのようなことで来院されましたか。」

「いつもの妊婦健診です。次回は2週間後だって医者に言われたから。」

(いやいやいや、その前に38℃なんだから)

アキナは言いたいことを飲みこみ、つとめて冷静に言った。
「腹痛、出血、お腹のはり、その他なにか気になることはありますか。」

「いいえ、特に。」

(無いんかーい⁉)

顔がひきつりそうなのも抑えた。
「お熱以外に、咳、呼吸苦、鼻水、味覚嗅覚の異常などありますか。」

「鼻水が少しあります。」

アキナは、新型コロナウイルスの相談センターの電話番号をその患者さんに伝え、まず、PCR検査を早急に受けること。結果が出たら、すぐ当院に必ず知らせること。その前に、産科領域で何か不安なことが出てきたら、まずは電話で当院に相談することを話した。

「まずは電話ですよ。」

アキナが念を押すと、患者さんは少し不満げな顔をしていたが、何とか帰ってくれた。

かかりつけ患者さんのすべてに、熱・咳・味覚嗅覚異常が出たら、まずは当院に電話をかけてくださいと繰り返しアナウンスをしているが、そういった症状があるのにもかかわらず、事前連絡なしの患者さんが後を経たなかった。ここのクリニックだと一週間に一人くらいだろうか。

その患者さんがクリニックから出ていくと、受付事務の一人が、その患者さんが通ったところをすべて消毒してまわった。

その様子に気づいた数人の患者さんが怪訝な顔をしていた。

アキナは、他の看護師から全身に消毒スプレーをかけられると、フェイスシールドを外し、それを他の看護師が開けたビニール袋に入れた。その袋の中に、別の看護師が消毒スプレーを吹き掛けた。アキナはディスポ手袋を身につけたまま手を入念に洗った。

身につけていたエプロンもフェイスシールドもディスポ手袋も、本来ならすぐに破棄すべきだが、コストがかさむため、すべて再利用していた。

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「あれから、熱は出ていないの?」

今朝、ロッカールームで、昨日のやり取りを知る同僚に声をかけられた。

「今のところは。」

新型コロナウイルスの“疑い”がある患者さんに対応しただけで逐一休んでいたら、世の中から医療従事者はいなくなってしまう。

アキナは廊下に出ると、マスクの中で軽く深呼吸をした。

新型コロナウイルスが終わるまで
あと95日。

これは、フィクションです。

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