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【小説】あと92日で新型コロナウイルスは終わります。

~観光のために生理日移動~

「看護師の⚫⚫さんはお子さんが38℃の熱のため、看助(看護助手)の⚫⚫さんもお子さんが37.6℃の熱のため、それぞれ自宅安静にしています。人数が少ないですが、ミスのないようにやっていきましょう。」

コロナ禍以前からこのクリニックは慢性的な人手不足だったが、そこに、同居する家族の中に新型コロナウイルスと疑われる症状が出ると、そのスタッフが休んでしまい、クリニックの業務は困難を極めた。

(うちでこんなに辛くて大変なんだから、院内クラスターが発生し、数十人から百数十人規模で自宅待機の医療従事者が出た医療機関は地獄だろう)

アキナはため息をついた。

午前中の外来の患者さんのカルテと問診票をチェックした。

『生理日の移動希望』に⚪ついている“患者さん”がいることに気づき、カルテに付箋をつけた。

アキナは待合室で“患者さん”に声をかけた。
「9月に⚫⚫県に旅行に行くんですけど、このままだと生理と重なって海で泳げなくなるので、生理をずらしたいんです。」
と、“患者さん”は明るい声で言った。

アキナは、院外で待機するように“患者さん”に言った。

正直に言うと、複雑な心境だった。緊急事態宣言があけて、さらに、県をまたいでの移動許可を政府が出してしまってから、クリニックとして、そういった“患者さん”に反対する術はなかった。

医師が生理をずらす薬を処方すると、カルテに“9月1日から5日まで⚫⚫県”と大きく書いた。

アキナは、カルテに記載された薬とカルテを医療に渡した。

受付事務は、外で待つ“患者さん”に、
「⚫⚫県から帰ってきたら、 何も症状が出なくても、2週間は当院に来院しないようにお願いします。もし、気になる症状が出た場合には、新型コロナウイルス相談センターにお電話してください。」
そう言うと、電話番号が書かれた紙を渡して、外で会計をした。

カルテの表には、アキナが『9月1日から5日まで⚫⚫県。2週間は院内に入れないこと。』と付箋を貼った。

そもそも、“健康な患者さん”には、院内に一歩たりとも入って欲しくなかった。無症状だけど実は新型コロナウイルスに感染していて、院内にウイルスを撒き散らしているのかもしれないのだから。

「⚫⚫さん、第1診察室にお入りください。」

アキナは次の患者さんを呼んだ。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと92日。

これは、フィクションです。

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