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③オートクチュールな彼女はチーププレタポルテな自分に興味津々

実体験に基づいたフィクションです。

皇族みたいなオートクチュールを颯爽と着こなすお嬢と郊外にある大型ショッピングセンターに行った。

お嬢が掃除道具を見て、
「これは何かしら?」
と尋ねれば、私がわかる範囲で用途を答えたり、身ぶり手振りで教えたりした。

お菓子コーナーにやってきたお嬢は、
「これは一緒に牛乳も買わなければいけないってこと?牛乳がなければ作れないのかしら?」
と聞いてきた。

それは、オレオだった。

私は、
「このお菓子は、そのまま食べてもおいしいけど、牛乳に浸して食べてもおいしいって、販売会社がパッケージで提案しているだけだよ。ほんとうに何にも知らないんだね?」
と笑いながら答えた。

お嬢は、
「こういうの食べさせてもらえなかったんだもん。」
と半泣きになってしまった。

私は慌てて、
「ごめん、ごめん。」
と謝りながら説明を続けた。

「オレオって、パッケージのようにこのままの形で食べられることが少なくて、大半の人は、この上の黒いクッキー部分を、下の白いクリームから剥がして食べるのが一般的なんだよね。」

「剥がして食べなればいけないの?」
お嬢は不思議そうに聞いてきた。

「そうしなければいけないってルールはないんだけど、オレオを手に持つと、剥がしたいという衝動に誰しも抗えなくなるんだよ。」

「わからないわ。このお菓子にそんな力があるなんて。」
お嬢はまだ理解に苦しむ様子であった。

「これを買って帰って、実際手に取ってみたらわかるよ、きっと。」

「う~ん。」

私はお嬢を無視して、なおも続けた。
「それで、クッキーとクリームをきれいに剥がすのにはコツがあって、左手で下のクッキーを持って、右手で上のクッキーを持ち、互いにゆっくり逆方向に回すと、クリームがクッキーに付かずに分離するの。ドアノブを回す感覚と似ているかな?」

「それをやって何になるの?」
とお嬢は聞いてきた。

「何にもならないよ。何にもならないけど、きれいに剥がせたときは、“勝ったー”って気持ちになるし、オレオ剥がしをジンクスとして利用してもいいかもね。きれいに剥がせたら、“今日は一日良いことあるぞー”とかね。」

「ふーん。」
お嬢はさして興味を抱かなかったようだ。

「他の友人にも聞いてみたらいいよ。オレオを剥がして食べたことがあるかどうか。1袋に入っている全部のオレオを、1枚も剥がさずに食べ終えた人は私は知らない。」

「わかった。聞いてみるわ。」
とお嬢は言った。

数日後、お嬢と再会すると、
「あのオレオの話だけどね。」
と言ってきた。

「やっぱり、みんなクッキーとクリームを分離して食べたことがあるって言ってたわ。」

私は、
「でしょー‼」
と勝ち誇って言った。

お嬢は、
「でも、私は、1袋全部を一人で食べたけど、最後まで剥がしたいという衝動にはかられなかったわ。」
と言った。

私は、
「無理してない?」
と彼女の顔をのぞきこんだ。

「いいえ、まったく。」
というと、お嬢は運ばれてきたミルフィーユを、ナイフとフォークを使ってきれいに食べた。

私もお嬢と同じようにミルフィーユをきれいに食べようとしたけれど途中で断念して、フォークだけを手に持つと、クリームと生地を別々に食べた。

お嬢は私をキッと睨み、
「抗いなさい!」
と目で訴えてきた。

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