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【小説】あと87日で新型コロナウイルスは終わります。

~妊娠している妻に付き添えない~

「わかりますけど!わかりますけど!どうしてもダメなんですか⁉」

男性が玄関先で受付スタッフに距離を置きながら話しかけていた。

「申し訳ありません。患者さん以外の方は皆さま入館をお断りしています。」

受付スタッフは冷静に答えた。

「やっとできた初めての赤ちゃんなのに……。」

その男性はうなだれて、駐車場に停めてある自分の車に向かって行った。

「エコー写真を持って帰るから。」

奥様らしき女性がそういうと、男性は振り返り一瞬笑顔を見せた。

⚫⚫クリニックでは、3月からずっと付き添いの方の入館を断っていた。

院長も事務長も断腸の思いであったが、新型コロナウイルスを院内に持ちこませないためには仕方のない措置だった。アキナも複雑な気持ちを抱いていた。

ほとんど家の中で過ごす妊婦さんとは違い、日本ではまだまだリモートワークが根付いていないため、会社勤めの男性の方が新型コロナウイルスにかかりやすい環境であった。

加えて、緊急事態宣言下ではないため、会社員の出張や接待はゼロではないし、今はいないとは信じたいが、奥さんの妊娠中に風俗店に行く旦那さんも存在した。

「4Dエコーも中止なんですよね? 再開の目処もたっていないんですよね?」

先ほどの女性が受付スタッフに聞いていた。

「そうですね。4Dエコーもすべて中止になっています。今は通常のエコーのみですね。再開しましたら、院内の掲示物、または、ホームページでお知らせいたします。」

彼女は悲しそうな顔をしながら、尿カップを持ってトイレに向かった。

4Dエコーとは、胎児の目や鼻や指の一本一本までが立体的に見られるエコーで、⚫⚫クリニックでも人気のサービスの一つだったが、赤ちゃんの顔や体の向きによっては上手く映らないこともあり、希望者が満足のいく画像が得られるまでに時間がかかるため、コロナ禍では中止していた。

こちらも、患者さん一人あたりの院内にいる時間を減らして、感染リスクを減らすための措置だった。

つらく長い不妊治療の末にできた子なのに、赤ちゃんに会えるのはまだまだ先だった。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと87日。

これは、フィクションです。

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