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【小説】あと77日で新型コロナウイルスは終わります。

~待合室の中の発達障害とマスク~

「あすこの子ども、マスクつけてないのできちんと注意してください!うちの子がマスクをつけてなかったときは、クリニックから追い出して車の中で待機されたくせに、不平等じゃないですか⁉」

受付の方から女性の怒鳴り声が聴こえてきた。子どもを連れたママが受付スタッフにクレームをつけたのだ。

「大丈夫?」

アキナが受付スタッフに声をかけると、受付スタッフは、

「大丈夫です。わたし、マスクをつけていない子どものママに注意してきますね。」

と言って、待合室の端に座る親子に近づいて行った。少しすると、受付スタッフが困り顔でアキナたち看護師に近づいてきた。

「あのう、あの子どもは発達障害でマスクができないんですって。どうしましょう?」

アキナたちは、患者さんたちから見えないところでタブレットで検索をした。

発達障害、マスク困難56% 感覚過敏、意思疎通に課題

2020/9/4(金) 18:50 配信 共同通信

肌に触れるのが不快、相手の表情が分からない―。

新型コロナウイルスの感染予防のためのマスクについて、発達障害がある人のうち56%が「我慢して着用している」「着用が難しい」と感じていることが4日、国の発達障害情報・支援センターの調査で分かった。

嗅覚や触覚が過敏だったり、意思疎通が苦手だったりする特性があるため。

世界保健機関(WHO)などは8月下旬公表の指針で、発達障害がある子どもは年齢を問わずマスク着用を強制しないよう推奨。

一方、厚生労働省は同月末、「2歳未満は着用を推奨しない」との見解を出したが、発達障害には触れておらず、対応が求められそうだ。



「発達障害の子どもにマスクを強制させるわけにはいかないのか。困ったな。」

アキナたちは悩んだ。

・あの親子は車で来ているわけではないので、車の中で待機してもらうことができない

・外の気温は30℃以上あるから、外で待機してもらうわけにはいかない

・他の患者さんたちに「あの子は発達障害があるから、マスクができない」というわけにはいかない


「院長と事務長に相談してくる。」

アキナは発達障害を持つ子どものママのカルテを持って診察室に向かった。

「どうだった?」

アキナが診察室から出てくると、同僚の看護師が聞いてきた。

「今回は取りあえず第3診察室で待機するようにだって。退出したら、もちろん消毒。」

そこは普段ほとんど使われていなかったが、毎年10月か11月くらいから春先まで、インフルエンザの疑いがある患者さんの待機所としても使われていた。



「ありがとうございます。ありがとうございます。」

発達障害を持つ子どものママは、アキナたちに頭を下げて何度も何度もお礼を言ってきた。



新型コロナウイルスやインフルエンザの疑いがある患者さんが増えてきたら、このクリニックの建物内にある個室数では対応できないし、かと言ってクリニックの駐車場にテントを張るスペースも予算も人員も確保できない。

「こんな行きあたりばったりの対応がいつまで続くんだろう。」

インフルエンザの流行と新型コロナウイルスの第3波を前にして、新たな課題が見えてきた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと77日。

これは、フィクションです。

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