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【小説】あと93日で新型コロナウイルスは終わります。

~ピンチをチャンスに~

木曜日はクリニックが休診のため、いつもより遅めに目覚めると、ベッドに横になったままテレビをつけて情報番組をぼーっと眺めた。

意識がどんどんはっきりしてくると、アニャホテルのアプリを開いて、今泊まっているホテルの中でいちばん安い部屋の料金プランを検索した。

一泊、素泊まり2,980円。

(さすが、アニャホテルの社長!)

『ゴールはもう少し!新型コロナウイルスに負けるなキャンペーン』と題されたアニャホテルのプランは他のどのホテルと比べても安いだけでなく、連泊すると外出中も荷物を部屋に置くことができたり、お風呂代も含まれていることを考えると、

カプセルホテルやネットカフェに泊まるよりも安かった。

アニャホテルの社長は、新型コロナウイルスが流行り出すと、『テレワーク日帰り応援プラン』『医療従事者 応援プラン』『新型コロナウイルスに負けるなプラン』『ゴートゥー使えない都民応援プラン』などを次々打ち出し、

他のホテルが倒産していく中でもホテルの稼働率を上げ続けていた。

「ピンチはチャンスか。」

アキナは、部屋に置いてあったアニャホテル社長の本に書かれていた一文をつぶやきながら、いつものように7泊分予約を入れ、アプリを使ってクレジットカード払いした。

午前11時前、フロントから電話がかかってきた。

「フロントです。お休み中、申し訳ございません。“今週も”ご予約ありがとうございます。本日の部屋の清掃はどうされますか。」

「今日はしなくていいです。」
アキナは気だるい声で答えた。

毎朝、部屋の外のドアに『寝ているので、清掃はしないでください』の札を貼り、ごみ箱とタオルと浴衣を出して置くのだが、安否確認をしているのか、ベッドで休んでいると11時前にフロントから電話がかかってきた。

(たぶん、私が仕事に行ってる間も、毎日電話を入れているんだろうな。このホテルのスタッフの間で、私は有名人……、じゃなくて不審者なんだろな。)

アキナはせめてもの抵抗に、アニャホテルに申し込むとき、領収書の宛名欄に、『⚫⚫クリニック』と入力していた。

(医師じゃあるまいし、准看にクリニックがホテル代なんて出す訳がないし。私はどう考えたって医師には見えないのに、こんな見え透いた細工をして、余計に怪しいよね。ほんとうに私は何をやってるんだろう。)

廊下からは、清掃スタッフが掃除機をかける音が聴こえてきた。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと93日。

これは、フィクションです。

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