再放送 ひとりそたぶ37 政権交代

孤独なスメル
コント/或る二大派閥の闘争にて生じた敗者とその逆転のお話

数十年前の選挙に於いて、きのこの山が選挙に敗れ、表舞台から姿を消した事は言うまでもない事実だろう。

たけのこの里ときのこの山の二大派閥の長きに亘って繰り広げられた闘争はあっけなく決着が付いた。

無理もない。選挙前に実施された大手新聞社によるアンケートの段階でたけのこの里派が全体の95%という圧倒的支持を得ていたのだから。

街の各地の演説でも必死に足掻いたが、誰一人足を止めてその声に耳を傾ける者など居なかった。酷い時にはたけのこの里をフルスイングでぶつけられた。

開票前に各地のたけのこの里派の候補者が当選確実を速報で連発したのは必然の出来事だった。

程良い口どけのビスケットとチョコレートのハーモニー。きのこの山には圧倒的に足りない部分が如実に闘争にて顕れてしまったのだ。

すぐさまコンビニやスーパーのお菓子売り場はたけのこ一色に染まってしまった。大多数の人間は諸手を挙げて万歳三唱した。

当然の事ながら敗れたきのこの山に人権など無いに等しかった。速報が出た途端にきのこの山が売り場から撤収され、間髪を入れず廃棄処分となった。

候補者と支持者達の肩身は狭く、きのこの山のチョコレート部分から棒ほどの細さに目に見えて縮こまってしまった。

ついには迫害に耐え切れずにたけのこの里派への宗旨替えを行った者、たけのこの里もとい人里から離れた山へ逃げる者、敗者のその末路は想像に難くないだろう。

こうして勝者と敗者、それぞれの暮らしに陽と陰がくっきりと出てしまったのだった。

 

 

 

しかし、人里離れた山奥の集落にてきのこの山一派は反撃のチャンスを虎視眈々と狙っていた。

迫害されたきのこの山一派は各地で落ち合い、そのネットワークを強固たるものにしていた。

たけのこの里と肩を並べていたあの頃の栄光を取り戻す、否、大多数のたけのこの里一派を追いやる。それこそが生き残り達の生きる糧だった。

様々な試行錯誤を繰り返した。お土産用に大きさを3倍にしたビッグサイズのきのこの山を開発したり、チョコ以外のフレーバーを生み出したりした。

しかしそんな彼等の努力を嘲笑うかの如く、たけのこの里側も土産用の5倍サイズの物を開発したり魅力的なフレーバーを世に送り込み、世間を虜にしたのだ。

「もう駄目だ……!!やっぱりたけのこの里には勝てないんだ……!!」誰しもがそう思い、諦めかけていた。

そんな彼らの士気を高める或る一報が山中に響き渡った。

「土産用のたけのこの里で窒息する事件が多発している」

これだ!ここを攻めれば大逆転が起きる!長年冷や飯、否、冷やきのこの山を食わせてきた奴等から政権を一気に奪取出来る!!と。

それからと言うもの各地のきのこの山一派は手を組み、連日たけのこの里窒息事件に関して執拗に責め、きのこの山の良さを隙あらばひたすらアピールした。

選挙では95%がきのこの山派になり、政権交代を実現させた。漸く山にも長い冬が終わり、暖かな春が訪れたのだ。

 

 
 

だが僅か数年で春は終わりを告げた。チョコレートが融けたと言っても過言では無いだろう。再びたけのこの里派が多数を占めたのだ。

たけのこの里派は長年築き上げた信頼と実行力があったが、きのこの山派は長年復讐を目的とするばかりでコレと言ったセールスポイントが無かったからである。

彼等の天下は短かった。そしてTENGAに入るきのこもまた、短かったのだった。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?