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「たてがみを捨てたライオンたち」白岩玄

こういう、アラサー男子たちが主役の小説って、読むの初めてでした。

妊娠中の妻から“主夫になってくれないか”と提案された夫 直樹。お金もあるし女性にもモテるけど、離婚して以来、人生に虚しさを感じているエリートサラリーマン 慎一。女性関係にトラウマを抱え、自分に自信が持てないアイドルオタクの公務員 幸太郎。

3人それぞれ全く違うキャラだけど、全員が共通して「男はこうあるべき」という既存の価値観に囚われて、そこから抜け出せずに悩んでいる。

武田砂鉄さんのあとがきが面白かった。昨今の女性の立場向上の潮流の中で、「男もつらい、男もしんどい」と言われることが増えてきたけど、この「も」を使って、女性の苦しみと対等に並べて議論を終わらせることこそ、男性優位性の表れだ、と書かれていた。

今のアラサー世代にとって、恋愛、就職、結婚といった様々な変化があったであろう過去10年は、男女の役割に大きな変化があった10年でもあったと思う。男性にとっても女性にとっても、これまでの常識が徐々に形を変えていく、その変化についていくのが大変だったはず。

例えば子育てに関して言えば、イクメンという言葉が流行り、家事や育児をやる男性が称賛され、そこから更に1歩進んで、夫だって家事や育児をやって当たり前、という認識に変わり、当たり前のことを「イクメン」とちやほやするのは間違っている、という風潮に変化していった。

男性が育児休暇を取る例も増えてきている一方、彼氏や夫には自分よりも稼いでいてほしい、と思う女性は未だに多い。結婚しても共働きを求める男性が増えた一方、料理や育児は妻に任せている男性もまだまだ多いだろう。

作者の白岩玄さんも、小説の主人公たちと同年代。小説家としての収入の増減によって男としての自信を左右される自分を、直樹に重ねて描いたらしい。

男らしく、女らしく、そう言われて育ってきたアラサー世代は、自分で思い込む「らしさ」にがんじがらめになってしまう。もっともっと時代が進めば、性別を超えて、得意か不得意かで役割分担できるようになるんだろうか。

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