命日

とても大切な人の命日だった。
ただの職場の先輩、ただの普通の人。
なんなら、モテない、見た目は冴えない31の男だった。

大きい人だった。
真面目だった。愚直すぎるほどに。
朝早く職場に来て、遅くまで自分なりに納得いくまで仕事をしている人だった。

何度も飲みに行った。職場の愚痴や誰かの悪口なんぞ、彼の口から聞いたこともない。

下ネタと最近あった良いことと、趣味の話と。


僕は当時、ODから逃れられずにいた。
ODもそうだが、何かしらの罪の意識と自身への吐き気と。
罪の意識なんて言っても、法なんて犯してもいないし、
ただただ仕事をこなして、週末は部屋で過ごしているだけの男だ。
しかし、何か自分の気色悪さというか、自分がそこに在ることに対して、
言葉では言い表せない気色悪さと、寂しさがあり続けた。

当時も学校で教えていた。アル中だった、完全な薬物中毒だった。
常に情緒不安定だった。クラスや授業ではそれは出していなかったと信じている。
それに勤務先は工業高校で、明るい、素朴で活発な生徒が多くて彼らからは常にエネルギーをもらっていた。僕には過ぎた、恵まれた環境であった。

何が自分をそうさせるのかというと、物心ついた時から、薄皮一枚隔てて、オブラートに包んで周囲と相容れない自身のしょうもない自意識というか、
いや、もはや分からない。悩みとやりにくさの糸が玉状に絡んでいる。
頭を空っぽにして、改めて向き合っていきたいが。
それができないから、ODや酒なんぞに頼っている。

とにかく死にかけた。自死を考えた。
自死を考えてもうあと一歩というところで、
僕の先輩はいつも通り、僕に声をかけた。
「いつもの悪いもの、食いに行こか。」


ホルモンから揚げである。
ホルモンを油であげた、シンプルに悪い食い物である。うまい。
うまかった。

うまかったし、俺はここに在るんだ。そして、照明の薄明りのもと、
この人や、生徒、職場の方たち、数少ない友人とやっていくのだと思った。

そして、俺は助けられた。
そして先輩は、俺を助けてくれたが死んだ。
死んだが、消えてはいない。

臭い話になってしまうが、俺は、俺で俺の生をやっていくしかない。
俺の生を暖かく、何気ないところで照らし続けてくれている先輩。
I先生。

俺の中では絶対消えない。消させない。

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