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笑顔が見たいから

 ヘリコプターの遊覧飛行は10分で4万円くらいかかるとても贅沢なアトラクションです。でも飛行機と違って、空を飛んでいるという感じがストレートに伝わってくるし、何万人もの人々の暮らしが空からいっぺんに見えるので、たった10分間だけど人生観が変わるほど感動するものだと言われています。私も若い頃、一度だけ友人と一緒に阿蘇の空を飛んだことがあります。眼下に広がる雄大な景色に、本当に感動したのをよく覚えています。

 ある人が東京の夜景を見るためにヘリコプターの遊覧飛行に参加して、たった10分間のフライトだったけど、やっぱり小さなことにくよくよせずに前向きに生きていこうと生まれ変わったような気持ちになって地上に帰ってきたそうです。そこでパイロットにこう声をかけました。「パイロットさんはいいですね。毎日こんなすてきな景色を眺めることができて。」するとパイロットはこう答えました。「いえいえ、私たちは毎日お客様の安全だけを心掛けて操縦に集中しておりますから、景色を楽しむ余裕なんてまったくありません。でも一つだけ、毎回すてきなものを見せていただいております。それはお客様が喜んでおられるその笑顔です。」

 この話を聴いて、自分のことを振り返ってみました。

 私は学校の先生になって37年が過ぎようとしています。どうして学校の先生になろうと思ったのか。考えてみると、たしかに子どもは好きだったけれど、教育を変えたいとか、生徒の学力をつけたいとか、そんな大それた理由ではありませんでした。私は小学校の頃、学校が大好きな少年で、放課後もよく学校に残って遊んでいましたが、夕日が校舎にあたってオレンジ色に染まるのを見るのが大好きでした。こんな景色をずっと見ることができたらどんなに幸せだろうか、そんな単純な動機で学校の先生になりたいと思いました。

 でも、現実はそんな甘いものではありません。毎日いろんなことも起こるし、つらいことだっていっぱいありました。そのかわり、学校にはものすごくうれしいことがあります。だから辞めないで37年間この仕事を続けています。それは生徒が今日も学校が楽しかったと笑顔で帰っていく姿を見ることです。ここにいる先生みんな同じだと思います。遊覧飛行のヘリコプターのパイロットと同じです。

 2023年、生徒のみなさんが「今日も学校が楽しかった、おもしろかった」と言ってもらえるように毎日がんばろうと思います。今年もよろしくお願いします。

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