【私的リブリオエッセイ論】 エッセイにはアレを書け!


この本の著者は編集者である。


▼2023年9月ふみサロ課題本


「パン屋ではおにぎりを売れ 柿内尚文」かんき出版

 ▼本文


エッセイにはアレを書け!

 終わりよければすべてよし……と、乗っけから”終わり”という言葉で始めてみる。駄作が一編もないと評されている小説家の三島由紀夫は、小説を書き始める時、まず一番最初に決めるのが、結びの1行だったと言われている。その作品で訴えたい世界観を明確に確定させてから、全てがそのフィナーレに向かって進んでいくように書き上げていくというのである。なるほど、確かにこのように書き上げていけば読者を、最後に何を訴えたかったんだろうかと路頭に迷わせてしまうような迷作は生まれるはずがないだろう。

 最初が肝心……とも、よく言われる言葉である。その文章を評価する為に読んでくれている先生や同僚なら、どんなに平坦な出だしで書き出しても、一応最後の最後までは人情で目を通してくれるだろう。しかし、その読者が、作者と全く関係のない人だった場合、興味を引かない書き出しだったり、理解に苦しむような内容から始まっていると、途中で離脱し、最後まで読んでもらうことは難しい。冒頭部分の重要性は、いくら強調してもしすぎる事はない。最大限の知恵を振り絞って書くべき部分だろう。

 エッセイには、アレを書け……アレとは何か? 優勝経験に匹敵するような、深く感動したり、人生を変えるターニングポイントになったような出来事。常識とは違う、著者独自のユニークな視点。普段は恥ずかしくて話したくないようなエピソードほど、エッセイのネタとしては最適である。大切なのは、実際に体験した出来事について書くこと。平凡な日常を描写する場合でも、捉える視点を常識的な視点とは少しずらして非凡な、非日常な視点から面白おかしく描ききる筆力があれば、特別な事は何も書いていなくても面白い作品に仕上げられる場合もある。好ましくないのは、体験してもいない話や、また聴きしただけのような話を、想像だけで膨らまして誤解を含めて書いてしまうような場合ではないだろうか(いわゆる嘘っぽく感じる文章、説得力に乏しい文章という奴である)。

 あらかじめ課題本が設定されている場合には、どう書くか?……本と関連したドラマティックなエピソード等を持ち合わせている場合は、ガチでそのエピソードを元に執筆する。そのような体験が何もないにも関わらず、それでも書かなければならない場合は、実験的手法で新しい書き方に挑戦するのも策である。草野球ならストレートしか投げられない投手でも通用する。高校野球なら、ストレートとカーブが投げ分けられれば何とか通用するかもしれない。しかし、プロならどうか。ストレートの質がいいのはもちろんの事、変化球も何種類も投げ分けなければ話にならない。物書きだってそうだ。多種多様な書き方を使い分ける事ができてこそプロのライターだと言えるのではないだろうか?

▼今回の作品の執筆意図


「パン屋ではおにぎりを売れ」は既読で、かつ、今では何が書かれていたかさえ既に忘れていた本だった。しばらく思い出せなかったが、ちょうど「24色のエッセイ」の編集委員・編集長をおおせつかっていた頃に読んだ本だったという事を思い出した。ということは、今回の課題本に書かれているノウハウは、「24色のエッセイ」編集時に少しは応用して、活かしていたような気がするのである。「24色のエッセイ」編集中に、私はミニエッセイ講座を挿入し、181ページに全集中「ふみ」の呼吸を会得せよ!という部分を書いた。その頃よりは多少スキルも進化している。それらも踏まえた上で今月は、現時点でのエッセイ論を書いてみる事にした。

▼ふみサロ入会直後の1年以内と現在で、書き方はどう変わっているのか?


 入ったばかりの頃は、普通に前から順番に書いていって、全部書き終わってから、音読して推敲して、微修正していた(最後に文字数を削るなど)。

 今の書き方は違う。書き方には型がある。起承転結、起転承結、序破急、その他のマル秘型など。「パン屋ではおにぎりを売れ」を読んでから以降は、エッセイを書く前にA4用紙1枚の中に手書きで線を引いて、話の流れをシミュレーションしてから書くようになった。このアイデア出しの段階については、パソコンは使わず、必ず手書きにペンで考える。

 まず主題を決めてから、それにつながるネタをどんどん箇条書きにして一覧にする。起承転結で書く場合は、まず「転(一番盛り上げる所)」で何を書くかを決めてから、「起→承」の部分に持ってくるネタを決め、その時点で書き始める。文字数をある程度気にしながら「起→承→転」まで、だいたい600文字ぐらいのペースで書き、その流れが自然だった場合は「結」の部分に書きたい内容は、自然に決まる事が多いので、最後に約200文字ぐらいで「結」を書く。そうすると、800文字前後ぐらいで自然な流れのエッセイになる事が多い。

 しかし、毎月毎月、そんなに上手く行くとは限らない。「起→承→転」まで書くと、あと残り200文字前後しか書けない。その時点で、このままでは納得のいく「結」を書くことができないと思った場合は、いったん、そこまで書いた文章は全部捨てて、また最初から書き直しするのである。違うエピソードにして、もう一度「起→承→転」まで書いてみる。その時点で、この流れなら、納得して一番最後の「結」が書けると確信できた場合にのみ、最後に「結」を書いて着地させるのである。最近は、このパターンで書いている事が多い。

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