見出し画像

ぼくが出版社として書籍を発刊するまで

みなさんこんにちは、ひとり(じゃ何もできない)出版社・烽火書房の嶋田翔伍と言います。出版社名でほとんどのことを紹介してしまっているような気もしますが、ひとりで、出版社をやっています。やり始めました。

烽火(ほうか)というのは、「のろし」のことで、「大きな出版社やテレビとか新聞みたいに、あっという間に大量の情報を伝達したりはできないけれど、必要な時に必要な人にしっかり届くような言葉を紡いでいきたいな」と思って、名付けました。

初の書籍は『Go to Togo 一着の服を旅してつくる』という一冊です。ぼくと同じく29歳の青年が、単身アフリカと京都を行き来してものづくりをする奮闘記です。ちょうど今日、2020年4月30日に発売開始です。

さて、出版社ってどうやったらつくれると思いますか?なにができたら出版社って言ってよいのか。そもそも出版社って何をしているのか。『Go to Togo』発刊までの僕の道のりを振り返りながら、そんな疑問について考えてみたいと思います。

<出版社採用されないし、自分でやろうかな>

わりと普通の大学の文学部にいた僕は、やりたいことも特になかったのですが、漫画編集は興味あるなと思って試験を受けたところ、当然全社不採用。「大学で映画つくってたなら、そっちの道行かないの?」とか聞かれて答えに詰まったりしました。
まあなんとか大阪の出版社に入ったのですが、商業出版ではなく、企業の書籍をつくるような部署でした。言ってみれば制作会社に近いかもしれません。そのまま会社にい続けることにも疑問を覚えて、退職。転職活動も並行してやっていましたが、あまり身も入らないので、フリーランスでやりながら「自分で出版社をやろうかな」と漠然とスタートを切りました。
どうすれば出版社を始められるのかの知識はありませんでした。ただ「ひとり出版社」というのがあるらしい、ということだけ知っていました。島田 潤一郎さんの『あしたから出版社』(晶文社)がぼくのお手本でした。

<参考書を買い漁る−出版の勉強開始>

会社をやめてなんだかんだ編集制作の仕事をして一年か二年過ぎた2019年。もっと編集のことを学ばないといけない、とふと思い立ち勉強を始めました。
出版社の勉強って言ってもよくわからなかったので、とにかく参考になりそうな書籍を買うことにしました。そうして情報を得た結果、「面白い本をつくる」ということが編集の仕事なのだとしたら、出版社をやろうと思うとそれは前提として「流通の壁」と「制作費用の壁」の二つがありそうだなと気がつきました。
詳しくは書きませんが特に「流通の壁」が問題で、いまより少し前だと極端な話「どう頑張っても、新規の人とは取次(卸売問屋)さんが契約してくれない」状況だったようです。つまり新しい出版社は書店に本を並べることすらできない。そこから少しずつ事態が好転(業界自体が変革を求められる悪化状態だったともいえる)していき、門戸が開かれていく過渡期にあるようでした。「まあ、無理すればなんとかなりそう」。

<小さな出版社の生存戦略−イベントで調査>

さて勉強がてら読んだ本の中に、『小さな出版社のつくり方』(猿江商會)という一冊がありました。この本ではひとり出版社を含む小規模な出版社がどのように誕生したのか10数社紹介されていきます。いくつかの例があって勉強になったこともさることながら、ちょうどタイミングがよくて、この書籍の続きになるようなかたちで「小さな出版社のつづけ方」というイベントが東京の田原町のReadin’ Writin’ BOOK STOREさんで始まったのでした。
連続イベントで、二ヶ月に一回開かれて、いろんな出版社さんの話を聞くことができるよう。他の仕事で東京に行く用事もあったし、会いたい人もいたので、このイベントのタイミングで上京することにしました。他にも出版社系のイベントに顔を出しながら、少しずつ「面白い本をつくる」「流通の壁」「制作費用の壁」について、活きた声を聞いていきました。本づくりってそんなに(たくさんは)儲かる仕事ではないようで、いろんな生存戦略があることもわかりました。

<商業出版の現場−出版社インターン>

ある日、東京の国立にある小鳥書房という出版社で「編集を学べるインターン」を募集されていることを発見。しかも本屋さんもやっておられ、商業出版のことを出版社側と書店側から学べるチャンスだと思いました。
たまりにたまった疑問点と不安を抱えながら、国立へ。快くインターンとして迎えていただき、現場の空気に触れながら仕事をすることができました。本が完成するということになったら、どうやって広報していくのか。プレスリリースをつくったり、書店用の注文書をつくったり。書店営業ってどういうことをするのかなど。また取次さんとのやりとりや、価格と正味の設定など、小さな出版社が仕事をするうえでの現実的なラインも教わりました。
この時まとまった期間東京にいることになったので、何もないときには、書店巡りをしていました。自分なりに面白い本屋さんをまとめて、本屋さんマップもつくったりしてみました。

<小さなかたちでやってみよう①−間借り書店の開始>

わりと知識は得られたので、ちょっと自分でもやってみたくなって、まず手始めに京都でお店を始められたばかりだったBut not for meというところで、ひと棚を間借りして、書店を始めてみました。
仕入れる側になったわけですが、古本だと並べるだけになっちゃいそうだし、新刊と言っても取次を経由して出版社から取り寄せることも難しい。というわけで、直取引というかたちで、出版元から直接仕入れることにしました。

言ってみれば、直取引が可能な版元の本のみを扱おうというイメージです。ぼくはそもそもリトルプレスとかZINEとかが好きだったので、「直取引」で「買取」に絞って、そういったものを中心に仕入れて版元さんの振る舞いや価格などの条件を勉強させてもらうことができました。直取引だと、取次さんが間に入らず色々円滑に仕組みづくりしてくれている部分がないので、不便です。その代わりに仕入れ値自体は安くなります。取引には「買取」と「委託」があって、まあ他の業種でも近い呼び方があるかもしれませんがそれぞれ値段と条件が異なります。
すごく細かい話でいえば、例えば、最低仕入れ冊数を一冊と希望した場合、送料もかかってわざわざ取引が始まったのに、利益がそれほど出ないので、「最低仕入れ数3冊以上」というように指定している本もありました。このへんも戦略というか、どのようなかたちであれば売れるかという読みと、どういう風に書店で扱ってもらいたいかという意思が、反映されていきます。

<小さなかたちでやってみよう②−リトルプレス発刊>

次に、実際に書店で置いてもらえるような一冊をつくってみようと思い「リトルプレス」を自分でもつくってみることにしました。というか制作自体は思うところがあって結構前から始めていたのですが、気づけばちょうどこのタイミングと重なったのでした。
本をつくって価格を決めて、条件も決めて、注文書をつくり、書店さんに回ってみました。「のろし vol.01」という一冊で、300部限定の手刷り手貼りの表紙の本になったので、利益が出るようなものではないのですが、これまで学んだことを総動員しつつ、本を置いてもらうということがどういうことかを体感していきました。
「のろし vol.01」は今も絶賛(?)発売中ですので、いろんな方にぜひ手にとってほしいなあと思っていたりもします。

<いよいよ発刊>

そんなこんなあり、ようやく本日『Go to Togo』発刊です。この本が出るまでの制作と広報にかかわる奮闘は、別のところで記述しています。
偶然といえば偶然ですが、学びの年だった2019年を経て、2020年は本格稼働の年と言えるかもしれません。飛躍の年、とかいえたらよかったのですが、現状コロナの影響があって、学んできた営業方法や販売方法があまりうまく機能していないので、前途多難だったりもします。
とはいえ、ひとまず発刊です。この記事で語ったことをまとめると「ひとりで出版社はつくれます」。勉強は必要かもしれませんが、不可能なことではなさそうです。ただ続けていくのは難しそうです。続けていけるよう、頑張っていきたいと思います。

https://kakezan.thebase.in/items/26965731

書籍にご興味持ってくださったかたは、ぜひこちらからご購入いただけると幸いです。