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毒々しくも生々しい、出版界の一片を知ることができる一冊 2013年5月10日

              
 おはようございます。自称「苦笑した女」神垣です。

 「内幕もの」

 というのでしょうか・・・

 今日、紹介するのは
 百田尚樹氏の「夢を売る男」です。

 自分の名前が冠された本を
 生涯に一冊は出したい!
 と考える人は多いわけでして……。

 しかも、それが
 自分でお金を出して出版する自費出版ではなく
 出版社から刊行され、日本全国の書店に配本される……
 となれば、「是が非でも」と願う気持ちになることでしょう。

 こうした出版という「夢」を
 しかけ、巧みに繕って「売り」、
 利益を得る男の話。

 本の帯には
 「注意! 作家志望者は読んではいけない!」
 とあり、かなり挑発的です。

 「出版界を舞台にした掟破りのブラックコメディ!」
 という帯の一文に、思わず
 「内容がリアル過ぎて、笑えんじゃろ~!」
 と一人、ツッコミを入れてしまった私です。

 著者と出版社が資金を出し合って
 本を刊行する「ジョイント・プレス」方式を巧妙に持ちかけ
 利益を出し続ける丸栄社の敏腕(?)編集者
 牛河原が本書の主人公です。

 百田さん、
 出版界の現状と仕組みを赤裸々に
 誰はばかることなくバンバン描いてます。

 本書の版元が太田出版という、
 中堅どころというのも
 うなづけます。

 だって
 ○談社とか、文○春○からは
 決して刊行されないであろう内容ですから。


 曲がりなりにも著書が数冊あり
 東京の出版社とあい対してきて
 その趨勢を垣間見てきた一人として
 「確かにねぇ」とため息が出る記述が
 幾つもありました。

 本書に描かれていることが
 真実と言いきれないまでも
 嘘ではない、と思うし

 実情をデフォルメして
 小説として面白く読めるように
 うまく仕立ててあるとも思いました。

 なによりリアルと感じたのが
 物語に何人も登場する、
 丸栄社にとっての「カモ」たち。

 作家志望の若者、主婦、地方の名士
 といった面々です。

 編集者の牛河原が言葉巧みに迫れば
 気を良くしてお金を出して
 出版を夢見る……

 売れたら、いくら印税が入るかという胸算用をし
 自分がベストセラー作家になったら、
 と「たられば妄想」にうつつを抜かす……

 自分の著作が世に出る!
 となれば、十中八九
 誰もが思うことなんです。

 わたしもそうでしたもん。

 本書を読み終えた感想は
 「虚実ないまぜで面白い!」
 に尽きます。

 出版に興味のある方は恐がらずに
 出版に興味のない方は面白がって
 ぜひ、ご一読を!

 毒々しくも、生々しい
 出版界の一片を知ることができます。


 百田さんの著作
 わたしは本書が初めてでした。

 「永遠のゼロ」「海賊とよばれた男」を
 たて続けて読んで、3冊目に本書を読んだ
 うちの夫からの推薦で、手に取りました。

 読んでみて
 「売れるはずだよなぁ」というのが正直な感想。
 文体というより、テーマで読ませる作家と思うからです。

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VOL.1945 2013年5月10日配信 メールマガジン あとがきより)



 





                    

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