Shigeyuki Oba

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最近の記事

Dennett の Intentional Stance について

Dennett という哲学者が提唱する Design Stance とか Intentional Stance という概念について調べてみました。きっかけは、僕に返答いただいたこちらのツイート。 英語 wikipedia で Intentional Stance に関する記事を見つけて deepL でザクザク翻訳しながら読んでみたところ、ある程度わかった気になりました。 スタンス (stance) というのは、ひとが身の回りの物事を理解する様式を決める姿勢のことを指してい

    • 他者モデルのモデルを絵に書いてみたい

      僕らは他者と互いに話し合い、議論をし、お互いに共感を得たり、決裂したり、お互いにとって新しいアイディアを得たりします。これは、僕らのなかに他者がいるからです。でも、僕の中に他者がいるとは、より正確にはどういうことでしょう?本稿ではこのテーマで考えてみます。 このテーマについて、主に神経科学・認知科学的アプローチからの研究をまとめた「脳のなかの自己と他者」(2019年 島田総太郎 著)という本があり、参考になります。とくに、4章ではミラーシステム、5章では心の理論、6章では自

      • 人格と人間扱いの恣意性について

        あなたの人格って、本質的にはあなた自身の中ではなく、あなたの外にあるっていう話をします。 擬人化というのは、人間ではないものを人間扱いすることです。 人間扱いというのは、対象が人間であるかのように認識し、人間であるかのように操作することです。もうすこし具体的には、対象が人間であるとき、人格を持っていたり、感情を持っていたり、傷つきやすいプライドを持っていたり、財産を持っていたり、記憶を持っていたりすることを想定しますよね。これらが「対象が人間であるかのように認識」すること

        • 最近読んだ本(2) 2021-08 〜 -09

          最近読んだ本を順不同で軽いコメントつきで並べてみる企画の第二弾。 読めた/読めなかったを判定しない。読めなかったとき、自分を責めない、本や著者を責めない。「良い書評」のようなものを書こうとしない。でも、すこーしだけ、コメント読者のことも意識する。すると、こんな感じになります。 池田喬「ハイデガー『存在と時間』を解き明かす」オリジナルの「存在と時間」を読もうとして挫折した経験が数回あり、解説本を読もうとして挫折した経験も数回。やさしく書かれているという評判を聞いてポチって届い

        Dennett の Intentional Stance について

          最近読んだ本 2021-08-08

          最近読んだ本を、軽い書評(と amazon アフィリエイトリンク)付きで載せてみました。積読中のものもとりあえず載せておきました。読み終えたらコメント入れます。 「(日本人)」 橘玲 橘玲さん本は間違いねぇや、というマイブームに乗ってエイヤと買って読んだ本。日本人とは?ではなく、日本人論とは?にフォーカスを当てる工夫は成功してると思う。藤原正彦「国家の品格」に対する批判がとくに面白かった。 「無理ゲー社会」 橘玲 橘玲の最新刊。まだ積読中。 「絶対可憐チルドレン(6

          最近読んだ本 2021-08-08

          世界モデルのモデルと物象化の問題

          先日、WBAI勉強会でプログラム委員長(開催テーマや演者を設定する役割)をする機会をいただき、その立場特権を使って北海道大学CHAINの田口さんと吉田さんに無理を言って講演をお願いした。(WBAI山川さん、田口さん、吉田さん、WBAIの皆様、その節はたいへんお世話になりました!!!) このときの議論はなかなかに白熱して、自分のなかにいろいろなものを残してくれたのだけど、平気そうな顔をしつつも案外プレッシャーを受けていたらしく、終わってホッとしてすこし燃え尽き気味の心理状態に

          世界モデルのモデルと物象化の問題

          予測処理と予測符号化とFEP

          「FEP的な話題」とか「FEPが対象にしている問題」という言葉遣いの隔靴掻痒感が嫌で、ぴったりした言葉を求めてこちらのスレッドで話していたら、 スレッド外でこのような論文紹介をいただきました。 Williams, D. (2020). Predictive coding and thought. Synthese, 197(4), 1749–1775. https://doi.org/10.1007/s11229-018-1768-x この論文のテーマは、予測符号化と思

          予測処理と予測符号化とFEP

          近況のご報告

          これまで12年ほど勤めた京都大学を2020年3月末付けで辞職して、4月1日からミイダス株式会社HRサイエンス研究所のシニアリサーチャーとして働くことになりました。これに伴い、京都から横浜に引っ越しました。 ミイダス株式会社は、求人サービス大手であるパーソルグループが2015年11月に作り出した転職求人サービス「ミイダス」を中心に、2019年4月に分社化によってできた新しい会社です。HRサイエンス研究所は、ヒューマンリソースをひろく題材とした研究を行うための部署として2020

          近況のご報告

          レジリエンスと反脆弱性

          ひとに反脆弱性について説明するさいに、僕は Netflix における Chaos Monkey の導入事例の話を好んで例に出す。しかしこの例はレジリエンスを語る典型例にもなっているらしい。そもそもレジリエンスと反脆弱性はどういう関係にあるんだっけ? まずレジリエンス resilience は心理学用語としてすでに広く使われている用語であり、反脆弱性(はんぜいじゃくせい antifragility) はタレブが著書や講演で独自に広めようとしている造語である。レジリエンスは有名

          レジリエンスと反脆弱性

          Active Inference (能動推論)に関する誤解

          神経科学界隈で自由エネルギー原理 (Free Energy Principle; FEP) と言えば、Karl Friston が脳における予測符号化計算モデルについて行ってきた一連の研究の中心的アイディアを指す。注目されるべき大事なアイディアの宝庫であると思うが、期待が大きすぎて誤解と幻滅を生む要因になっている感もある。とくに Active Inference (能動推論) に関する誤解について、2点整理しておきたい。 なお、以下のトピックの一部は上記の「自由エネルギー原

          Active Inference (能動推論)に関する誤解

          Enactivism とは?(wikipedia調べ)

          おおばさんは enactivist だったんですね?と言われて、それが何を意味しているのか全く分からなかったのでちょっと wikipedia の記述を読んでみました。 Enactivism は cognition が行動者とその環境のダイナミックな相互作用から生じると主張する。 ふむふむ。認知(cognition)は環境から独立には生じないし、環境との静的な相互作用だけからは生じない、と言ってる。当然のように思えるけどな。いや、パターン認識から生じる文字形状とか文字種の認

          Enactivism とは?(wikipedia調べ)

          主体性と悪意とハンロンの剃刀

          自己や他人の主体性について、悪意とハンロンの剃刀の話題をネタにして整理してみます。世界モデルの恣意性も合わせて考えることで、問題の在り処がだいぶはっきりすると思います。 (2022-07-09 読みやすさ向上のため、主旨が変わらない範囲内で少し書き直しました。) ハンロンの剃刀とは事例1:前から来た男がすれ違いざまに水たまりにばちゃーっと足を突っ込んだせいで自分のズボンが泥をかぶり、相手から「あーーっゴメンナサイーッ」と謝られた。 事例2:同じ会社の新入社員から送られてき

          主体性と悪意とハンロンの剃刀

          主体性と世界モデルの関係について

          世界と他者と自分はどういう順番で生まれたものだと言えるだろうか?動物(としての人間)が世界を理解する枠組みは、進化的な合理性から脳内に生まれ・育ってきた計算過程として理解されるべきだと思う。この観点から、他者や自己の主体性について、これまでに考えてきたことを説明してみたい。長らく温めていながら、これまでうまく言えずにいたことが、ようやくうまく整理されて言えるようになった気がするの。(なお、心理学・哲学・神経科学・人工知能・ロボット、そこらへんの話題です。ビジネスとか心理療法と

          主体性と世界モデルの関係について