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展覧会レポート かがくいひろしの世界展 イルフ童画館

会期 2023年6月15日(木)〜9月16日(土)

初夏に諏訪湖観光も兼ねて訪れた展覧会「かがくいひろしの世界展」。

かがくい氏のベストセラー絵本「だるまさん」シリーズは、乳幼児期の子に関わる人の中での知名度は非常に高く、大型絵本で読み聞かせをすれば、0、1歳の子どもたちは、体を揺らしたり、興味深そうに見つめたり。出産祝いに贈ると他の人との贈り物と被るから避けた方がいいとも言われてしまうくらい、大人気の絵本である。

こちらのシリーズは1冊目「だるまさんが」が2008年に発行されてから3冊で現在900万部を発行。1967年に発行された松谷みよ子の「いないいないばあ」が735万部、同年に発行された「ぐりとぐら」が551万部と思うと、3冊合わせてとはいえ、だるまさんシリーズの爆発力のすざましさが窺える。

そんな魅力的な絵本の作者「かがくいひろし」に迫る展覧会が長野県で開催。概要は下記記事が分かりやすい。


新日曜美術館で放映されていたこともあって、開館前から並ぶ私たちの列は緩やかに長くなっていった。

イルフ童画館って?

入館前の待ち時間に訪問先のイルフ童画館とは?をwebで検索。

武井武雄という岡谷市出身の絵本の挿絵(童画)作家で、銅版画なども手掛けていた児童文学発展に貢献した芸術家を称えて建設されたのがイルフ童画館。1998年開館で、入り口にある喫茶店「ラムラム」も、なんとなくおばさまおじさまが通いやすい味のある平成初期を感じさせる喫茶店だ。

「イルフ」は「フルイ」を逆さまに読んだ、武井氏が作った「新しい」の造語とか。
後世に生きる人たちを激励する場所として設立され、地元にも還元されてるんだなと思うと、どんなおじいちゃまだったのかなーと思ったり。

武井氏の作品

さて、かがくいひろしの世界展へ

かがくいひろし 略歴

かがくい氏は、東京学芸大学教育学部美術学科を卒業後、28年間千葉県の特別支援学校の教員として働く傍らで人形劇団にて公演を行ったり、劇団で使用する人形や小道具も製作。
美術を学んでいたのになぜ特別支援学校へ?と思うけれど、かがくい氏に障害を持つ家族がいた(お姉さん)ことが影響しているのかも、とのこと。

とにかく「子どもたちを喜ばせたい」という思いに溢れ、障害を持つ子どもたちの反応を引き出すべく尽力し、心の機微を推しはかる日々を過ごして、50歳で新人賞を受賞し絵本作家デビュー。4年間で16冊という怒涛のスピードで制作。54歳という若さで病に倒れこの世を去る。

展示内容

絶版になることもなく、現在も発行し続ける16冊全ての原画が会期中に入れ替わりながら見ることができ、さらにアイデアノート(81冊)、ラフの状態での未完の作品なども展示されていた。

新日曜美術館で放送された、偕成社の編集者さんが見せてくれた未完の「ぞうきんがけとぞうさんがけ」は、是非ラフを見てみたいと思ったけれど、残念ながら展示されてなかった。

調べてみたらこの「ぞうきんがけとぞうさんがけ」は、2010年の3月号雑誌illustrationの綴込み付録冊子としてラフのまま発行されているとか。

「ぞうきん」みたいな日の目を見ることのない存在を主人公に。そんなかがくい氏の思いが詰まった作品。ぞうきんを素直に受け入れているぞうさんに考えさせられる部分も。

また、展示の中でも私にとって垂涎もの

西村敏雄氏とのコラボ!

「バルバルさん」は私にとっても思い出の絵本。だるまさんの「け」をバルバルさんが切ってるなんて可愛いすぎる。

その他にも、ラフで未完の「だるまさん」シリーズ。「だるまさんぶくぶく」「だるまさんがころころ」では、擬音と見事にマッチするだるまさんの表情と動きや質感、かたちにほっこり。だるまさんの並び方とリズム感が見事で、読むのが楽しい。発行されなかったのがとても残念。

さて、かがくい氏が大学時代、寮のベットサイドに貼っていたというメモも展示されていた。こちらは学生時代からの友人、水島尚喜氏(聖心女子大学教授、絵本学会理事)が、かがくい氏から譲り受けたもの。

ドイツ、ビールフェルト ベテル施設 修道女の言葉

ベテル施設は福祉施設で、ナチスによる重度障がい者の安楽死政策に抵抗したという。この背景も含め、かがくい氏はこの言葉を自分の生きる指針にしていたのかもしれない。

かがくいひろしという人

最後に、かがくい氏の妻、久美子さんの言葉を三女と読み進めて、三女と共に涙が止まらなくなってしまった。
胸を打たれたのは、かがくい氏が悲観論者だった、という部分。物事を悪い方へクヨクヨ考えてしまう傾向があり、若い頃の作品は悲しい部分が前面に出た作品が多かったとか。
反応がないと悲しくなってしまうから、どうしたら人の反応を引き出せるか、どんな表現をすれば人を楽しませて笑わせることができるかを考え抜き、反応を得ることで、自身も癒やされていたという。また、最後に綴られる久美子さんのひろし氏への深い愛情と喪失感の言葉に心が苦しくなる。

「だるまさんが」の絵本の重版が決定した時も「そんなに刷っちゃって大丈夫?」と心配していたというエピソードを思い出した。

悲観論者だからこそ、人への痛み悲しみを思いやることができる。
自分の創作が巡り巡って自分の癒しになる。
I’m happy to make others happy.
長女が初めてのヘアドネーションの際、拙い英語で語った言葉を思い出す。

展覧会の力の入れ方が素晴らしい

1階のイベントスペースは板張りになっていて、壁一面に映像が投影。映像はだるまさんがだけでない他の作品も映像化されており、映像の呼びかけに応えて一緒に体を動かしながら楽しむ仕掛けも。

小さな子から、障害を持つ子まで、子どもたちの反応はさまざまで楽しそう。仕草があまりにも可愛らしく、思いの外長居した私たち。かがくい氏の語る「しあわせ」が溢れる空間で。天国からニコニコしながら見てるんじゃないかな、なんて思ったりしたのでした。

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