見出し画像

睡眠の謎に挑む 柳沢正史氏 講演会

睡眠における最先端の研究者で、ノーベル賞の候補としても名前を連ねている柳沢正史氏による高校生向け講演会「睡眠の謎に挑む」に保護者枠で参加。すごく興味深い情報が満載で。家に帰って来てから娘たちに話しまくった。

経歴

柳沢 正史氏(Masashi Yanagisawa)株式会社S'UIMIN代表取締役社長
筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)機構長

株式会社スイミンが紹介された時、なぜか高校生が笑っていた。どんなことをしているかわかりやすい社名ではある。

「睡眠」という発明

睡眠の起源を辿っていくと、脳を持っていないクラゲも眠るという論文が出ている。睡眠は脳を作る起源より前に発明されたと言える。

個体によって睡眠時間に隔たりがあって、牛、馬、羊は1日3、4時間なのに対し、ハリネズミは20時間程度。近い種類の個体は、睡眠時間が似ており、DNAに書いてあるということだが、なぜ眠るのか、なんのために眠るのか、眠気とは何なのか誰も答えられず、メカニズムなど詳細はわかっておらずブラックボックスと呼ばれている。

睡眠は脳を休ませるためにあるというのは間違いで、睡眠中の脳はパソコンのオフラインと同じような状態。更新作業などは随時行われている。

睡眠の種類

睡眠にはレム睡眠ノンレム睡眠と呼ばれるものがあり、レム睡眠は夢がはっきりしていない。RapidEyeMovementの略でREM
ノンレム睡眠というのが、体が完全に脱力し、夢を見る睡眠。
ノンレム睡眠には3層あり、いちばん深い3層目はシン睡眠と呼ばれ、よく90分くらいが1周期と言われるが、平均値でしかなく、個人によってまちまちなので、この数字はあてにならない数字である。レム睡眠は浅い睡眠と呼ばれるけれど、そうではなく、夜全ての睡眠が大事。

眠気と睡眠時間

また昼間の眠気というのは【異常】だということ。
ヨーロッパでは、昼間居眠りしている人は、体調の悪い人とみなされて肩をたたかれ「家に帰ってやすみなさい」と言われることもあるとか。
昼間眠くなるのが当たり前のように言われるのは日本だけ。
また、リッチな国ほど睡眠時間が長いというデータがある。
日本は先進国の中でも中程度の豊かさなのに、睡眠時間が少なく異常だとか。

1960年つまり今から60年前には、日本でも平均時間が8時間だった。しかし2015年には平均7時間15分となり、高度経済成長期を超えて、偽の成功体験(睡眠時間を削って働けば働くだけ、結果が出た)によるものなのではとのこと。

睡眠というのは、よく寝貯めと言って貯蓄するイメージを言われるが、貯蓄はできず、言うなれば借金返すイメージ。人によって必要な睡眠の長さは違う。
毎日7時間眠っていて睡眠を十分に取っていると思う人でも、1週間睡眠を邪魔されない環境で、寝れるだけ寝るという実験をすると、初日は寝ていなかった分の借金を返すように長時間寝る。

しかし、それを毎日続けていくとある程度寝ると寝れなくなる。
その時間を計測していくと4日目あたりから睡眠時間が安定していく。その時間がその人にとって充足した睡眠時間となる。

睡眠って大事と言われる所以

睡眠の間に脳内の記憶が整理されるというのは本当で言語化できる記憶、イベント記憶(食べる、人と会う)、そして技能記憶(ピアノや、テストなど)における睡眠の効果が認められており、物を製作するなどのクリエイティビティも向上する。

睡眠が短いことの弊害はさまざまで、企業の生産性にも響く。データをとっていくと、生産性が高い会社ほど社員の睡眠時間は長い
短い睡眠時間は、パワハラや、イライラでアンガーマネージメントができない、人間関係が良好にできない人間を育てる。また、メタボ、認知症、感染症を引き起こす。寝ない大人は横に成長する。

レム睡眠が少ない高齢者は、認知症のリスクも上がる。

レム睡眠中というのは、怖かったり嫌な夢を見ることも多々ある(高いところからに落ちたり、など)。昼間にあり得そうな悪いシチュエーションを見せることでストレス耐性をつけるものと言われている。

小児期3、4才までは昼寝が大切だけれど、5才からは必要なくなるが、小学生で10時間、15から17歳は平均8、5時間必要。
寝た人の方が脳の成長が促される。高校期の人たちが異常に睡眠時間が短いと、言い方は悪いが一生に関わる障害をもちかねないとのこと。

印象的だったのは、人間の体は生態的に、思春期から20代にかけて、睡眠時間が2時間遅れるというところ。
つまり、思春期になって夜寝る時間が遅くなるのは、生態的に眠くなる時間が2時間程度遅くなる(後にずれる)から寝れなくなるだけというところ。だから高校生に早起きを強要するのは酷なんだという発言に、高校生たちはワッと沸く。アメリカの高校では、学校の始業時間と終業時間を遅らせることで、学業成績が全体的に上がったというデータもあるとか。

それでも眠い時には

下記を留意しながらパワーナップ(昼寝)をするといいとか。
・午後2時までに行う
・全身が脱力できるような体勢ができる場所で行う
・暗くて静かな場所がベター
・20分で切り上げる

20分というのは、ノンレム睡眠の3層目、シン睡眠という深い睡眠に行きつかない時間。シン睡眠まで行き着いてしまうと起きるのが辛く、スッキリしない。コーヒーを飲んでからパワーナップをすることについても話されていた。

柳沢氏の研究について

柳沢氏が研究しているオレキシンという脳内の物質は、人間を覚醒させる(おこしておく)物質ということが分かった。

ナレコプシー病の患者は、そのオレキシンの産出細胞が特異的に消失しているため、起きている時間でも何気ない瞬間に気を失ったしように倒れ込んでしまう。

下記動画40秒あたりから実際の患者の様子が見られます。

マウスの実験で、夜行性のオレキシンを欠如させたマウスの様子を見ていても、昼間(マウスにとっての夜)には何も変化は無いが、夜間(マウスにとっての昼間)は気を失ったように全く動かなくなる瞬間が見受けられたとか。

このオレキシンは、体内にある自然な物質なため、人体への副作用なども無い。アルツハイマー病の改善が望めるかもとのこと。

ポケモンスリープ!

セミナーの後の高校生との質疑応答も面白かった。
女子高校生「私はポケモンスリープのアプリで睡眠を…」
柳沢氏「あ、それ僕が監修してるから」と食い気味で柳沢氏が回答すると、高校生たちは、かの有名なポケモンスリープの開発に携わっているんだ!と大盛り上がり。

はじめはポケモンGoを大ヒットさせた宇都宮氏(現最高執行責任者)から連絡があり、ポケモンGoでは若者を歩かせた(ことに成功したから)ので、今度は寝かせたいということでオファーがあったとか。

柳沢氏は当初、スマホなんて睡眠を阻害する大きな要因となるものなのに、なんで自分にオファーして来た?!と断ったらしい。でも宇都宮氏の「常識を覆したい」という思いに、「真面目にやるなら」と開発期間4年をかけてリリースしたものだとか。

本来睡眠時間の計測は、専門施設で脳波の計器や電極、コード類をたくさんつけて、検査入院という形で計測する必要がある。
しかしこのアプリは、枕元に置いたスマホの加速度センサーによって、人の寝返りなどの振動を読み取り、レム睡眠ノンレム睡眠などを解析しているとのこと。

睡眠時間の計測って

潜在的な不眠症や無呼吸症候群患者というのは1000万人いると言われているが、睡眠を計測する国内施設は300、年間でも10万件の検査がせいぜいとのこと。
不眠症と呼ばれているものに関しては、自己申告で眠れていないと思っている人でも、睡眠時間を計測してみると、実際はよく眠れている場合もあるという。自己申告した睡眠時間が合致する場合と、そうでない場合もあるにも関わらず、睡眠時間を計測する施設が足りないばかりに、不眠症とひとくくりにして、同じ治療を行っていることもあるとか。
それを解消するために、在宅で睡眠を計測できるデバイスを開発し、収集した情報をクラウド上でAI解析できるシステムを作ったのが、柳沢氏が社長を務める株式会社S'UIMIN(スイミン)。

web上で申込をし、郵送でデバイスが届き、自宅で計測。その後AI解析結果が手元に届くというもの。このシステムを利用している医療機関もあるとか。

何でも本質って大事よね

ノンレム睡眠を長くするなど、睡眠の質を上げる食品はないとの話もあり、世に出回る睡眠の質を向上すると言われているものの本質を知らずにその言葉に翻弄されていることを再認識したひとときでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?