タイトルのない物語

<主な登場人物>

智哉(ともや):不動産会社2代目社長候補

葵(あおい):大手商社勤務のOL

俊介(しゅんすけ):不動産会社を経営、葵の幼馴染

朋美(ともみ):葵の親友

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※注:この物語は私の妄想の中のフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません

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ホテルの窓から差し込む朝日で智哉は目を覚ました。

隣ではまだ葵が気持ちよさそうに眠っている。

なんて綺麗な顔なんだ。安心感に包まれ、智哉はもう一度目を閉じた。



葵との出会いは約3年前。たしか場所は中目黒の地下にあるちょっと雰囲気のあるお店で合コンにはぴったり。そんな印象のお店だった。

その日、友人の俊介に誘われ智哉は中目黒の駐車場に車を止めた。少し遅れてしまったな。そう思いながら智哉は指定されたお店に入るとそこにはもう俊介と1人の女性が仲良さそうに飲んでいた。

「お!智哉さん!葵、紹介するよ。友人で経営者の智哉さんね!」俊介は簡単に紹介を済ませ智哉はその葵という女性に軽く会釈をした。「めちゃくちゃ美人やないかい!」と俊介に言いたい気持ちをぐっと抑え落ち着いた雰囲気(のつもり)で席に着いた。

「あ、そそ!葵は僕の幼馴染のモデルさんで~」と俊介が言いかけたところで「やめてよ!初めまして、普通にOLやってます葵と言います。」と葵は透き通った声で簡単に自己紹介をしてくれた。

これが初めて聞いた葵の声だった。


~智哉~

その日、智哉はいつも通り勤務先である昭和不動産の事務所へ向かっていた。

昭和不動産は智哉の父が創業した地元密着型の不動産会社だ。いわゆる地場業者。

大手不動産会社での経験を積み5年程前に二代目候補として自ら手を上げ入社を決めた。智哉が30歳になる年だった。

当時の売り上げはここ数年右肩下がり。高齢になってきた父が昔からの人脈でたまに買ったり仲介をしたり、営業スタッフもノルマはなく事務のスタッフは50代の女性が数人で社内はのんびりとした雰囲気が漂っていた。しかし都内にビルを複数棟所有していて管理物件もそれなりにあるおかげで現状維持でも赤字にはならない状態だった。

業務はアナログ感たっぷりで手計算、手書きファックスは当たり前、前職時代ではこうした地場業者とも取引があった智哉はある程度状況は把握していたがいざ現場に足を踏み入れると効率の悪さを改めて実感した。これからテコ入れをしなければならないところは多いと感じ前職で培った経験を生かしてこの昭和不動産を変えてやると一人勝手に意気込んでいたがそんな智哉の強い想いとは裏腹に入社当時の智哉に対する風当たりは決して良いものではなかった。

でも智哉はそんな環境の中でも自らの企業の理想像と信念を持ち地道に存在感を示し続けてきた。入社1年目では仲介手数料で7,000万円の売り上げをつくることができのも前職の先輩と同僚に恵まれ経験を積むことができたからだと改めて実感し感謝した。

社員とはできる限り接する時間を作りコミュニケーションを取り距離を縮めることに智哉は徹した。理想ばかり言っていてもだめだ、まずは自分という存在を認めてもらおうという智哉の努力の甲斐もあり、当初は”社長の息子でしょ”そんな目で距離を取っていた社員たちが少しづつ変わり始めた。

自社で保有していた都内のビルは古いものをいくつか売却し、比較的新しいビルに買い替えた。若い営業スタッフも増やし会社の雰囲気は少しづつ変わり売上も順調に伸びていていった。

その結果、現在は取締役という役員の立場になっているが、智哉が一番うれしかったことはそれを社員たちが快く受け入れてくれたことだ。この時、智哉は35歳の年を迎えていた。


智哉はいつも通り会社に着くと父に呼ばれた。

「こんな案内がコンフォートさんから来ているけどどうする?」

父は突然一枚のパンフレットを手渡してきた。

コンフォートは都内で企業や団体向けに様々なニーズに対する研修を主に手掛けている企業で昭和不動産でも過去コンフォート社の研修を受けていたことがあった。智哉も偶然前職の法人営業部時代コンフォートという会社の名前は聞いたことがあった。当時から業績が良く法人営業部でも大きい取引があり一時話題になったことがあったからだ。どうやら今回はコンフォートが出資しているベンチャー企業の経営者を中心に集めた研修のようだ。

「これは面白そうだな。」第一印象は悪くなかったし何よりコンフォートという企業にも興味もあったので智哉はその場で申込を決めた。


「お世話になります。コンフォートの鈴木と申しますが、お申込みいただきました研修の件でお電話させていただきました。」

見知らぬ番号からの着信に智也は一瞬「ん?」と思ったがコンフォートという名前を聞いてすぐに思い出した。

「あー!お世話になります。この度はよろしくお願いします。ところで研修にはどんな企業の方が参加されるんですか?」

智哉はどんな企業の経営者たちが参加するのか興味があった。

「今回の研修に参加いただく企業様は様々です。IT、飲食、教育など幅広い業種です。ほとんどの企業は我々が出資をしている企業となります。月一度の研修を半年間で計6回行いますので他の経営者様とも良い関係を築くきっかけになると思いますよ。まずは来月第1回目がありますので是非ご参加下さい。」

自信ありげに鈴木さんは話していた。

日程と時間をメモし、その日の会話は終わった。

「あ、そういえばこの日は、、、」


~葵~

「ちょっとLINEの返事していい?また俊介からだわ(笑)」

葵は親友の朋美と行きつけの喫茶店で週末恒例の女子トークをしていた。朋美と会う時はいつも同じこの喫茶店。広尾の路地裏にあるその喫茶店はタバコも吸えるしいつも静かだし、マスターも渋い。込み入った女子トークをするには最高の場所だった。

俊介とは幼稚園からずっと一緒の幼馴染で親同士も仲が良く、昔から休日となれば家族同士で一緒に出掛けていた。限りなく家族に近い存在だったしそれは俊介も同じように思っていた。

俊介とはこうしてしょっちゅうLINEでやり取りをしている。お互い何でも言い合える仲だったのでとても気が楽だ。その日も突然きたLINEに返事を返そうと開いた。「今度さ、飲み会しようよ!飲み会!!カワイイ子よろしく~~!」俊介は相変わらずだなと思いながら「しよー!しよー!!」と即答。その場で朋美も誘っていた。「てかあんたら仲良すぎ(笑)34にもなって羨ましいわ!」朋美はいつもこんな感じで話しを聞いてくれて俊介同様何でも話せる仲だ。

俊介は何年か前に不動産会社を起業し順調そうだった。バカだけどなんか元気くれるし行動力すごいし葵はちょっと尊敬もしていた。

葵は海外留学をしていたこともあり、英語はお手のもの。現在は大手商社に勤務をしていた。

気さくな性格ということもあり、会食には引っ張りだこ。上司からの人気は絶大だった。合コンの誘いも多かったが、葵は一切そういった騒がしそうな会には行こうとしなかった。俊介との飲み会は別で何故か安心して楽しめるので予定が合えば俊介とはよく一緒に飲んでいた。

「葵はなんで結婚しないの?」同僚からは良くこんな質問が来るが正直うんざりしていた。良い人がいればね~といつも適当にごまかしていたが内心その質問を受ける度に少し辛い気持ちになるから正直もうほっていてくれと思っていた。

葵は数年前、婚約をしていた相手がいた。その相手は上場企業のオーナー社長の長男で年は葵の5つ上、すごくイケメンという訳ではなかったが葵は彼の謙虚さと優しさを好きになり交際を始めた。仕事の話をしている彼の表情やたまに料理を作ってくれている時の彼も葵は大好きだった。

付き合いを重ねお互いの両親への挨拶も終えた。相手の両親への挨拶の日の前日は緊張しすぎて一睡もできず、ずっとTwitterを眺めていたので少し目が痛かった、、のは内緒(笑)。とても気さくでおしゃべりな両親で葵のことも快く受け入れてくれた。子供に女の子がいないこともあり特に彼の母の方は自分の娘のように優しく色々お話してくれたのでついつい葵も色々としゃべりすぎて気づいたら何時間もたっていた。結局その日は夕食までご一緒させてもらった。

プロポーズを受けたのは一緒にバリへ旅行に行った時、ホテル内のレストランで食事を終え二人は敷地内にあるプール際を歩いていた。海が目の前にあるそのホテルは夜になると波の音とライトアップされたプールでとてもいい雰囲気になる。そのライトアップされたプールサイドで彼から結婚してほしいと告げられた。ちょっぴり不器用だけどまっすぐな彼の目と、目の前にそっと出された指輪を見て葵の目からは自然と涙が流れていた。その瞬間は言葉にできないくらい嬉しかったし葵はこれ以上ない幸せをかみしめてた。波の音がこんなにも心地いいと思ったのはこの時が最初で最後かもしれない。


つづく…

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