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法務への導線・コミュニケーション

私は、日系メーカー法務部で勤めていました。
現在は、73期司法修習生として修習に臨んでいます。来年からは、ベンチャー企業の法務部で勤務予定です。
前回書いた、法務リスクの早期発見と関係する形で、書きたいなと思います。

目次
1.伝えたいこと
2.そもそも法務になんでくるの?
3.法務への導線の種類
4.コミュニケーションの設計
5.さいごに

1.伝えたいこと

法務に来る理由ごとに導線を設計してみる
人との繋がりを大切にする
繋がりをシェアする


2.そもそも法務になんできてくれるの?

気持ちの面でいうと、
「安心感が欲しい時」
「他人を説得して欲しい時」
「自分のプロジェクトを推し進めたいとき」
「愚痴を言いたい時」
「頭が混乱しているから一緒に整理して欲しい時」
に相談にきてくれることが多かったです。

具体的には、以下のような場合があるかなと思います。思いつくままに書いていきます。(カッコ内)は、私の言葉や考えていることです。
・正直答えわかってるけど、念のために聞いてくるとき(それで大丈夫ですよ!法的な根拠あとで送りますね!)
・何が問題か全くわからないとき(よし、時間かかってもいいんで、今日は整理してしまいましょう!)
・めんどくさいから文章の添削して欲しいとき(仕事忙しいんやろな。手伝おうっと!いつまでですかー?)
・新規ビジネスの立ち上げや商品のリリースのため(どんな商品?法律や社内規定に違反しないかな?)
・新しい提携先が見つかった時(嬉しいね!どんなパートナーかな?なんの提携するのかな?)
・会社の合併(清算)を考えている時(手続きの説明とスケジュール感知りたいのかな?会社法・破産法)
・他の部門との間に入って欲しい時(愚痴かな?決裁権限の話かな?)
・社員が横領しちゃったどうしよう(刑事告発するか。経営陣にどう説明しようか。ヒアリングの範囲どうしようか。)
・災害とかの危機管理の対応(社員の安全確保のためにどうする?)
・株主総会の運営や総会の招集通知のレビュー(スケジュール感と文章の内容と会社法の要件充足)
・日本語(英文)契約書のレビュー(これで、いいかな?取引の全体像は?関係する法律は?相手方とのパワーバランスは?)
・コンサルに入ってもらう時の契約書のレビュー(あやしくないかそのコンサル!)
・新商品の流通の契約のレビュー(流通の流れと物の保存方法は?どこか品質落ちるものではないかな?)
・CMやポスターの表現や内容のチェック(景表法違反・消費者法違反の有無)
・インターネットでの広告活動や懸賞イベントなどのチェック(景表法違反・消費者法違反の有無)
・「ABC」というブランド名つかっていいのか(調べたり、権利化だね。商標権の保護・調査)
・技術を先に他者が使ってないですかね?(調べたり、権利化だね。特許や意匠の侵害調査(国内外含む))
・会社のブログに写真と載せていいのか(著作物の利用)
・プレスリリースのチェック(「公告」の要件充足・景表法違反の有無・オープンにしていい情報か)
・労務問題(社員が起こした事故の対応か。相手方への賠償どうしようか。労災かな。)
・不動産の売買契約(ほんまにそれ購入していいの?使い道は?)
・研究機関との共同研究のチェックや契約書のレビュー(秘密情報は?いくらかかるの?どこと手組むの?知財はどうするの?)
などなど、色々な相談内容があるかなと思います。

以上をなんとなーく整理すると、①相談②文書作成やチェック③調査依頼が多いですね。

3.法務への導線の種類

法務への導線について、どのようなものがあるでしょうか。

・法務部員と仲良くなって、個人的にメールやチャットで連絡が来る
・法務部の集合アドレスにメールを送信する
・スラックなどのチャットツールで、リーガルチャンネルで相談する
・法務部員との雑談
・同じプロジェクトに入っている

くらいかなと思います。
対話型、投稿型、発見型のいずれかかなーと思います。

また、個人対個人(法務部員)、個人対法務部、部門対法務部のコミュニケーションの3つのパターンに分かれるかと思います。

それぞれの場合と相談に来る理由によって、コミュニケーションのあり方を変えていくことが大切かなと思います。

4.コミュニケーションの設計

個人対個人(法務部員)、個人対法務部(法務部員なら基本的に誰でもいい)、部門対法務部のコミュニケーションのそれぞれについて、どういった相談が多いのか考えてみたいと思います。

●個人対個人(法務部員)
この際には、基本的は、「安心感が欲しい時」「愚痴を言いたい時」「頭が混乱しているから一緒に整理して欲しい時」に相談にきてくれることが多いかなと思います。
こんな時は、メールやプライベートチャットで相談されることが多いでしょうか。これは本当に信頼関係ができて、初めてやれるようになることかなと思います。
では、どうすれば、どういうツールがあればいいでしょうか?
必要なツールは「電話」「プライベートチャット」「喫茶(休憩)スペース」等なのかなと思います。心理的安全な場を法務部として用意してあげることが大切かなと思います。

その上で、法務部員として大切なことは、「傾聴」と「ネクストステップ」を一緒に考えることだと思います。
法律問題に限らず、同じ会社の仲間として、「次の一歩はどういう行動か?」とは、どういうことかを真剣に考えることなのかなと思います。

●個人対法務部(法務部員なら基本的に誰でもいい)
このような場合に相談に来てくれるのは、法務部に初めて相談に来てくれる時が多いかなと思います。

法務部に初めて来られる方は、こんなイメージを持っています。

「いつ相談していいかわからん」
「やりたいことを、すぐに止められる」

法務部に対して、比較的頭が硬くて、怖くて、難しいイメージがあるかなと思います。

実際、硬いイメージが広がっているのは、他部署の人の全員が法務部の人と交流や仕事の関係がないからだと私は思っています。

(正直、法務部と関わる人は、新人ではなく、管理職か中堅の人たちなので、法務部のことをそもそも知らないことが多いことも原因かなと思っています。)

法務部として、気軽に相談してもらえるように、どうするのか。

①いつ相談すべきか(いつでも相談していいこと)
を発信する
②聴く、ひたすら聴く
③共感する

そもそも、相談に来てくれなければ、法務リスクは浮き彫りになりません。
いつ、どんなときに、どんな問題が起きる可能性があるのか、しっかり発信していくことが大切だと思います。

手段としては、社内教育(セミナー)、イントラネットや社内SNSでの発信、法務に理解がある人に個別に熱心に伝え続ける、、などなどがあるかなと。

セミナーといえども、それぞれの部門に応じたセミナーをやるのは大変かもしれません。
しかし、個別にニーズはあると思うので、それぞれにしっかりと合わせたセミナーをして、取引の全体と個別の論点をそれぞれ定期的に伝えていくことが大切だと思います。

また、私がやってみたいなと思っているのは、自社の事業フローに乗せた形での法務ロードマップの明示です。
『逆引きビジネス法務ハンドブック』を自社版にアレンジしたものができれば、きっと相談しやすいんじゃないかなーと考えています。

法務リスクは、奥深くのどこかに潜んでいる恐ろしいものですし、誰も気付かない間に近づいてきます。
なので、少しでも早く気がつけるような工夫をしていきたいものです。

実際に、勇気をもって、相談にきてもらえれば、やはり「傾聴」と「共感」がポイントです。

「どうして来てくれたのか、何で困っているのか」をしっかりと聞き取りましょう。
その上で、「だったら、こうしてみたら?」とアドバイスができるように工夫できるといいのかなと思っています。

また、安心して話せる心理的な安全性を担保できるように工夫することが大切なのだと思います。

そのためには、ここでも、他部署向けに法務部から情報発信をするという手段があるかなと思います。

法務部員がどんな人なのか、法務部の雰囲気、法務部員それぞれの関心事などを伝える事で、「法務部」や「法務部員」について知ってもらうことが大切だと思います。
例えば、イントラネットや社内SNSを活用した情報発信、Slackなどでのリーガルチャンネルを設定し、定期的に情報発信をするなどが考えられるかなと思います。

法務に相談してるのではなく、同じ会社の〇〇さんに相談してるんだという感覚になってもらえると、ぐっと距離が近づくんだろうなと感じています。

●部門対法務部について

「他人を説得して欲しい時」「自分のプロジェクトを推し進めたいとき」に相談されることが多いかなと思います。あとは、同じプロジェクトを一緒に進めている場合に、法務がどうしてもリスクが高いため、ある種止めざるを得ない場面も想定できるかと思います。

この場合、誰を説得したいのかをしっかり考えるのがいいかなと思います。

取引先なのか、同じ会社の他部門なのか、上司なのか、役員なのか、子会社なのか、親会社なのか、、

それぞれが気にするポイントと説得材料(法律上の根拠、判例、社内規程、政府ガイドラインなど)を用意するのがいいかなと思います。

あと、法務は文章を書くのが得意な人が多いと思うので、決裁書面を一緒に考えてあげるのも一つかなと思います。

また、ついつい、法務は、法律問題だけ処理しようとしてしまい、反感をくらうこともあると思います。
(私は、これで怒られたこともありました、、)

「法律上だめなんです!」だけでは、相手はどうしようもありません。その時は、分かりやすく根拠を伝えてあげましょう。また、ダメならダメで、きちんと早く伝えてあげましょう。一度走り始めたプロジェクトを止めるのは、本当に勇気が必要ですし、大変なので。

また、プロジェクトを進められる余地があるか、いっぱいいっぱい頭を捻って、「だったら、こうしてみたら?」を伝えられるように努力をするべきかと思います。

もちろん、専門外のことをなんでもかんでも分かる訳じゃないので、きちんと事業部門や他部門と一緒にしっかり頭を悩ませることが大切かなと思っています。

例えば、法律を変える(ロビーイング)努力をするか、行政へのヒアリングで済むのか、グレーゾーン解消制度を活用するか、などコストやスケジュール感との見合いを考えていけると素晴らしいなと思います。

5.さいごに
ここまでコミュニケーションによるリスクの把握について、書いてきました。

それでは、コミュニケーションさえなかった時にどうやって気がつくのでしょうか?

私は、共通のデータベースでプロジェクト管理を進めていくべきだと考えています。
契約書がない企業間の取引は、あまりないと思います。取引上のリスクは、プロジェクトと契約のフローを追いかけることで、気がつくことができると思います。

プロジェクトマネジメントシステムについては、以下のベンダーが販売してるかなと思います。

Holmes
RICOH
サイボウズ
etc...

これらを用いて、プロジェクトの進捗を定期的に法務部で把握し、法律上のリスクを調べ、コメントをしていく。

こうすることで、未然に法務リスクはある程度取り除くことはできると思います。

もっとも、法務リスクは、ゼロにはできません。
いつどこで起きるのか分かりません。
起きてしまった時に、どうリカバリーするのかも法務の重要な仕事であると思います。
危機管理や緊急事態への対応についても、予防法務と侵害法務(危機管理法務)をバランス良く学び、取り組むことが私は大切だと思います。

これは、司法修習にきて、訴訟をたくさん見たからこそ、訴訟により権利を実現することが大切だと実感することができたからだと思っています。

さいごに、もう一つ。

私が一番大切だと思っているのは、法務部内での情報共有だと思います。

法務部は、1人で戦う部門のイメージがありました。

しかし、どんな問題があったかの共有、役に立つ文献の紹介、勉強会、事業部門の文化や担当者の性格の共有、、
などなど、法務の中でナレッジマネジメントをしていくことが本当に大切だなと感じました。

法務部員それぞれが得意なジャンルを互いに知り、価値観の違いや視点の違いを理解しておくことで、さまざまな視点から、知識と経験を共有できると思います。

実際に問題にぶつかったときに、周りの脳みそをお借りして、チームで解決に尽力する。

法務部であっても、チームで戦えばいいんだろうな思っています。

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