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ビールが楽しい5つのわけ。その② ビールと食べ物の幸せな関係

飲みながら食べる、食べながら飲む、食事をしながらお酒を飲むのは楽しいものです。世界中で楽しまれているお酒ですが、そんな食中酒の習慣が色濃いのは欧米、そしてアジアでは、なんと言っても日本と言ってよいでしょう。「肴」、「つまみ」、「あて」、これらの日本語は、いずれも、お酒を飲むときに添えて食べる物を表す言葉ですが、飲んでいるお酒に”合った”食べ物を求める気持ちが現れています。「ビールが楽しい5つのわけ。その① ビールと原材料の幸せな関係」で書かせていただきましたが、ビールには154種類ものスタイルが公式に存在するとても個性豊かなもの。そして、そのスタイルのちがいもはっきりしていて、特別な予備知識がなくとも、色、香り、味わいの基本的なちがいを感じることができるので、カジュアルに楽しむことができます。同時に同一スタイル内のビール間の研ぎ澄ました繊細さの追求も醍醐味です。さて今回はそんなビールの「肴・つまみ・あて・ペアリング・マリアージュ」についてのお話です。

フードペアリングとは

フードペアリングは、どの食べ物とどの食べ物の組み合わせが相性がよいかを特定する方法論で、食べものがメインのフレーバー成分を等しく有する場合に、それらの食べ物はお互いに結びつき調和するという原則に基づいています。 フードペアリングは、液体クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィーなどの成分分析機器で食品を分析し、それらに共通する化学成分を見つけるフードサイエンスです。2021年2月に出版されたばかりの「香りで料理を科学する フードペアリング大全 分子レベルで発想する新しい食材の組み合わせ方」(ベルナール・ラウース他)は、内容は詳細かつ膨大ですが、非常に面白い専門書です。

言わずもがなですが、食は五感で楽しむものですので、ペアリングには、素材そのものの色合いや盛りつけ、器そのものの美しさや素材と一体になった視覚的シズル感、温度やテキスチャーの触感など化学物質以外の人間の官能的要素もあります。

従来のビールのおつまみのイメージ

クラフトビールの存在が知られるようになるまで、日本ではビールと言えば、白い泡が立った黄金色の液体を大容量の容器(ジョッキ)でごくごく飲むという、どちらかというと男性的な、単一のイメージが支配的でした。このイメージの中にあるビールのスタイルは、大分類はラガースタイル、中分類はピルスナーであり、中でも小分類はインターナショナルピルスナーというスタイルです(下記2021年度アメリカ醸造者協会スタイルガイドライン参照)。

2021 Brewers Association Beer Style Guidelines International-Style Pilsener
Color: Straw to gold
Clarity: Appearance should be clear. Chill haze should not be present
Perceived Malt Aroma & Flavor: Residual malt aroma and flavor may be present at low to medium-low levels
Perceived Hop Aroma & Flavor: Low to medium
Perceived Bitterness: Low to medium
Fermentation Characteristics: Very low levels of DMS aroma and flavor are acceptable. Fruity esters and diacetyl should not be present.
Body: Low to medium
Additional notes: These beers are often brewed with rice, corn, wheat, or other grains. Sugar adjuncts may also be used.
Original Gravity (°Plato) 1.040-1.052 (10-12.9 °Plato) Apparent Extract/Final Gravity (°Plato) 1.008-1.014 (2.1-3.6 °Plato) Alcohol by Weight (Volume) 3.6%-4.2% (4.6%-5.3%) Bitterness (IBU) 17-40 Color SRM (EBC) 3-6(6-12 EBC)

そして、従来のビールのおつまみの位置付けも、ビールそのものがインターナショナルピルスナーだけを指していたことから、ビールの本来の姿である、154種類ものスタイルが存在する豊かな世界を前提としたものではありませんでした。ですので、ビールのおつまみというと、とりの唐揚げ、餃子、焼肉、枝豆などがよく挙げられていました。ここでは、温度が高い、脂っこい、塩からい、食べものを、清涼感あるビールで口中をリセットする、「切る」という役割です。もちろんこの飲みかた食べかたも美味しいし楽しいのですが、メインのフレーバー成分を等しく有する場合に、それらの食べ物はお互いに結びつき調和するという原則のフードペアリングとは異なる領域であることがわかります。

ビールのフードペアリング・・・メインのフレーバー成分を等しく有する場合に、それらの食べ物はお互いに結びつき調和するという原則

写真は私達のCOEDO BREWERY THE RESTAURANTで提案させていただいたビールとフードペアリング例、「小江戸黒豚の黒酢角煮とCOEDO白-Shiro-」の組み合わせです。2種類の黒酢とブルーベリーを加えたフルーティーなソースに合わせた豚のバラ肉と、COEDO白のバナナやマンゴーを想わせるようなフルーティーな香りとほのかな酸味がポイントとなったペアリングです。そしてトップの画像は、ANAインターコンチネンタルホテル東京のTHE STEAKHOUSEのシェフに考案いただいたCOEDO PAIRINGコースから、アペタイザーの3品です。

■生ハムとチーズのクロケット&COEDO毬花-Marihana-

■燻製カモのサラダ&COEDO伽羅-Kyara-

■トマトとリコッタチーズ&COEDO瑠璃-Ruri-

前菜3品それぞれから早速ペアリングがスタートし、デザートまでマリアージュします。燻製カモのサラダとCOEDO伽羅-Kyara-の場合、濃厚な鴨肉に加わった燻香は、このビール持つカラメル麦芽とロースト麦芽の要素に近しいですし、ホップの苦味と柑橘香は鴨肉のソースとしてよく使われるオレンジソースの様なフレーバーを添えてくれます。COEDO瑠璃-Ruri-には爽やかな酸味があり、野菜との相性がよいピルスナーで、トマトとリコッタチーズの瑞々しい酸味とそれぞれのグルタミン酸の旨味成分がよく合う組み合わせです。

食材のメインフレーバー成分の共通項は探るには、食材の色に注目することは簡易ですが有効な手段です。淡い色合いの料理には単色系のビールが、濃い色合いの料理は食材のカラメル化やメイラード反応に由来する物が多いので、同様にカラメル麦芽やロースト麦芽が使用されている濃色系のビールが合いやすい、という一般的な傾向があります。

ビールのフードペアリング・・・反対のフレーバー成分で補い合うという原則

メインフレーバー成分の共通項を探るペアリングの他に、反対方向のフレバー成分で補い合うという原則も、また、存在します。例えばコーヒーの苦味に甘みを加えることでバランスさせることが身近な事例です。

■生ハムとチーズのクロケット&COEDO毬花-Marihana-

このペアリングは濃厚なチーズを毬花-Marihana-の苦味で引き締め、クロケットの脂の旨味をシャープな炭酸で整える、グレープフルーツの様なホップの香りがクロケットには元々はなかったアロマとして加わるという、反対方向のフレーバー成分で補い合い調和をもたらす方向の原則から成立しています。

COEDOの地元埼玉川越の名物のひとつに、江戸時代から続く鰻の文化がありますが、鰻の蒲焼の甘辛く濃厚なたれと脂分に、さつま芋をつかったスイートで濃厚な赤褐色の紅赤-Beniaka-を合わせ、等しいフレーバー成分の原則で合わせることは王道のペアリングです。また、ピルスナー瑠璃-Ruri-の酸味と苦味と炭酸をもって、蒲焼の甘辛く濃厚なたれと脂分に補う方向と、フラワリーなホップのアロマで鰻に振った山椒に花を添えるペアリングもとても良い組み合わせです。

ビールが楽しい5つの理由の二番目のポイントは、多種多様なビールのスタイルと合わせるフードペアリングの世界がとても楽しいということでした。とは言うものの、まだまだビールのフードペアリングの世界への探究は始まったばかりです。シェフや料理研究家の方々とビール界のコラボレーションの発展を楽しんでいきましょう。







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