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「4番、サード、原」...の気分で【昼休みの過ごし方】

「四番、サード、原」
後楽園球場に響き渡るウグイス嬢のアナウンス。
“背番号8”の男は、超満員の大歓声に包まれならが、ネクストバッターボックスからバッターボックスへと、ゆっくりと移動し、“ジャイアンツの四番打者”としての責務を果たす為、静かにバットを振りかざし始めた。

10回の裏、
1対1の同点、
ツーアウトランナー一塁、
という場面での打席。

この試合ノーヒットの“背番号8”の男は、この打席に、この一振りに賭けているようにもみえる。
チームの勝利の為に、“一振り”で決めると。

そんな緊迫した試合の模様を、現地“後楽園球場”からではなく、テレビ中継を通じてブラウン管テレビのモニター越しでじっと見つめている少年が一人。その少年は、読売ジャイアンツの熱狂的ファンである両親の影響あってか、幼少の頃から「ナイター中継」と呼ばれるプロ野球の中継、主に読売ジャイアンツの試合を観ることが日課となっていた。そして、両親同様、“ジャイアンツの四番”を応援するのが当たり前だと、思っていた。
応援の対象となっていた選手は、第48代読売ジャイアンツ四番打者、原辰徳選手。「ON(王貞治選手・長嶋茂雄選手)の後継者」という重圧に耐えながらも、長きに渡り四番打者を務めてきたホームランバッター。
学校へ行く時も、友だちと外で遊ぶ時も、いつも“背番号8”が刻印された球団キャップを被っていた。公園の広場を独占しておこなっていた草野球では、原辰徳選手の真似をして打席に立っていた。全く打てなかったくせに。

憧れのヒーローだった。
世の中には数々のヒーローが存在していたが、当時、彼の中ではぶっちぎり一番だった。
“背番号8”の四番打者が一番だと、憧れのヒーローは「四番、サード、原」だと。

この日も少年は、夜遅くまで応援していた。
「ホームラン!ホームラン!絶対にホームラン!」と叫びながらテレビ中継に釘付けだった。

10回の裏、
1対1の同点、
ツーアウトランナー一塁、
という場面での打席にヒーローの登場。

この状況で叫ばないのも無理はない。
「きっと何かが起こる」と思っていたから。
試合を決定づける何かが。

そして、試合は、“あっという間”に動いた。
第2球目、123kmのカーブを捉えた打球は、ジャイアンツファンが見守るレフトスタンドへ一直線。
打った瞬間、打球の行方を見守っていたヒーローは、確信後、大喜びでダイヤモンドベースをゆっくりと周った。
劇的な“サヨナラツーランホームラン”を見事に演出したヒーロー、
「四番、サード、原」
引退する1995年まで彼の心の中ではヒーローだった。


199✕年某月某日。
私は、会社の同僚と一緒に、バッティングセンターで身体を動かしていた。
場所は、(当時勤めてた)職場から徒歩圏内の場所にある老舗バッティングセンター『✕✕✕』。225球打って200円。ホームラン(の的に当たれば)が出れば景品が貰えるというごく一般的な娯楽施設です。
ちなみに、バッティングセンターは和製英語で、アメリカでは『batting cage(バッティング・ケージ)』と呼ばれています。

ここの施設では、球速が異なる6台のピッチングマシンが設置されていて、“70km/h”、“80km/h”、“90km/h”、“100km/h”、“110km/h”、“120km/h”、“130km/h”となっている為、私のような球技音痴でも気軽に楽しむことが出来ます。


「さて、今日はどの球速の球を打とうか」
この日はどの台も空いていた。といっても、他の同僚は130km/hのマシン、120km/hのマシンを独占していたので、100km/hのマシンを選ぶことに。
110km/hでも打てないことはないんですが、せっかく打つなら、ホームランバッターをイメージして打ちたかったので、100km/hの球速で。

「俺は“四番、サード、原”だぁぁ!」
打席に入る仕草、バットの持ち方から、構え方を真似てみた。彼の応援歌を脳内再生させながら。
「球数は25球(200円)。ホームラン打つぞぉー!」
球技音痴の原辰徳もどきが鼻息荒くしてバットを振りまくった結果…




ホームラン出ませんでしたぁ(笑
ボールを飛ばすことは出来たが、球技音痴にホームラン(の的を当てるのは)は難易度高かった。
劇的な“サヨナラツーランホームラン”を見事に演出できなかったヒーローもどき、「八番、ライト、コモリ」は凡退した。
それと同時に、昼休みの時間が終わった。

平日の昼休み、バッティングセンターで身体を動かしていたあの頃が懐かししい。


以上、日刊「書くンジャーズ」マガジン日曜日担当のコモリが、さすがに、「四番、サード、原」は今の子どもたちに通用しないだろうなぁ、と思いながら、先週のテーマ【昼休みの過ごし方】について書かせていただきました。


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