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メンチカツを見下すな

強いものと強いものが組めば、普通に考えて、さらに強くなるのが当たり前なのだが、どうやらそうとは限らないらしい。確かに、日本における最強スポーツ2トップの野球とサッカーが合体した「キックベースボール」は90年代前半の「夢がMORIMORI」という番組でその人気の頂点に達して以降、今となってはその競技の存在すら知らない若者も多く、残念なスポーツに堕ちてしまった。70年代、人気機能が合体することで大成功したラジカセは、当初最強家電の一つだったが、黒物家電のもう一つの雄、最強家電のテレビとの更なる融合を求めて作られたラテカセは、もはやレトロ家電のカルトネタになるほど、誰の記憶にも残ってはいない。

前出の2例は「何でもいいから強いものをくっ付ければいい」という無脊椎動物的な短絡的思考で作られたトンデモアイデアなので、普及しないのも当たり前なのだが、本来もっと皆にリスペクトされ、愛されてもいいのに、二流・三流に見られがちな食べ物「メンチカツ」については、少し述べておく必要がある。

「フライ」は素材に更なる付加価値を与える調理方法と言える。ただのエビ2尾だと貧弱に見える食卓も衣をまとわせ油で揚げればちゃんとした洋食「エビフライ」として一気に華やぐ。豚肉もソテーなんかより「トンカツ」になることで、食べる側のテンションは大きく変わってくる。この意味で、フライは最強の調理法と言っても良い。メンチカツはこの「フライ」料理ではあるのだか、少し事情が違う。
素材ではなく、すでに料理としてメジャーで、この時点で多くのファンを獲得しているハンバーグをさらに、フライという最も人気の調理法によって更なる高みを目指そうとしたはずのメンチカツだが、なぜか、揚げられることで、ハンバーグより舐められる料理になる。料理としてグレードが上がるはずなのに、メンチカツに限っては、なぜかカジュアルになる。悪い言い方をすれば、安っぽくなるのだ。

メンチカツの歴史は調べればすぐにわかることなので、あえてここで言及はしないが、自分なりに歴史を調べ食文化の変遷を考察するに「メンチカツがなぜハンバーグより下に見られるのか」の理由が判明した。そもそも美味しいハンバーグをもっと美味しくすることを目的にメンチカツは作られていない。メンチカツは、そのままでは食べられない不味い肉をどうにかして旨くするために、ミンチにして色々混ぜて最後を油で揚げて、なんとか食べられるものにしてきた、と言うのがその歴史なのだ。だから価格もハンバーグより安い。カテゴリとしてはコロッケと同列のカジュアルなファストフードなのだ。洋食ではなく片手で持って食べて良いのだ。

そんな大衆の腹を満たすカジュアルフード「メンチカツ」だが、全てのメンチがそんな「ごまかし料理」と思ってはいけない。本当に「ハンバーグをもっと美味しくするために揚げた」と言うアプローチで、素材の豚肉、牛肉、それぞれの部位、その割合、具材、揚げる油、衣の生パン粉、玉子にまで一つ一つこだわって、最後は自家製のドミグラスソースをかけていただく。そんな「メンチカツ」も世の中には数多く存在するのだ。それを「メンチカツ」と言ってしまうのは勿体ない、何か別の言い方ができなものか。語源に遡れば「ミンスミートコートフライ」(挽肉にパン粉をつけて調理したもの)となるが、意味がわからなくなるので結局はメンチカツか。写真は札幌市東区の老舗洋食屋「味かつ」のメンチカツ。そんなハンバーグの軽く上を行く料理だ。


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