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9月に読んだ本から

日がとても短くなり秋の気配が濃厚になって来たことを日々感じる今日この頃。そろそろ紅葉の便りもちらほらと聞こえますね。9月は積んでいて未読本や図書館を利用して借りた本を中心に読みました。


映画にもなったようですが、久々に東野圭吾氏の本を読んだ。非常に面白かった。私は年齢的に雑貨店の親父である浪矢雄治に重ねて読んでいった。あまり書くとネタバレになるので書けないが、どんな人間でも人に相談したいほど迷うことがある。しかし意外と近親者には相談できない。悩みながら選んだ方法を結果的に良かったとか、あーしとけば良かったとか、後悔することもある。しかし選択したからには突き進むのみ、みたいなキッパリとした生き方も中々できない。しかし、どんなアドバイスであれ、それをどう解釈して自分なりに進むかは、やはり自分が決断し責任持つしかない。タイムトラベルの要素を少し交えた本作は時代の空気も感じられて懐かしさも覚えた。特に1980年前後のプラザ合意、バブルの前の時代に「いとしのエリー」が流行っていたなど、私が大学1or2年の頃である。そしてナミヤ雑貨店みたいな店は、地方や沿線の小さな町にはさも在りそうな懐かしい駄菓子の味が漂ってくる。

やはり東野圭吾はストーリー仕立てがうまいなあ。容疑者Xの献身、白夜行などに続き、お気に入り東野圭吾作品の一つになりそうだ。

マティス、ドガ、セザンヌ、モネの4人の画家のお話4編を短く、しかし濃密な瞬間を取り上げている作品。マティスとモネの編ではタイトル通り料理や食卓の描写がしっかりと出てくる。ディナーだけでなく、朝食や昼食なども画家たちのとても大切な瞬間として描かれている。ドガが作り出したエトワールを目指した少女像のモデルは誰だったのか。必死に生きるバレリーナたちの姿を描き続けたドガは何を訴えたかったのか。
ジベルニーで自分の理想の庭や池を作り、日々描いていたモネの晩年の映像がありありと浮かぶ。ある一家の女性たちが、モネの創作の陰にいた。この短編の語り手である一家の娘がコトコトと画材や絵の具を乗せた手押し車を押しながら、モネのあとをついて行き、あの睡蓮の絵の創作を支えていたのだ。

もう1冊原田マハです。著者が心に残る絵との出会いを自らのエピソードとともに語ってくれる。僅か数ページの中で画家たちの人生の一コマを描き出している。そこにその絵に出会った時の自分を重ねている。全ての編を楽しく読ませてもらったが、あとがきにも出てきたセザンヌ夫人の肖像画は興味深い。物憂い表情がなんとも愛らしいではないか。この絵はデトロイト美術館の話にも出てくるようだ。「デトロイト美術館の奇跡」を次の読本リストに加えておこう。

明治維新を違う角度で見た作品と言える。戊辰戦争において旧幕府軍側であった東北の二本松藩の朝河正澄とその実子である朝河寛一とを描いた小説である。貫一が後年見つけた父の手記を小説という形で綴る。若くしてアメリカへ留学した寛一はすでに60歳を超える歳となった。日露戦争のポーツマス条約での交渉で成果を上げた寛一を襲っているのは、力にものを言わせて中国を侵略する日本に対する海外からの突き上げである。日本はそのまま太平洋戦争に突入するのであるが、その前から日本政府に世界から日本がどう見られているか、日本は戦争へ突き進むべきではないとあらゆる手段を使って説いていたのが、当時エール大で教鞭を取り、また中世欧州と日本の封建制度の研究の第一人者であった朝河寛一である。徳川家、そして幕府についていた会津藩を始めとする東北の諸藩はすでに恭順を示していたが、薩長はその恭順を示していた者を許さず徹底して排除しようとした。武力による制覇と新政府を牛耳ることしか頭になかった。くしくも今年のNHK大河の「青天を衝け」でその一旦が分かる。朝河もそして著者である安部龍太郎も、維新の薩長の思想とその後の日露戦争による勝利によって、力でものを言わせるという間違った方向に日本は進んだのではないか、疑念を投げかけるのである。

エール大で教鞭を取る寛一は内側からしかものを見れない日本に対して警鐘を鳴らすが、残念ながら日本は太平洋戦争に突き進んでしまった。
「青天を衝け」によって、今まで正統とされていた明治維新に対する史観が、薩長のテロという側面をあぶり出す。明確には言わないが端々にそれが感じられ、まさに渋沢栄一は、そんな薩長中心の政府とやりあっている最中だ。

維新を偉大なる革新としていた司馬遼太郎も、「最後の将軍」のあとがきに、後年一切幕末のことも維新のこともほぼ語ることのなかった徳川慶喜は、薩摩の者だけには意趣があり周囲に漏らしていたと、記している。

この「維新の肖像」によって朝河正澄、寛一という人物がいたことを初めて知った。そして当時彼らが行動したこと、発信したこと、訴えていたことは間違えていなかったことを歴史は証明している。


「維新の肖像」が面白く、また朝河寛一に非常に興味を持ったので本作を続けて読んだ。21歳で渡米し74歳で没するが、生涯の大半をアメリカで生き、外から日本を見ていた国際人であった。最後はエール大学の名誉教授となった人物である。しかし日本での知名度はあまりない。彼の生きざまを、二本松藩士であった父正澄とともに映画化またはドラマにしたら大変面白いと思う。NHKさんに頑張って企画してもらいたいものだ。


最後は見て読んで楽しい図鑑的な本を。先月、歌舞伎を見てから少し深掘りしようかと思い、代表的な歌舞伎役者である市川団十郎の本を読んでみた(見てみた)。12代まで続いている団十郎の個性がよくわかる。独創的で個性的な団十郎もいるなか、短命で終わったり、自ら命をたったり、この世を去ってから襲名した団十郎もいた。人に知れない苦悩もあったことと思う。

この本の楽しさは、そんな数々の団十郎と共演者を錦絵で見ることができることである。どんな苦悩を抱えようが、絵に見る団十郎を猛々しく、カッコよく、優男であったり、ユーモアたっぷりの表情を見せたり、見る者を夢中にさせる魅力ある役者である。さて、次の襲名はいつのことか楽しみである。

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