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Pianism / Michel Petrucciani 奇跡のピアニスト

 今日は奇跡のピアニストと称されるMichel Petrucciani(ミシェル・ペトルチアーニ)のアルバム、「Pianism」をご紹介します。

 Michel Petruccianiは、フランス出身のジャズ・ピアニストです。フランスでは、最高のジャズピアニストと評価されていました。36歳で急逝しましが、ショパンの墓のすぐ近くに埋葬されるほどに、人々から愛されていました。幼少の頃からクラシックピアノを学んでいましたが、またDuke Ellingtonのピアノ演奏にも心を奪われており、ジャズを志すようになりました。13歳で最初のコンサート、15歳でプロデビュー、18歳の時に初めてトリオを組みレコーディングを行いました。

1982年(20歳)にはアメリカへ渡り、Wayne Shorter、Dizzy Gillespieなど様々なジャズミュージシャンと共演、フランス人としては初めて名門ジャズレーベルのブルーノート・レコードと契約しました。1994年にはレジョン・ドヌール勲章を受章、2002年6月にはパリ18区の広場が「ミシェル・ペトルチアーニ広場」と命名されました。

 彼の演奏はBill Evansらの影響を受けてはいますが、そのスタイルには彼独自の個性が光ります。リリカルでありながらエネルギッシュなプレイは人の心を強く揺さぶります。また、その音は芯の強いものでありながら、繊細なやさしさも内包しています。まずは彼のピアノを聴いてみてください。The Prayerです。

 ここまで、彼のもうひとつの特徴である先天性疾患のことはあえて書きませんでした。まずは彼の「音」を聴いて欲しかったからです。彼は骨形成不全症という先天性疾患を患っていました。生まれつき骨が構造的に弱いため、身長は1mほどにしかのびず、骨変形からくる感染症をはじめとした合併症により、寿命が限られていました。彼の場合は20歳まで生きられればいいと言われていたようです。彼の骨は非常にもろかったので、演奏席まで運んでもらわねばなりませんでした。幸い腕は標準的な長さだったので、鍵盤を弾くことはできました。とはいえ、ハンディキャップは大きく、どうしてあのような素晴らしい演奏ができるのか、信じられないです。

もう一つ動画をリンクします。Take the A Train with Anthony Jackson、Steve Gaddです。

 音楽が彼の命を支えていたのでしょうか、実際には予想よりはるかに長く生きながらえることができました。しかしながら、人が人であるかぎり避けられない運命というものがあります。ツアー中にニューヨークで急性肺炎を起こし急逝しました。36歳の誕生日から10日足らずのことでした。

 限られた人生と比類なき才能。運命というものは皮肉なものですね。自殺未遂を繰り返した時期もあったそうですが、その後は安定し、素晴らしい演奏を聞かせ続けてくれました。彼の音にはそんなことを微塵にも感じさせない生命の力があふれています。彼に関しては各所で書かれていますが、短い人生ながらも肯定的に受け入れ、天賦の才を努力によって最大限に発揮させたという意見には賛成です。だからこそ、その音楽を聴く人が心を震わせるのだと思います。

 アルバム「Pianism」の紹介です。1985年にブルーノート・レーベルからリリースされました。一曲目、The Prayerが静かに始まります。静かに始まるアルバムというのはあなどれませんが、このアルバムもそうです。最初の一音から、すっと心の中に入って彼の世界に包まれてしまいます。ベースとドラムの絡み方が絶妙で、ピアノソロからインテンポに変わる頃には、ぐっと心がつかまれてしまいます。。次のOur Tuneはご機嫌なサンバナンバー、楽しそうな顔が目に浮かぶようです。テクニックは素晴らしく、彼に障害があること忘れてしまいます。クールな4ビートナンバーのFace's Face、僕の好きなNight and Dayと続きます。Night and Dayのベースとドラムの入り方も最高。楽器が加わるのに、「静かに」 インしてきます。それに合わせるようにすっと自然にタッチを抑え気味にするPetruccianiも素晴らしいです。呼吸と間を読み取る力、バンドにもっとも大切なことでしょうね。そのあとは、しっかりと刻まれたリズムの上で、自由奔放に指と手をすべらせ、腕を羽ばたかせるPetrucciani。9分半の時間があっという間に過ぎていきます。Here's that rainy dayは最初にほんの少しだけエバンスの影が横切りましたが、その後はまさにMichel Petrucciani。彼独自の叙情がしっとりと音の中に内包されています。途中の息をのむような早弾きのところも、しっかりとしたテクニックのためか安心して身を任せられます。そして最後の曲のReginaがまたいい。渋いベースラインでかっこよく始まったと思うと、その後はまさにバンドが一体となって、緩急、強弱を自在に操ります。

 今日はMichel Petruccianiとの出会いを感謝して、記事を終わりたいと思います。ぜひとも彼のピアノを聴いてみてください。人が生きるということの意味をふと考えたくなります。でもしばらくすると、気持ち良くなって何も考えなくなるんですよね。

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