プロダクトマーケティングマネージャー(PMM)を始めるときに知っておきたいこと
なぜSaaSにプロダクトマーケティングマネージャー(PMM)が必要なのか?やプロダクトマーケティングマネージャーとはなにかを執筆してから気づいたら2年半以上が経っていました。
当時は、日本国内でのプロダクトマーケティングマネージャー(PMM)という職種はあまり知名度が高くありませんでしたが、今は各社でPMM組織が発足したり、日本語での記事もちらほら見かけるようになりました。
執筆時の私はSmartHRに入社直後で、PMMとはなにかを自分なりに解釈するために言語化を試みていました。
あれからだいぶ経ち、当時とは様子が異なる部分もあるので、改めてPMMはなにをやる職種なのか、また私はなにをやってるのか、について整理したいと思います。
PMMの役割
PMMは「何が売れるか」を考え、「それをどう売るか」に責任を持つ役割であると考えています。
ここでいう「何が」は、新しい機能であったり、アップセル・クロスセルプロダクトであったり、様々に解釈できます。
しかし、ワンプロダクトのスタートアップで、規模があまり大きくない状況では、この役割は経営層やPMが担うケースが多いように思います。
また、「どう売るか」の観点でも、PMF以前はCEOが売り込むといったこともあるでしょうから、PMMの出番は少ないかもしれません。
Product Marketing Alliance(PMA)の調査「State of Product Marketing 2020」では、ミドルステージ、レイターステージからPMMが設置されるケースが多いようです。
このようにPMMは、ある程度複雑化したプロダクト・組織において、価値を発揮できる役割だと思います。
SaaS的な言い回しになりますが、PMMは担当プロダクトの専門家として、ビジネスサイドの各部署を横断しながら、The Modelをより効果的に機能させる役割と考えるとしっくりきます。
具体的な業務に落とすと、顧客と接したりマーケットと向き合う中で新機能やプロダクトのアイデアを発見し、リサーチを進めながらMRD(Market Requirements Document)を執筆、企画を前に進められるよう段取りをします。
開発着手のタイミングでは、プロダクトのポジショニングやメッセージングを決め、顧客からのフィードバックを収集し、GTM戦略全体に責任を負います。
ローンチ前後には、マーケティング部門とリード獲得に向けた戦略を話し合い、営業部門とセールスイネーブルメントに取り組み、CS部門とオンボーディングのプロセスを検討するなど、プロダクトのサクセス全体に責任を負います。
具体的にどういった業務があるのか
プロダクトマーケティングマネージャーとはなにかで整理した7ステージをもとに、どういう業務があるかを考えてみたいと思います。
カスタマーデベロップメント
・SFDCの商談記録などから、顧客の課題を汲み取る
・顧客の要望を読み込む
・営業やCSなど、顧客と接しているメンバーと情報交換をする
・営業に同行し、顧客と話す
・仮説をつくる
・顧客ヒアリングを行なう
ポジショニングとメッセージング
・競合分析をする
・自社の強みはなにかを考える
・MRDを書く
・戦略を考える
ポジショニングとメッセージングの指導
・全社に向けて、なぜこの機能・プロダクトが重要なのかを説明する
・全体の戦略の中での位置づけを明らかにする
・並行して作成しているモックなどを用いたソリューションヒアリングを実施する
・プライシングを決める
ローンチ計画の作成
・大まかなリリース時期を決める
・課金周りの設計を行なう
・SFDC上の管理方法を決める
・KPIの管理方法を決める
ローンチに必要なコンテンツの作成
・営業資料作成
・オンボーディング資料作成
・ヘルプページの作成
・オウンドメディアの記事執筆
・LP更新、作成
・デモ環境の用意と周知
・サポートチームと想定問い合わせを検討
チームの準備
・リリース日や情報解禁日を決め、周知する
・社内向けの説明会を実施
ローンチ
・社内からの問い合わせに対応する
・商談同席
・オンボーディング同席
・SFDCでパイプラインの管理
・勝敗分析を行ない、資料をアップデートする
・利用状況を分析し、プロダクトやコンテンツをブラッシュアップする
・ウェビナーに登壇する
・勝ちパターンを見つける
もっとたくさんありそうですが、ざっとこんなところでしょうか。
ただしこれらの業務はすべて一人で行なうものではなく、必要に応じて様々なメンバーと関わりながら行なっていくものです。
また、ステージは必ずしもこの順番で進んでいくわけでもないので、順番が前後することは大いにあります。
例えば、現時点では社内で巻き込むべき人が多くなっていることから、チームの準備はもっと早い段階で行なっています。
自分がやってることも簡単に紹介します
プロダクトの企画
私は、アップセル・クロスセルプロダクトをつくることをミッションに入社し、従業員サーベイ、人事評価といったアップセルプロダクトを企画してきました。
やってきたことは概ね上記の通りですが、ざっくり整理すると以下のような感じでした。(必ずしもこのようなプロセスとは限らないです)
顧客と話す中で課題を発見し、自社がやる意義を考えたり、市場規模を調査しながらMRDを書く
COOやPM/PMMメンバーとディスカッションしながらブラッシュアップしていき、全体的なロードマップを検討する会議体にて共有、承認を得る
アサインされたPMやデザイナー、エンジニアとモックをつくり、ソリューションヒアリングを行なう
ポジショニングやメッセージングを決めて、社内に周知する
営業資料をつくり、SmartHR導入済み企業へご案内をする
プライシングを決める
セールス部門のプランニングチームと、販売に向けた企画を行なう(社内勉強会、販売開始タイミングの検討など)
ZuoraやSFDCでの管理方法を担当チームと検討
KPIの管理方法を経営企画と相談
CS部門とオンボーディングコンテンツ作成
オンボーディング支援
マーケティング部門とリード獲得の戦略を検討
ウェビナー登壇
販売促進施策検討
ぱっと思いつく限りではこのようなことを行なっていました。
これらのプロダクトはすでに他のPMMに引き継ぎ、別のプロダクトの企画を行なっていますが、社内の人数増加やフェーズの変化に伴い組織構造も大きく変化しているため、なかなか前回と同じようにいかないこともあり、毎回悪戦苦闘しています。
第二の柱の立ち上げ
従業員サーベイや人事評価、その他いくつかのプロダクトは、従来SmartHRが取り組んできた労務管理とは少々異なる領域と考えています。
こういったプロダクトの開発方針や販売方法を考えるにあたり、全体的な戦略と包括的な概念が必要となってきたため、「人材マネジメント」という言葉を使用することとし、全社的な認識を揃えるためにSmartHRでの人材マネジメントの考え方を整理する、といったことを行ないました。
プロダクト群としてのポジショニングとメッセージングを決め、そのビジョンと戦略をPM/PMMで策定、プライシングを見直し、新プランを公開しました。
事業のフェーズは、労務管理領域と人材マネジメント領域で大きく異なります。
そのため、イノベーションのジレンマに陥ることを防ぐため、部署を横断した小さな会議体を設けて連携を強化したり、営業部署内にタスクフォースを結成し成功事例を積み上げるなどの動きをとったりしていますが、このような発案や実働も担います。
私は比較的0→1に近いフェーズを担当することが多く、業務内容も偏りがあります。
1→10、10→100での業務については、なぜSaaS組織に分断が起きるのか?「PLG Loop」で打破するセクショナリズムの壁、SmartHRのプロダクトフィードバック専用のユーザーコミュニティ「Senseiコミュニティ」を立ち上げた話などが参考になるかもしれません。
他の職種との役割分担
PMとの役割分担
PMMがよく比較されるのがPMです。
マーティ・ケーガンのINSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメントにはこのような記述があります。
PMMがいない企業では、PMがPMMが行なう業務を担うとあります。
PMが一人で担うにはあまりに負担が大きく、一人で兼務しようとすると、重要なタスクの一部が実行されない恐れがあります。
このためPMとPMMで役割を分担することで、業務量を適切なサイズに分割できると考えています。
また、PMとPMMの境界については、PMの業務を分担していくことから、プロダクトマネジメントトライアングルをベースにした緩やかな分業というのが個人的にはしっくりきています。
このあたりはプロダクトマネージャーの次のキャリアとしてのプロダクトマーケティングマネージャーをご参照いただければと思います。
マーケティング部門との役割分担
これは弊社の例になりますが、マーケティング部門と一口にいっても、これだけの機能を有しています。
これらの活動は非常に専門的です。
PMMは、これらの専門的な業務を担うメンバーに対して、プロダクトの情報を適切に伝達することが重要な業務の一つだと考えています。
SmartHRのPMMは、PMとプロダクトを通じた価値創造を推進し、マーケティング部門と価値伝達において協業しています。
つまり、PMMはプロダクトの価値を生み出しマーケティング部門へ伝える、マーケティング部門はスペシャリストとして適切なチャネルでその価値を伝える、という役割分担となっています。
最後に
PMMという職種に就いてから2年半ほど経ち、少しだけこの仕事への解像度が高まったので、記録も兼ねて本記事を執筆しました。
少しでもお役に立てる箇所があれば嬉しいです。
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