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「イチローPOST」と信書便

ユニクロで11月14日から「イチローPOST」というプロジェクトを始めたそうです。

さまざまな夢を描き、挑戦する子どもたちを後押しするという趣旨で、お店に「イチローPOST」というのが設けられており、「便せんとふうとうを用意して」イチローさんにお手紙を書いてそこに投函するか、WEBサイト経由で送信することで応募ができるようです。

ここで論じたいポイントは手紙はイチローさんに届くのか?です。

なんでこんな事を気にするのかというと、手紙というのは一般に「信書」であり、その信書をイチローさんに届けることは、普通に考えると、日本郵便か総務省が認可した信書便業者しかできない(郵便法と信書便法の規定)からです。

規約を読んでみよう

イチローPOSTには「プロジェクト規約」というものがあります。以下のサイトは、WEBサイトで応募するためのフォームですが、このページの中に「プロジェクト規約」があります。

これを読んだ限り、投函された手紙については信書に該当するか否かについては明確に述べていませんし、ユニクロは信書便業者であるとも書いていません。

このため、「イチローPOST」に投函された「手紙」が一般的な信書の定義に該当するか、プロジェクト規約を読みながら考えることにします。

信書とは

まず信書というのは郵便法によって定義されています(信書便法では郵便法を参照する形で定義しています)。

特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう。

郵便法第四条第二項

「イチローPOSTに投函された手紙」は信書なのか

文書というのは人間が知覚できる方法で有体物に可視状態で表現された文字・符号であるため、電磁的方法で記録された媒体は文書にあたらず、イチローPOSTプロジェクトでWEBサイトで応募されたものは信書に当りません。

では、イチローPOSTに投函された「手紙」は「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書」でしょうか。

プロジェクト規約の中にあるプロジェクト概要は以下の通り記載されています。

イチローさんからの「きみが好きなこと、向き合おうとしていることは何ですか?」といった問い掛けに対し、子どもたちから返信の「手紙」を募ります。

プロジェクト規約冒頭「プロジェクト概要」より

この記述からすると、自分が好きなこと・向き合おうとしていることを書いた手紙は「差出人の意志を表示」に該当することは間違いなさそうです。

一方、「特定の受取人に対し」というところは規約上慎重に考えられた節があります。

プロジェクト概要には「手紙を受け取ったイチローさんは」という文言があるのですが、このプロジェクトでイチローさんに手紙をそのままの形で届けるとは約束していません。

手紙を受け取ったイチローさんは、一部の子どもたちを実際に訪ねたり、特設サイトからメッセージを返したりして

プロジェクト規約冒頭「プロジェクト概要」より

そもそも「イチローPOSTに投函された手紙」の受取人は「イチローさん」なのでしょうか。ポストの名前からは誤解されそうですが、本当の受取人はプロジェクトの事務局と考えるのが妥当と思われる記述が規約から読み取れます。

届いた手紙は、本プロジェクトの特設サイトまたは各種広告・宣伝物に掲載させていただく場合がございます。このことにご同意いただけない方は、手紙を出すのをお控えください。
(中略)
手紙の著作権は参加者さまに帰属しますが、当社は、参加者さまに個別に承諾を得ることなく、無償で期間の制限なく自由に手紙の内容を利用(複製、改変、翻案、公衆送信及びそのために必要な加工等を含み、これに限りません)することができ、また同様の方法により第三者に利用させることができるものとします。また、参加者さまは手紙の内容について、当社及び当社が投稿内容の利用につき許諾を与えた第三者に対して、著作者人格権を行使しないものとします。

「プロジェクト規約」【注意事項】より

結論

イチローPOSTプロジェクトは「イチローさんへの手紙」という形式を取った懸賞(イチローさんに実際に会える権利がかかっている)応募であり、事務局が集めた手紙を実際にイチローさんに届けるわけではないのだと応募者(対象は子どもですので実際には保護者)は認識していれば良いのだと考えています。

「特定の受取人」が「イチローPOSTプロジェクト事務局」であれば、店舗からは「イチローPOSTプロジェクト事務局」への信書として適切な方法(郵便やレターパックなり、特定信書便)で配送されていれば大きな問題はないものと考えられます。

イチローPOSTに投函された手紙は「差出人の意思を表示した」信書であることは間違いなく、その受取人が「イチローさん」であれば「イチローPOSTプロジェクト事務局」は「イチローさんへの信書」を運ぶ役割を担ってしまうため、郵便法・信書便法に触れる可能性がありました。

物理的にもイチローさんに手紙を全部届けられるわけがない、と考えるのが妥当な大人の思考なのですが、子どもたちが書いた「手紙」は事務局の判断でイチローさんに届かないことがあるよ、と規約にはっきり書いておいてもいいのにな、というのが感想です。




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