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現代社会の「自治」を考え始める

私のいるNPO業界でも「自治」がキーワードとして再燃?しているように感じます。自助・公助・共助のなかでも、相互扶助力が瘦せ細ってしまい、地域における共助の機能は低下していると言われて久しいです。

そのような状況において、現代社会が自治の力を取り戻すことができるのか、『コモンの「自治」論』を参考に、自分たちの活動の省察につなげていきたいと思います。

「構想」と「実行」の分離

斎藤幸平さんは自治の弱体化を「構想」と「実行」の分離と捉えています。まず、資本主義社会のもとでは資本家が労働者を「包摂」し、資本主義社会以前にあった、人々の生産手段や生産能力は奪われてしまったと考えます。もともと一体としてあった「構想」し「実行」する作業が、資本主義では、資本家が「構想」し、労働者が「実行」するというように分離していったのです。

この「包摂」は労働の場面だけに限らず、普段の私生活にも及びます。資本主義社会では、全てのモノ・サービスが「商品」として貨幣による交換を可能としました。そうした便利なモノ・サービスを得ることによる自由の享受は、一方で自律性を損なう一因になっているのではないかという批判です。
ウーバーイーツやルンバで家事や掃除の負担から自由になることは、実際には私たちがどんどん受け身になり、他律的な存在になっているのではないかと言うのです。

さらに、昨今話題の「タイパ」に代表されるコストパフォーマンスの考え方は、リベラル左派の思考にも影響を及ぼしているとします。それが、トップダウン型で社会を変えていこうとするアプローチで、「政治主義」や「制度主義」と呼ばれます。これでは「構想」と「実行」は分離されたままで、民主主義や「自治」のために必要な市民の力は回復しないという観点から、トップダウン型のやり方を問題視しています。

コモンが「構想」と「実行」を再統一する

「自治」が重要だとする考え方は、これらの諸問題が権力関係に依拠していることを前提としています。例え「上から」法や制度の改革があったとしても、現場の運用が変わらないなら事態は改善されないとして、権利を要求する社会運動のほうが力をもつことに力点を置きます。マルクスは、「自治」を育むボトムアップ型の組織を「アソシエーション」と呼びました。

アソシエーションに依拠した自治は、水平的ネットワーク型であり、その極端な一例として2011年のウォール街占拠運動を取り上げています。この運動では、多くの人が座り込むに続けられるように、食事をみんなでつくったり、図書館や医療サービスまでもが共同で行われました。こうしたコモンを共同管理することで、「構想と実行の再統一」がなされたとしています。

垂直的組織の対案として生まれた水平的ネットワークは、いくつかの批判を乗り越えるための模索が世界で実践され、ミュニシパリズム(地域主権主義)にたどり着きます。水平的ネットワークは直接民主制を採用しましたが、大人数の全会一致を目指す意思決定は現実的ではないとも思います。その点でも、地方自治のサイズ感の方が可能性を感じます。

また、水平的ネットワークは絶対的なリーダーを必要としませんでした。それでは組織がバラバラになってしまうという批判に対して、リーダーフルな運動が高度な組織化を可能としていたと応答します。コミュニティ・オーガナイジングの手法を用い、運動に参加する人の中から何人もリーダーが生まれてくるデザインがあったのです。

教育・福祉の現場で

コモンの形成による「構想と実行の再統一」には、サイズ感と運動のデザインが重要な要素であると理解しました。ここで、自分の活動フィールドである「教育」を考えると、トップダウン構造のなかで現場の運営はうまくいかない状況はしばしばあります。かつ、子どもたちの移動可能範囲という制約があるため、学習環境(ハード面や社会関係資本含む)には必ず差異が生まれます。学習環境を全国で統一することは難しく、ここに自治の必要性と余地が存在すると考えます。

社会教育(青少年健全育成)の分野は伝統的に草の根運動として歩みを進めてきましたが、現在では、行政委託としてNPOが事業を実施することも増えてきました。この点では、権力構造における対立関係をつくれていないとも言えます。

僕がひとつ関連として想起したのは、鳩山政権下で湯浅誠さんが内閣府参与に就任し、失業者の個別支援や社会的な孤立を防ぐ社会的包摂事業を行っていたことです。

年越し派遣村というボトムで運動を行っていた湯浅さんが国に中枢に入り込み、トップダウンで事業を進めようとするなかでの苦難をNHKスペシャルで観ました。その放送では、政府主導で物事が進んだとしても、現場の運用が変わらないなら事態は改善されない現実が映し出されていたように感じます。その後、湯浅さんは参与を辞任し、社会運動側で、やはりボトム(世論)から変えていくアプローチをとります。

湯浅さんが理事長を務める認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえは、こども食堂の支援活動を行っています。こども食堂は、教育・福祉の分野で地域の「自治」の力を取り戻すひとつの事例のように思います。

権力関係の話がありましたが、仮に行政事業であったとしても、リーダーフルな運動をデザインし、「構想と実行の再統一」から「自治」を回復することは可能なのではないかと思います。僕らが行っている活動もまた、単発の教育プログラムを起点としながら、地域のつながりと教育力を耕していくアプローチをとっています。『コモンの「自治」論』を読んでいると、僕ら活動の発展は、地域の自治につながっているように感じました。

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