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滋賀の良い店、やばい店 長浜編

初めて長浜という街に降り立つ人は目を疑うはず。

「大津の10倍くらい人がおる!!!!!」

北国街道の面影が残る風情ある街並み、適度な観光客の賑わい、歴史を感じる寺院の門や曳山を収蔵している大きな蔵。町家を改装したカフェやギャラリー。アールデコ作品を収蔵する美術館やビール工場まで!?ここは果てしない文化の集積地。こんな北の大地に、こんな一大国家が形成されていたことに誰もが動揺を隠せない。というか滋賀のどの街よりも人多い。

そしてさらに北の高月・木之本周辺では突然百体以上の観音像が登場。京都からも奈良からも遠く離れたこの限られたエリアに、宗派も年代も越えた観音像が存在するのだ。しかも、それらは戦乱の度に村人がお堂から担ぎ出し、川に沈めたり土に埋めたりして戦火が過ぎるのを待った。そして観音さまは数百年経った今でも、それぞれの集落で大切に受け継がれている……。
こんなファンタジーのような嘘のような本当の話がほとんど知られてないなんて、そこがやはり滋賀なのか。滋賀が日本史の表舞台に躍り出る姉川の戦いや賤ヶ岳の戦い(そう、この有名な戦いの舞台は滋賀)にそんな裏テーマがあったなんて、本気で教科書を改訂するべき。


観音像のほとんどは一般公開されていないが、お堂によっては「ここに電話してください」みたいな看板があり、運良く都合が合えば当番の村人が軽トラで駆けつけ、観音さまの扉をパカッと開け、脇のラジカセをカチッとやる。いくら京都や奈良の有名寺院や通好みのお寺を回ろうとも、ここでのカルチャーショックは計り知れない。

滋賀県一「観光地」の名にふさわしい長浜市街地と、ハードルの高過ぎる観音の里。それらを全て包括し「長浜市」としてしまう平成の大合併って、本当に懐の深い改革だなぁ。


やば良い店★★★★★
中島屋食堂
そこだけ時空が歪んでいる、長浜のエアポケット。「あれ、こんなところにも東映の撮影所が」とか間抜けな感想を抱いてしまうのも無理はない。扉を開けても映画の撮影セットは続いている。「ルービヒサア」のロゴが入った鏡、民俗博物館が欲しがりそうな昭和の大スターのポスター、赤いパイプ椅子と木のテーブルの組み合わせ。これには世界のクロサワもびっくり。そして素晴らしいのはお母さんの髪型。訪問時は前髪をキャンディーのようにくるくる巻いたパリコレ並みのハイカラな装い。こんなマダムは銀座のホコテンでも見たことない。とにかく今すぐ長浜市重要文化財に指定するべき。
ジャンル:大衆食堂 ランチ:○

良い店★★★★★
trattoria giglio
観光地のど真ん中で地元民から圧倒的な支持を集めるお店。ズワイガニのテリーヌやらパスタのジェノベーゼやら、そのメニューに終始頰は緩みまくり。盛り付けは細部まで美しく、どれも記憶に刻まれる美味しさ。そしてこのレベルを維持しながら、立地に一切媚びることない価格設定が揺るぎない名店の証拠なのだ。控えめな佇まいで少し気後れしそうになるのもつかの間、扉を開ければキャラクターグッズが出迎えてくれる絶妙なアンバランスで滋賀らしさをプラス。
ジャンル:イタリアン ランチ:◎

良い店★★★★★
道次商店
地元に長年愛されていたおはぎの店を祖母から孫が継承するという感動の実話。以前の店は取り壊されてしまったものの、2019年に築100年以上の古民家に移転してさらにおはぎの名店感がアップ。おばあちゃんから忠実に受け継いだおはぎやうぐいす餅などの和菓子に加え、卯の花クッキーなど洋菓子の経験を生かした焼き菓子もグッド!週1回の営業は安定の滋賀らしさ。「明日は道次商店のおはぎの日だから、今日も1日頑張ろ~」なんておはぎを日々の句読点にできる長浜市民がうらやましい。『週に一度のおはぎとクッキー』。字面から幸せがにじみ出ている。
ジャンル:和菓子、洋菓子

良い店★★★★★
gallery & design URUNO
大通寺の門前にあった古民家ギャラリーが山のきわに移転。店の裏に伊吹山系を背負い、眼前いっぱいに田畑を抱くその環境から神々しく、店自体も神秘性が増している。器のセレクトも秀逸で、その審美眼はセレクターと言うよりキュレーターの域。もはやここは長浜の新たな美術館。店主は数々の展示会を企画するほか、デザインをしたりふなずしをつけたり。名前の音だけ聞くとどんな武士道の人かと思うけど、その実は色白で優しそうなお兄さん。これぞギャップ萌え?圧倒的な空間に尻込みせず、いろんな話を聞いてみたい。
ジャンル:ギャラリー

やばい店★★★★★
十割蕎麦 坊主bar 一休
蕎麦×坊主ということですでに香ばしい匂いの漂う滋賀らしい一軒。字面通り僧侶が営む蕎麦屋で間違いないが、極め付けは伊吹山系を背景にしたログハウス。しかもその立地は緑溢れる森の中とかではなく、高月駅から徒歩数十秒のスーパー好立地。かなり目立っている。そんなトピック満載の蕎麦屋を目指し、福井や岐阜などからも蕎麦フリークが訪れるそう。親子2人体制で、調理師と栄養士の資格を持つ息子さんが料理を担当、接客(説法)はもっぱらお父さん。お店をオープンした頃の思い出など、小難しい仏教の話とはまた違うありがたいお話を聞かせてくれる。運がよければ心が120%和むイラストとお言葉の描かれた法語印の授与もあり。ちなみにログハウスは一式セットのようなものがあるらしく、自分たちで組み立てたそう。特に滋賀だから驚かない。
ジャンル:蕎麦 ランチ:○

やばい店★★★★★
想古亭源内
賤ヶ岳の麓というよりほぼ賤ヶ岳にある創業100年以上の料理旅館。炭焼きのうなぎ料理や湖国の幸を凝縮したようなコース料理が名物ながら、最近メニューの仲間入りを果たしたのがパスタランチ。そう、「イタリアン始めました」。彦根のイタリアンで腕をふるった5代目シェフが新たな価値を提供している。立派な自在釣の掛かった囲炉裏、甲冑が飾ってありそうな床の間、達筆な扁額。築120年の純和風空間でパスタを味わうカオスは、京都のいわゆる「町家でイタリアン♪」のような体験とは一線を画している。何せアクセスの難易度が高すぎる上に周囲の環境がガチだから。ちなみに木ノ本駅までロンドンタクシーで送迎してくれるサービスあり。
ジャンル:料理旅館 ランチ:◎

やば良い店★★★★★
丘峰喫茶店
賤ヶ岳ロープウェイのすぐ近くの喫茶店。古民家の建物はまさかの築450年越え。観音の里の平野を見渡す店内からの眺めは最高。喫茶店と言いながら、野菜から出る水分とスパイスだけでカレーを作ってしまったり、ふなずしはもちろん小鮎のなれずしや「オイカワのめずし」など、地元民以外では区切り方や当て字が全く思いつかない名物を漬けてしまったり、はたまた漁師の船に乗って小鮎の沖すくいに同行したり、女将の熱意と探究心は料理人そのもの。元新聞記者の女将は一人出版社も営んでいる。旦那さんは木工作家兼ギター職人でもあり、店内でライブを開催することも。とにもかくにも名店というより他にない。
ジャンル:喫茶店、出版社、ギター ランチ:◎

良い店★★★★★
cafeの遊び
公務員を引退した店主が、料理好きが高じてオープンした通称「大人のための喫茶店」。ここで趣味の範疇にとどまりがちな脱サラ○○を連想してはいけない。オムライスのデミグラスソースは牛すじと野菜を煮込んで仕上げるまで3日。分厚いフレンチトーストは、安曇川の至宝「美宝卵」につけてじっくり焼き上げる。グルテンフリーのガレットや水羊羹、マーマーレードジャムももちろん手作り。ここは料理への愛と情熱に満ちた、店主の新たなステージなのだ。喫茶店と言いつつコック服を着用しているその姿勢にも店主の覚悟が現れている。定年後に新たな道を邁進する店主の姿に共感するリタイア組みも多いはず。なるほど確かに「大人のための」喫茶店。
ジャンル:喫茶店 ランチ:◎

やば良い店★★★★★★★★★★
長治庵
江戸時代創業の超歴史ある古民家宿。平日は予約をすれば宿泊客以外でもランチが食べられる。その内容は山菜盛り合わせ(5〜6種)、鱒の竹皮蒸し、小鍋、蒸し飯、デザート、ごはん1合強(1人。2人なら2合)で今世紀最大の衝撃価格1500円。明治初期の面影を残す立派な囲炉裏のある部屋で、料亭さながらのフルコースを堪能して1500円。税込で1650円とかそんなことが問題ではない。これが京都の料亭なら席料だけで終了するはず。ちなみに小鍋をイノシシ鍋や近江牛鍋に変更すると2000円。そしてツヤッツヤのコシヒカリはご主人が日本一高いと言われる品種と同様の自然農法で栽培したもの。原価計算の仕組みが全くわからないが、もう頼むから一律5000円にして欲しい。もちろん滋賀らしく量も半端なく、ご飯は桶のようなおひつにたっぷり入ってくる。極め付けはほっこり女将の「ご飯足りましたか?」のひと言。こんな名店が載らないなんて、ミシュランも全く信用できない。
ジャンル:料理旅館 ランチ:◎◎◎

やば良い店★★★★★★★★★★
かくれんぼ
国道8号線沿いで目に留まる「かくれんぼ」の文字。国道×かくれんぼ。たとえどんな外観であろうと、この多いなる矛盾を見逃すわけにはいかない。もはやこの滋賀という土地でこの展開、これは勝利の方程式に見事に合致しているのだ。0か100かの可能性にかけて扉を開けると、右手には予想だにしなかった重厚なバーカウンターと壁一面のボトルキープに面喰らい、「お食事 喫茶」の冠にまんまと「やられた!!」と思うはず。そして左手はあのガラスのテーブルと赤い椅子。喫茶店の連想ゲームで思いつきそうなメニューはほぼ全てある。中でもからあげ定食はサクサクジューシーで大粒のアレ。結果想像をはるかに超える大勝利を収めることになる。「扉を開けるその瞬間までわからない」。滋賀の良い店を発掘する上での座右の銘はここから生まれた。
ジャンル:喫茶店、スナック? ランチ:◎◎

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