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小説【ベスト・ドロップ】

ガールズ&パンツァーのダージリン様のお誕生日祝いとして書き下ろしたダージリン様とオレンジ・ペコの二次創作短編小説です。
よろしければ是非、御一読ください☕


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 「おはよう、オレンジ・ペコ」

 僅かながら漸く陽射しが弱まりを見せ始めた9月17日の朝、いつもより少しの緊張と焦燥を抱えて学園敷地内の演習場へと到着した私の姿を見るやいなや、ダージリン様はいつもと変わらぬ様子で声を掛けてきた。

「おはようございます、ダージリン様。遅れてすみません」

 挨拶を返しつつ隣に並んだ私は改めて身なりにおかしなところが無いか軽くチェックした。そんな私の様子を見て少しおかしそうに微笑みながらダージリン様が口を開いた。

「謝らなくてもよろしくてよ。まだ練習開始時間前だし。これは私の個人的な日課みたいなものだから。それに私と同じくらいの時間に起きてこうしてやってくるなんてあなたも流石だわ」

 そう言ってダージリン様は視線を私から移し、前方を見据えた。視線の先には私たちが搭乗する、すっかり見慣れた戦車「チャーチル」が朝日を受けて輝きながら鎮座していた。幾多の戦車道の試合で使用され、数えきれない敗北や勝利を培ってきた貫禄のようなものが、その車体には確かに宿っている気がした。そしてその年月の一部は私がダージリン様と過ごした時間の表れでもある。当然のことだが、三年生であるダージリン様と一緒にこの戦車に乗れる回数はもうそれほど多くはないだろう。最近は戦車の乗り降りをする度にそんなセンチメンタルなことを想ってしまう。いつか終わりが来るなどというのは当たり前のことなのに、どうしてこんなにも受け入れがたいのか。まるで自分の中の弱さがありありと露呈してくるようで複雑な心境だった。

「ねぇペコ。こんな言葉を知ってる?」

 不意に声を掛けられてびっくりしてしまった。驚いている私に構わずダージリン様が言葉を続ける。

「時というものは、それぞれの人間によって、それぞれの速さで走るものなのだ」

 ダージリン様がなぜ今その言葉を口にしたのかはわからなかったがなんとなく、本当になんとなくだが、ダージリン様は今、自分と似たようなことを想っているような気がした。
 私はフッと軽く息を吐いてから言葉を紡いだ。

「シェイクスピアですね」

 ダージリン様が優しく微笑んだ。

「正解。流石ね、オレンジ・ペコ」

 私はダージリン様と視線を合わせたまま、質問してみた。

「ダージリン様、どうして今、その言葉を引用なさったんですか?」

 ダージリン様は少しだけ目を伏せてそうね、と呟いた。

「この言葉にある通り、私は聖グロリアーナの淑女としての時間を、自分の想い描いた理想に沿った速さで進んできた。そこには揺るぎない自負や自信があるわ」

 そこで一度言葉を切ってから、ダージリン様は空を見上げた。9月の空らしい、すっきりとした色合いの青空だった。

「けれど、そうやって進んでこれたのは自分の意志によるところではあるけれど、それだけじゃない」

 ダージリン様が私に視線を戻し、私の目をまっすぐに見つめた。よく知る青い瞳が私を捉えて離さない。

「あなたたちが、皆が居てくれたからよ」

 私たちの間を優しい風が通り抜けた。

「皆が私を信じ、自分自身を信じ、ついてきてくれた。かけがえのない時間を一緒に創ってくれた。だから私は、自分の想い描く理想に沿ってここまで来れた」

 胸がキュッと締め付けられるような感じがした。自分の心臓の音がやけに大きく聴こえる。

「私と一緒に居てくれて、ありがとう」

 そう言ってダージリン様はとても素敵な笑顔を見せた。これも私がよく知っている、穏やかで優しい笑顔だった。
 私は一度深呼吸してからダージリン様を見つめ返した。

「お礼を言うのは私たちの方です」

 気を抜くと涙がこぼれそうになるのを堪えつつ、一気に言葉を綴った。

「ダージリン様だから、ダージリン様が私たちを信頼してくださったから、私たちはどんな速さでもどんな道でもついていくことができるんです。だから、私たちがここまで来れたのは、ダージリン様のお陰なんです」

 目の前のダージリン様は珍しく少し驚いたような表情をしていた。そしてほんの僅かな沈黙を挟んだ後、再びダージリン様は口を開いた。

「ありがとう。ここに来れてよかった。皆と出会えて、本当に......よかった」

 噛み締めるような、けれどとても優しいその声の響きに心が暖められてゆく。
 私もです。と、心の中で返した。私もダージリン様と出会えてよかったです、と。

「さぁそろそろ戻りましょうか。練習前に軽くお茶したいわ」

 そう言ってダージリン様は踵を返そうとした。そこで私ははたと気づき慌てて声を掛けた。

「ダージリン様、あの、お誕生日おめでとうございます......!!」

 振り返ったダージリン様は少し目を見開いてから、柔らかく微笑んだ。

「ありがとう、ペコ。今年もとても素敵な誕生日になりそうだわ」

 そう言ってまたニッコリとダージリン様は笑った。私も似たような表情をしているのだろう。
 ダージリン様が歩き出した。

「さぁペコ、一緒に戻ってお茶を淹れてくれる?誕生日に飲む最初のお茶はあなたが淹れてくれたお茶を飲みたいの」

 私も心を弾ませながらダージリン様の後に続く。

「はい!喜んで!あ、ですがその前にローズヒップさんに今日のダージリン様のお誕生会のことを伝えてきていいですか?」

「えぇ、それはもちろん構わないけれど、ローズヒップにはお誕生会のことを今日まで伝えていなかったの?」

「そうなんです。だってあんまり早くに伝えると、ローズヒップさんはダージリン様にうっかり話してしまいそうですから」

「まぁ。確かにそれもそうね」

 私たちは小さく声に出しながら一緒に笑った。9月の空は晴れ渡り、どこまでも続いている。


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ダージリン様お誕生日おめでとうございます。いかなる時も優雅な貴女をお手本に、これからも頑張ります☕


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