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その昔の勘違い

店が静かな時間になって書いている。近頃の天候のように落差の激しい酒場だ。最終電車が早くなり、コロナ禍のリズムか夜も早くなったように思う。深夜は大人の街ではなく若者で溢れ(酒場でゆっくり飲むタイプではなく)、生田新道に蔓延る「呼び込み」も若い。そのうち、夜が強いはずだった大人も、このマチに戻ってくると信じて今日も加納町の店に立つ。

そんな中、SNSを見た。同い年の知人が「バターナイフでバターを切るのがなんでこんなに下手なんやろと今日思いました」と呟いている。Twitterかっ!と思ったが、そこにこれまた知人が「パターじゃないんですね?」と書いていたので、このコメントの主のあの日のことを思い出した。


ここ10数年悩んでいることは、古傷、後遺症だ。ラグビーなのか事故なのか、いずれにしても普段の生活には支障がない。ただ思いの外、膝(半月板)がグリンっと回ったり外側側副靭帯が軋んだり、足首も慢性捻挫なので、軽いスポーツでも時折電気が走るような情けない姿にもなる。勲章と言うには、もうそれほど若くないのだ。(厄祓い、数えで60歳と改めて知る)

ここ数年とみにその傾向が出てきたせいで、ゴルフであっても躊躇することも多く、自分企画よりも、仲間のお誘いラウンドが主になっている。ゴルフの仕事(商品コピーやプロモーション、CM原稿など)もしているので、その業界には詳しくなったが、積極的にやるのはモルックくらいになった。

それでもゴルフは食事と似ていて「誰と共に過ごすのか?」が重要である。しかし残念ながらそれが始まれば、少なくとも9ホール、18ホールの数時間を過ごす相手を選べない時もある。例えば呼ばれたコンペや、接待を受ける場合、初めましての同伴者にその1日は如何様にもなる。それだけに、誰と回るのか?は、数えで60歳(しつこい)には不可欠課題なのである。

ソムリエ界の重鎮なのにおくびにも出さず、いつもにこやかな(心に厳しい目を持つ)料理人Kさんは「誰と共に」のありがたい仲間である。翌週一緒のラウンドを控え、僕はキャディバッグにパターがないことに気づいた。月に一度か二度ほどラウンド、練習嫌いゴルファーの僕だからひと月空くこともある。焦ってその時のゴルフ場に問合わせると、ちゃんとバッグに入れたと言う。ダメもとで同伴者に連絡すれば、「2本入ってる」と判明した。

その人に取りに行けばいいのだが都合がつかず、そう言えばKさんは最近パターを変えて、とりあえず残しているものが何本かあると聞いていたから、「実は…でパターが無いんですけど、お借りできませんか?」とメッセージを送ったところ、「どれくらいいりますか?」と返ってきた。そんなにパターをコレクションしているのかと思ったが、「いえいえ一本で構いませんよ」と送ると「いつ、ご入用ですか?」と言ってきた。

ん?月曜にゴルフ一緒だよな?と思いながら「もちろん、月曜に」とメッセージを終え、しばらく経った頃に気づいた。

Kさんは、パターとバターを勘違いしていた。

後から聞けばKさんは、ちょうどバターが品薄で貴重な時期であったけれども何とかしよう、暑い時期だから、保冷バッグにどうやって入れようか?一本って言ってたから500gは必要なんだろうな?志賀さんがケーキ作りでもするのかな?それは意外だな?ゴルフ場のフロントやレストランは冷蔵庫でバターを預かってくれるのか?などと考えてくれていたそうだ。

そしてすぐさまお間違えじゃないですか?とメッセージをして事なきを得た。老眼の僕なら間違えそうな読み違いだが、さすがKさんは料理人目線だった。優しさと、何とかしようという心意気に溢れたエピソードだ。


あのまま間違いに気づかず当日を迎えていたなら、
僕はゴルフではなく野球をしたのだろう。

パターの代わりのバターでパッティング、いやバッティングを。

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