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(続)日本の上下関係と階層社会

この映画「超階級社会」の概要を見て私は、韓国国民が階級社会の問題に真正面から取り組もうとしているように感じました。それは日本の現状を憂う私にとって、とてもうらやましいことです。

両国の言語に敬語が存在することからも分かるように、世界でも大変に特異で、日本と韓国に共通しているのが上下関係階級社会です。

これは両国の社会のあらゆる場面で、年上/年下、上司/部下、顧客/業者などの2者間の大きな権利と力の差となって現れ、弱い立場の者に無条件の服従を強いるものです。自由・平等を価値観の基本とする現代の民主主義社会においては、様々な弊害をもたらす悪弊と言えます。
一例を挙げてみます。「年上/年下」は若者男性にストレスを与え性犯罪の発生率を押し上げます。「上司/部下」「顧客/業者」は労働者に仕事上のストレスを与え、上の者の要求を下の者が常に満たす必要があるため、長時間労働による彼らの心身の健康とワークライフバランスの棄損という大きなな社会問題を引き起こします。
上下関係と格差社会は、両国の世界男女格差ランキングの異様な低さとも(153ヶ国中、日本121位、韓国108位)、密接に関係していますし、人種差別や排外主義にもつながっています。下の者が抱えたストレスは女性や在日などのマイノリティに対する攻撃という形で現れるからです。

世界でも珍しいこの特徴が何故日本と韓国に共通して見られるかと言えば、時の権力者たちが国を統治し、権勢を長く維持するために、人民に儒教を浸透させたからです。儒教の基本的な教えである「長幼の序」こそが上下関係、格差社会の根本なのです。日本では長幼の序が「秩序尊寿の精神」につながり、社会や組織の秩序を維持することが最大の美徳であり、どんな美徳を含んだ言行であっても秩序を乱す行為(お上のご政道に口をはさむ、人の価値観を変えてしまうような新しく目立つ言行等)は悪徳であるとされます。制度疲労を起こしている旧来の社会システムと古い価値観をいつまでも引きずり、変革を拒む、言わば停滞する現代日本社会の病理そのものと言えます。

世界の歴史を振り返れば、王政や独裁による専制主義、全体主義国家においては、上下関係と階級社会は一般的なことでした。
しかし欧米諸国は市民革命などにより、これらを排し、個人の自由と権利を守ることを基本理念とする自由・民主主義社会へと変わりました。歴史上の決定的な出来事は第二次世界大戦です。これは日独伊のファシズム国家と米英を中心とする自由・民主主義国家とのイデオロギーの覇権争いであったと言えます。結果は皆さんご存知の通りです。
それ以降、アジアの多くの国々も専制君主を排し、旧来の社会システムと価値観を一掃した新たな社会を実現しています。
中東においては、2010年にアラブの春が起こり、多くの国の専制君主が倒されました。現在はまだ混乱期であり、宗教上の難しい問題もあるので未来は予測できませんが、民衆の力によって、新しい時代に向け前進を進めようとしていることは確かでしょう。

最初に述べましたが、世界から見れば日本と韓国は特異点であり、上下関係と階級社会だけでなく、その他の文化、習慣、国民の性格や考え方などにおいて、多くの似た側面を持つ兄弟のような国です。
そして韓国は世界中から賞賛されたコロナ禍の素晴らしい対応でその実力を見せつけたように、近年急速に経済発展と社会システム、文化、価値観の変化と進化を進めています。それは男女格差と幸福度の世界ランキングで昨年2019年に日本を追い越した事実や、KPOPの米ビルボード上位ランク入り、韓国映画のアカデミー賞受賞などにも現れています。
また私個人が仕事やプライベートで知り合った韓国人と実際に付き合ってみて、彼らに20年前のアグレッシブな韓国人とは違う洗練され知的な印象を感じることからも確かなことだと思っています。

日本だけが世界の標準的価値観から立ち遅れ、停滞と衰退を続けているこの現状を放置してよいわけはありません。

(参考)
日本の上下関係
https://note.com/shig_matsuoka/n/n49b207c1a620

役所の紙書類至上主義と秩序尊守の精神
https://note.com/shig_matsuoka/n/n4dd410d3e30f