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ドライブトラブル in イスラエル③

2019年3月15日 初回投稿

エルサレムはイスラエルの首都だが、ユダヤ教、イスラム教、キリスト教の3つの宗教と、様々な人種が共存する複雑で不思議な街だ。

ガザやベツレヘムのようなパレスティナ人居住区は、イスラエル社会とは完全に隔離されていて、出入口には厳重な検問所が設けられている。しかしエルサレムでは、彼らの居住区に続く道路上に、何の障害物も仕切りらしきものもない。

イスラエル人の同僚からは「エルサレムの道は複雑で、慣れないと誤って危険地域に入ってしまうから、あまり車で走り回らないように」と言われていた。

パレスティナ側とイスラエル側の車のナンバープレートは色が違うので、どちらの車か容易に見分けがつく。
そのため、パレスティナ地区を走るイスラエルの車に、義憤にかられて投石をするパレスティナ少年達がいて、実際に死者も出ているらしい。私もネット動画を見てその恐ろしさを知っていた。いたずらとか言うレベルじゃない。「お母さん、これは戦争です」。

「パレスティナで投石をする少年たち」

動画の道路は、エルサレムから死海へ抜けるハイウェイだと思います。見覚えありますもの。パレスチナ地区にイスラエルが便利だからと勝手に作っちゃったみたい。


「エルサレムのパレスチナ人居住区で投石をする少年をはねる車」

あはは、何だかここも見覚えある


詳しい理由は知らないが、パレスティナ地区に入ると、車のナビの地図が真っ白になり使用不能になる。なにより街の様相がガラリと変わるので、自分の居る所がそれだとすぐに分かる。たとえれば目黒通りを逸れたら、いきなりどこぞの貧困国にワープしてしまったような感じだろうか。

もし入ってしまった場合、出来るだけ住民と目を合わせないようにして、Uターン出来そうな場所を探す。そのまま進んでも、きっと居住区の境界の行き止まりに突き当たるだけだ。しかし道が狭い上に住宅が密集していて、なかなか適当な場所が見つからない。あせる、やばい、やっちまった。そう、私は今、入ってはいけない所に入ってしまったらしい。

下手に道を逸れると、それこそ迷路に入り込んでもっと泣くことになる。それは過去に1度経験して学習済みだ。どうせなら、興味に任せてふらふら走り回るべきではない、ということも学習するべきだった。同僚の忠告に従うのは、カッコ悪いという子供じみた虚栄心も、次は大丈夫といういつもの根拠のない自信も、捨て去るべきだった。

道は渋滞して車はノロノロ進む。子供たちが走り回って遊んでいる。奥さん連中が井戸端会議に花を咲かせている。思ったより皆さん楽しそうに暮らしていて、大変喜ばしいことではあるが、出来れば時々こちらを見るのは止めて頂きたい。別にフェラーリに乗っている訳じゃない。ただナンバープレートの色が周りと少し違うだけだ。中にいる日本人は、パレスティナの独立を心から願う、君たちの友人だということを知って欲しい。
10分ほどそんな調子で進んだろうか、ようやく小さな空き地を見つけて、Uターンすることが出来た。

帰り道も同じように渋滞している。あせる気持ちを抑えながら、亀のようにノロノロと進む。同じ景色を逆に見て、やっと懐かしい先進国の都市の街並みが見えてきた。ナビの地図も戻ってきた。
ここまで来ると、やはり日本とイスラエルは、同じ西側自由主義社会の仲間なのだとの思いを強くする。パレスティナ問題については、後日ゆっくり考えることにしたい。
しかし、早く元の世界に戻ろうと気持ちは急くものの、夕刻の道はますます混んできて、STOP&GOを繰り返す。
ようやく抜け出せるかという所まで来て、再びSTOP。

その時だった、突然パンパンと大きな音が連続して鳴り、私の斜め前に駐車してある車のボンネットから白煙が上がった。盗難防止の警報音がけたたましく鳴り響く。
テロだ!頭が真っ白になる。昔見た映画の1シーンに自分がいる感じ。日本にいる家族の顔が浮かぶ。ここで車を捨てて逃げるべきか迷う。どうしよう、神様。迷っているうちに前の車が進み出したので、仕方なくそのまま進む。白煙を上げる車の横を通り過ぎる。何事も起こらない、ありがたい。幸いその後は止まることなく、ゆっくりと現場を離れることが出来た。

I'm ALIVE!
生きてるって素晴らしい

道路沿いのレストランから、先進国の客が出てきて何事かと現場の方を見ているが、私は車列と私の車のエンジンが止まらないことを祈るのに必死で、バックミラーもあまり見れなかった。

次の日、イスラエル人の同僚に話したら「Dangerousだね。分からないけどテロじゃないと思うよ。でももう行っちゃだめ」とのことだった。

あれは何だったんでしょうね。整備不良の古い車のバッテリーが暴発したのか、あるいは悪ガキのいたずらか、今となっては知る由もありませんが、貴重な体験だったなあとも思います。

誤解を解くために言っておくと、最近ではイスラエル地域でのテロは、ほぼないと言って良いと思います。大都市での通り魔的なテロは、たまにあるようですが、出会う確率は、交通事故に会う確率に比べれば、かなり低いでしょう。大規模な自爆テロは、ここ15年程起きてないはずです。
残念ながら、ガザ地区での大規模な衝突は、数年おきに起きています。観光客の身に危険が及ぶようなことはありませんが、観光は出来なくなるかもしれません。
しかし、イスラエルは、多くのリゾート地や、歴史的・宗教的にも価値の高い観光地が沢山あって、本当に興味深い所なので、多くの日本人に訪れて貰って、その良さや奥深さを知って欲しいと思っています。

読んで頂いてありがとうございます。