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抄訳"Leading with Vision"-第2回「ビジョンで人をつなげるためにリーダーに必要な4つの本質的な要素」

株式会社シフト・ビジョン取締役の梯(かけはし)です。

前回の抄訳”Leading With Vision”-第1回”CompellingなVisionとは?では弊社の社名の由来になりました書籍”Leading with Vision”の第一章と第二章について、「CompellingなVision」とはどういう意味なのか、そして「階段を一度に二段かけあがらざるをえないような気持ち」に焦点を当ててお話ししました。

今回は第三章と第四章に沿って、本書で挙げられている二つの成功事例と著者が実施した調査結果を基に、ビジョンで働く人をつなげる上でリーダーに必要な4つの本質的な要素についてご説明します。

1. 二つの成功事例

最初は非営利団体であるSt. Luke’s University Health Networkの事例です。

St. Luke'sは12の病院と300以上の外来診療所を持ち、Pennsylvania州Bethlehemに本拠を構え、16,000名以上の従業員を抱える団体です。

ここで長年CEOを務めるのがRichard A. Anderson氏(以下Rick)です。同団体は2006年に最終的には”My Health, My St. Luke's"に集約されることになるブランド構築活動を始めます。そのために戦略担当オフィサーであるBob Martinはまず広告会社出身のSusan Dubuqueを採用します。

Susanは同団体のブランドを”Aspirational”、すなわち熱烈な期待や目標を実現しようと意図するもの、そしてすべての主要なStakeholders、特にそこで働く人が"credible"、すなわち本物だと強く感じることができるものにすることが大切だと考えました。そのためにブランドは次の5つの質問を満たす必要があるといいます。

Is it credible? 本物だと強く感じることができるものか?
Is it compelling? 人の心をつかんで、動かさずにはおかないか?
Is it distinguishing? 他には無いユニークなものか?
Does it apply to all of our products and services? 自分たちのすべての生産物やサービスに適用されるものか?
Does it present a benefit to the consumer? 消費者に恩恵があるものか?

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

Susanはブランド構築のためすべてのstakeholdersにインタビューする際に、思い込みに囚われることがないように、St. Luke’sがどういう団体なのかに集中した、と言います。その結果、St. Luke’sでは組織文化が個人的で、協力的で、思いやりがありそれらの文化的特徴がコミュニティや従業員と共鳴している、ということを発見します。その結果が”My Health, My St. Luke's"というブランドに集約され、その後のMarketing Campaignにつながっていきます。

St.Luke’sでは従業員もボランティアも職場を”Compelling place to work”、すなわちキャリアを通じてずっと働きたいと思うだけでなく、次の子や孫もそこで働きたいと思うような場所だと考えています。この職場には彼らにそこまで思わせるような何ががあるのです。

その何かのヒントとして、CEOのRickの存在があります。彼が模範として示す些細な態度、従業員を大切にすることを示すためにRickのオフィスにつながるホールに掲げられた歴代従業員の写真、秘書を敬う言葉、そして妻や全ての従業員への感謝。Rick自体がこの組織の文化を作り上げているのは明白です。ある従業員はSt. Luke'sで働く理由はRickだと明言します。

Rickは過去CFOの採用で失敗を犯しています。社内にCFOポジションに興味を示していた人財がいたにも関わらず、外部アドバイザーとして長年信頼できる働きを示していた人を採用したのですが、結局その人材はSt.Luke’sの組織文化に合いませんでした。Rickは自分の過ちを公然と認め、そしてこう言います。

"I hope that my team knows that I'm willing to admit my mistakes, just as I expect them to admit their own." 私のチームは私が彼らに過ちを認めることを期待しているのと同じように、私自身が進んで過ちを認めると思っているはずです。
”Learning means making mistakes, and if we stop learning we're in trouble"
学ぶということは過ちを犯すということで、もし学びを止めれば問題に直面します。

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

この自分の過ちを認める行為、すなわちVulnerability(弱さ、もろさ)はTransperancy(透明性)やIntegrity(高潔さ)と並んでリーダーらに求められるAuthenticityの一要素です(参考:「リーダーやHRが示すべきAuthenticityとは」HIRAKUコンサルタンシーサービシズ by 梯 慶太)。すなわちRickはAuthentic Leadershipを実践している訳です。

以上のように、このSt. Luke’sという団体で働く従業員をつなぎあわせているものは、まずこのRickというVisionary Leaderであり、そしてRickが築き、そしてそこで働く人全員が信奉している組織文化、それが”My Health, My St. Luke's"というブランドに凝縮されているのだと言えます。

二つ目の事例はBumble Bee Seafood社です。

同社はSan Diegoに1899年に創設された、ビンナガマグロ、マグロ、イワシなどの特殊海産物製品の供給業者で、CEOはChris Lischewskiです。

ChrisがCEOに就任したのは1999年の9月で、一度の経営破綻を経て数年経った時でした。当時同社の組織文化は酷い状態で、多くの従業員のパフォーマンスは標準以下、モーチベーションも高くありませんでした。たった一つの主力商品に依存している状態で、その市場は断片化しており、どのプレイヤーも市場をリードできる状況にはありませんでした。Chrisはそういう状態から商品ラインを再構築・拡大し、組織文化を見直し、チームも再建しました。

まず彼はすぐに機能するマネジメントチームを結成する必要があることに気づきます。採用においては、スキルやコンピタンシーだけで採用するのでは無く、組織文化にフィットしているかどうかが大切であることを理解、ビジョンと団結の必要性を理解し、勝つメンタリティを持ったアスリートを採用します。また、ブランド再構築においては、顧客の健康志向に注目、サステナビリティと自然保護を業界でリードしていきます。しかも財務状態を鑑みて、それらをコストを犠牲にせずに達成しようとします。

彼がチーム再生において注意したのは、しっかりとしたコミュニケーションと完全な透明性です。しっかりとしたコミュニケーションとは絶え間なく、体系だてられていて、徹底してライン通りに行うものです。それはまるでサッカー場のプレイヤー同士のコミュニケーションのようなものです。

そしてチーム内には多くの信頼があります。信頼を築くためには透明性が必要で、財務情報開示義務がある公開企業では無いにもかかわらず従業員はすべての財務状況を知っています。この透明性は、先に紹介したAuthenticityのもう一つの要素でもあります。

これらの努力の結果、Bumble Bee Foodsは北米で最大の常温保存食品ブランドになりました。添加物や保存料、塩は全く使っていません。従業員が健康への認識を積極的に高めるられるような医療プログラムを提供しています。マグロ漁業ではサステナブルな操業を徹底し、海の健康度の改善にも取組んでいます

Chrisは非常に競争を好むスポーツマンです。そのスポーツにおいて視覚化プロセスは極めて大切ですが、ビジネスにおいてもビジョンを視覚化することが大切です。視覚化できないビジョンは、前回お話ししたエンロンの立派な4つの価値観のように単なる声明に過ぎません。視覚化できれば、組織で働く個々人がビジョンへ向かって準備をし、それを達成する後押しが可能となります。成功の姿を視覚化できれば、働く人は自らそこに向かっていき、もし修正が必要だと感じれば自分たちで修正していきます。

ChrisはNo.1のブランドを構築し、かつサステナビリティと自然保護を掲げるというビジョンを創造し、そして大きな挑戦に取組むことの楽しさを知っているチームを作り上げたのです。

Bumble Beeは、従業員がそのすべてのキャリアを捧げるような永続的なビジョンを持ったSt. Luke’sと違って、一旦ゴールが達成されたらまたChrisは他の異なるチームが必要となるかもしれません。その意味でRickとChrisは全く異なる方法で成功を遂げた対照的な例と言えます。

2. 調査結果からわかった4つの本質的な要素

著者たちはこれら異なる二つののフィールドワークから学んだことをさらに掘り下げるためにあらたなリサーチを始めます。それがEDAによる2016年度エグゼクティブ育成トレンドです。

その結果彼らがわかったのは、「”Compelling Vision”を創造し、社員をビジョンに巻き込む」が2009年以降次世代リーダーに欠けているCompetenciesで常にトップ3に入っているにも関わらず、今後の2-3年でエグゼクティブ育成において最も優先順位づけられているCompetencyではかろうじて5位に入っているという事実でした。そしてこの二つのギャップは「”Compelling Vision”を創造し、社員をビジョンに巻き込む」を育成するにはどういうリーダーシップ技術が必要かがほとんど理解されていないからだ、と著者は言います。

我々はすでにCompelling Visionを創造するのに必要なステップは知っていますが、同時に従業員をビジョンに巻き込んでいく主要なリーダーシップ技術も理解したいと願っています。素晴らしいビジョンを持つことと、それを働く人と感情的につなげ、彼らをビジョン達成に向けて自主的に進むように後押しすることとは別物です。効果的なリーダーシップ技術は多面的ですべてが必要だということも理解できますが、従業員のつながりを強化するのに不可欠な本質的要素は一体何なのでしょうか著者は次の4つの要素だと言います。

(1) Embody Courage 勇気を体現する
(2) Forge Clarity 明確さを鍛える
(3) Build Connectedness つながりを築く
(4) Shape Culture 組織文化を形作る

Bonnie Hagemann, Simon Vetter & John Maketa 2017 "Leading With Vision"

(1)Embody Courage 勇気を体現する

Compellingなビジョンを設定するには、リーダーは三つの重要な点で勇気を持つことになります。

まずリーダーは大胆になる必要があります。新たな指針を示し、リスクをとると同時に、失敗する可能性もあります。Chrisの示した新たなビジョンはまさにこれにあてはまります。

次にリーダーは弱みを見せる勇気が要ります。自分をさらけ出し、組織・ビジョン・従業員に自らの情熱、興奮、関心を共有します。つまり正直で、偽りが無く、率直である必要(“authenticity”)があります。権限移譲を厭いません。Rikの過ちを認める姿勢はまさにこれにあてはまります。

そして最後に自分の立場を貫く必要があります。これは頑固や無謀であるということではなく、逆境においても整合性のある行動を維持するということです。そうすることで信頼が置かれるのです。

(2)Forge Clarity 明確さを築く

明確さを築くには、リーダーは共感を示す必要があります。すなわち他者の立場を理解し、他者が理解しやすいようにコミュニケーションすることです。

ビジョンが明確に伝わらない場合の多くは、リーダー自身がビジョンを心から信じていない、あるいはリーダーが自分のメッセージを明確にするために時間な十分使っていないことがほとんどです。これが視覚化プロセスが有効な理由です。

ビジョンを達成する上で、個々人が自分自身の役割が何なのかを理解してもらい、そして同じ方向に行くことにコミットしてもらうことが、「”Compelling Vision”を創造し、社員をビジョンに巻き込む」のには最も大切です。

また明確にすることで社員の満足感も上がります。すべての社員が組織が目指す方向を理解し、自分の役割がその達成に向けた努力の一部であり、同僚の役割とどう関連しているかを知っているからです。それにより社員間の結束を高め、共同体としての方向付けを強め、自主性、職務満足度、自己責任感、プロジェクト、組織、チームの成功へのコミットメントを生みます。

(3)Build Connectedness つながりを築く

つながりを築くというのは、従業員にビジョンとの感情的なつながりを築くことです。具体的には自分がビジョンを達成されるプロセスの一部にいることを理解することです。つながりは、無形で見えないビジョンを従業員とそのアクションに結び付けるための接着剤なのです。

このつながりは組織へのコミットメント”Organizational Commitment”、OC)として組織への忠誠感を表す個人の関係や経験の度合いと定義され、個人が組織の目標達成に向けてどれだけ努力を厭わないかを示します。昨今エンゲージメントサーベイで定量化されることが多いものです。

労働市場が買い手市場の時代は、「他の人を雇う」ということで問題は解決できましたが、今のような”Great Regination”=大流動化時代のように労働市場が売り手市場の時にはそういう訳には行きません。特にこれから労働市場で大勢を占めるであろうGeneration Yの場合はなおさらこのビジョンとの感情的なつながりが大切になります。

(4)Shape Culture 組織文化を形作る

CEOにとって最も大切な責任の一つは会社のビジョンや戦略をサポートする強い文化を定義付け、作りだすことです。組織文化とは、そこで働く人達の共同学習、共同経験の産物であり、お互い他者の認められた行動で築き、また築かれる「相互強化」のことです。

組織文化は一日にしてならず、であり、まずは組織の2-3年先を見据えて、ビジョンを達成するためにはどんな組織を視覚化すべきなのかを考え、視覚化された絵にフィットする文化を形作っていくことが必要です。組織を変革するのではなく、形作るといっているのは、時間とともに少しずつ変化し始めるからです。そして組織文化を形作る上でリーダーシップが大切な役割を担います。

以上が、第三章と第四章の抄訳になります。次の第三回では、第五章から第八章についてこれら4つの要素をさらに深堀していきます。

(続く。本記事の内容についてより詳しくご相談されたい方はこのリンクからコンタクトください。)




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