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IT古典良書を読み解く《第5回》心に残るカスタマーサービスへの7ステップ

第5回 Joel on Software(ジョエル オン ソフトウェア) 〜その5〜
「心に残るカスタマーサービスへの7ステップ」


クレーマーをファンに

こんにちは。スクラムマスターの伊藤です。

「店長呼んで!」という現場に遭遇した人はいますでしょうか。
「女将を呼べッ!!」でもいいですが(知らない人は検索してみよう)、私は1度ありました。
休日の昼下りの定食屋さんでですよ。詳細は分かりませんが、きっと餃子が小さいとか、バイトの態度が悪いといったことだったのでしょう。不快だったのでさっさと会計をして店を出ました。

100円ショップで商品の品質にクレーム付ける人もいるそうですので、商売をしている以上、ある程度のクレームは避けられないでしょう。逆に、そこでの対応力で称賛されるか幻滅されるかの分かれ目になるかもしれません。

IT業界でのクレームといえば、ユーザーサポート・ヘルプデスクなどに来ることになります。あくまで個人的ですがJoelはここでユーザーサポートの座右の銘にしたい名言を残しています。

引用: More Joel on Software 
(おっと、今回は続編であるMore Joel on Softwareだ。ご注意を)
241ページ「第32章 心に残るカスタマーサービスへの7ステップ」
(原文)
- Seven steps to remarkable customer service
(日本語アーカイブ)
- 記憶に残るようなカスタマーサービスへの7ステップ https://bit.ly/3lwSAmQ

《よもやま話》

古典良書5

More Joel on Softwareは11年前 2009年に発売になりました。序文でJoelは2008年に初めて来日しデブサミ(デベロッパーサミットの略。筆者は最近、行ってない)に参加し、日本の古くて超モダンな日本文化に触れることが出来たと書かれています。何故か出版社がオーム出版から翔泳社に変わっていますが訳者は青木靖氏と変わっておらず、上質な翻訳が楽しめます。
久々にMoreを読み返すと今後紹介するか分かりませんが、「はじめてのBillGレビュー(ビル・ゲイツですよ!)」「明快ながら役に立たない製品価格付理論」「Windows Vistaが間違っている理由」など面白いトピックスが満載でした。

カスタマーサービスへの7ステップ

筆者は以前、会話アプリのプロジェクトマネージャーとして、設計・開発からサポートにプロモーションまでやっておりユーザーサポート宛のメールが転送され回答することがありました。
そこで、一番多かった質問が「音が出ないんじゃ ゴラァ!」というものです。この問題をJoelが書いた「カスタマーサービスへの7ステップ」を使って解決したのでした。

その7つは以下のようなものです。
1. 問題はすべて2通りの方法で解決する
2. ホコリを払うように勧める
3. 顧客をファンにする
4. 責を負う
5. 言いにくい言葉を覚えておく
6. 操り人形の練習をする
7. 強欲ではどこにもたどりつけない
8. (おまけ!)カスタマーサービスの人たちのためのキャリアパスを用意する

どれも気になるトピックスですが、ここでは1~3のみ紹介します。4以降はなかなか謝らないアメリカらしいところが見受けられます。

「問題はすべて2通りの方法で解決する」は、簡単にいうと対処療法か、根本解決かということです。例えば、あるソフトでデータを保存する際に「エラーが発生しました」と表示されます。何のことが分からないので、ユーザーが、問い合わせをして原因を究明し、その回避方法を教えるのが対処療法。そのエラーメッセージに「エラーが発生しました:容量が不足しています。保存するには○MB以上の空き容量が必要です。」と表示するように改修すれば問い合わせは無くなるでしょう。これが根本解決。そんなの当然じゃないかという声も聞こえてきそうですが、世の中には、初期費用をかければ、その後のランニングコストが安くなるのに、それをしないサービスが沢山あります。Joelはテクニカルサービス担当者を高待遇にして二度とその問題が起きないように対応しているそうです。

ホコリを払うように勧める

古典良書2

はい。これがユーザーサポートの座右の銘にしたい「ホコリを払うように勧める」です。正確にはJoelの言葉ではないのですが…

引用します。

Microsoftのレイモンド・チェンが、キーボードが効かないと苦情を言うユーザーの話を書いている。(https://devblogs.microsoft.com/oldnewthing/20040303-00/?p=40423)
もちろん、それはつながってないせいだ。しかし、ちゃんとつないでますかと聞こうものなら、「彼らはまったく侮辱されたように感じ、憤然として言うのだ。『もちろんつながってるさ! 私をバカだと思ってるのか?』 そして実際確かめてもみない」

「そんな風に言うのではなく、こう言ってみることだ」とチェンは提案している。「『ああ、接点にゴミがついて接続が弱くなることがあるんです。1度コネクタを抜いて、接点のゴミを吹き払ってから、つなぎ直してみてもらえますか?』
すると彼らは机の下にもぐり込んで、それをつなぎ忘れていた(あるいは間違ったポートにつないでいた)ことに気付き、ホコリを吹き払ってから接続し、そして『あっ、直ったみたい。どうもありがとう』と答えるのだ」

この言い方はユーザーに何かを確認してもらいたい場合の多くに使うことができる。設定を確認してくださいという代りに、「ソフトウェアが設定を間違いなく記録するように」、設定をいったん変えてからまた元に戻してみてくださいと言うのだ。

「これだ! これです!」と私が叫んだかは定かではないが、前述のアプリの音が出ないという問い合わせに対して、「1度マナーモードをONにしてから、OFFにしてもらえますか」と返答するようにしたところ効果てきめん。iOS、 Android用のテンプレートも用意しFAQにも手順を掲載、問い合わせ自体も減っていくのでした。

《よもやま話》

「音が出ない」との問い合わせにテンプレートで回答していたある日、更にクレームが来ました。「マナーモードにするスイッチなんかないぞ!」というもので、そんなはずはと思ったのですが、なんと当時発売したばかりのiPad Air2はマナーモードスイッチがこっそり(?)削除されていたのでした。これには平謝りして、なんとか収まりましたが、その後、iPadからはマナーモードスイッチは消えていきました。

きっとホームボタンが無くなったときも、iPhoneがフリーズした際、「電源ボタンとホームボタンを長押ししてリセットしてください」と回答して、「ホームボタンなんてないぞ!」というクレームが頻発したと思われます。(機種名をちゃんと明記してくれる人なんていないんですよ!)
ちなみにiPhone8以降のリセット方法は以下の通りだそうです。サイドボタンは俗に言う電源ボタンです。
1.「音量を上げるボタン」を押して離します。
2.「音量を下げるボタン」を押して離します。
3.「サイドボタン」を Apple マークが表示されるまで押し続けます。

顧客をファンにする

最後にサポートで大切なクレーマーをファンにする事例をみてみましょう。
Joelの会社ではログ付きグッズを作る時、Lands’ Endに頼んでいるそうです。
展示会で使うポロシャツを2ダース注文して届いたところ、ポロシャツの色とロゴの色が似ていて読めないという状態だったそうです(これは、以前も注文したことがあり、ロゴを使いまわして色を変更したようで、一見 Joel側に非がありそうですが…)
JoelはLand’s Endに電話します。すると、ベルが鳴る前に人が受話器をとります。
困っていることを説明すると担当者は「心配しないでください。そのシャツを送り返して頂ければ、こちらで新しい別な色の糸でシャツを作り直します」と言い、Joelが「展示会は2日後なんだ」と言うと、新しいシャツをFedExで送るので明日には着きます。古いシャツは都合のいいときに送り返してもらえばと言い送料もすべて負担したそうです

Joelは、電話のメニューシステムやカスタマーサービスについて話す時にこの話をするそうです。彼らは心に残るカスタマーサービスを提供することで、それを触れ回るようにしたのです。
顧客が問題を抱えている時、それを解決してあげたなら、彼らは問題が無かった場合よりもいっそう満足を覚えるのです。
ただ、多くの顧客は電話もせず、黙って怒っているものなので、クレームが無いことにこしたことはないですが、クレームをしてくれる人がいたら、それは熱狂的な顧客を生み出せるチャンスだと結んでいます。

《よもやま話》

顧客をファンにするの逆のことをされることが多いご時世です。電話しても録音テープがしゃべりだし、「○○の方は何番を~」と言われようやく「オペレーターと話す」を選んでも延々とつながらず、しかもよく見ると、かけ放題対象外の有料ナビダイヤル(0570)とくれば話す前からイライラしますね。これで、問題が解決しなければ、その会社のサービスを使うことは2度となくなるでしょう。

ちなみに、Land’s Endは日本でもロゴ入りグッズを作ってくれるそうです。Webサイトの右上に普通、見かけないフリーダイヤルが書いてあるので日本でのカスタマーサービスも期待できそうですね。
https://www.landsend.co.jp/co/cs-teamwear.html

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執筆者プロフィール:伊藤慶紀
大手SIerにて業務用アプリケーションの開発に従事。
ウォーターフォールは何故炎上するのか疑問を感じ、アジャイルに目覚め、
一時期、休職してアメリカに語学留学。
Facebookの勢いを目の当たりにしたのち、帰国後、クラウド関連のサービス・プロダクト企画・立ち上げを行う。
その後、ベンチャーに転職し、個人向けアプリ・WebサービスのPM、社内システム刷新など様々なプロジェクト経験を経てSHIFTに入社。
趣味は将棋、ドライブ、ラーメン、読書など

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