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家事の経済価値とワークライフバランスの数理最適化可能性について 改1

この記事は、以下の記事を幾分か読みやすく改稿したものです

会計学を導入する前に整理しておきたくて

変更点
・私怨を希釈
・冗長な記述をいくらか圧縮
・見出し、もくじ

参考文献

「家事労働のなかの「見えない」家事 : 新たな視点からの家事の実証研究」藤田朋子 著


家事の経済価値とワークライフバランスの数理的最適化可能性について

要約

私的な必要性から家事の価値について調べたところ、納得いく話が出てこなかった。仕方ないので、家事の定義を見直しながらその価値を示してみようと思う。現代の家事労働は、その歴史的変遷によって本質的に無償のものとなっている。無償なものの価格を計算するのは不可能である。故に、その価格を計算すること無く、世帯の家事は世帯の収入と等価値であると定義した。その際に「有償行動と無償行動の等価値原則」というルールを設け、直結させづらい家事と収入を間接させた。また、その副次効果として、ワークライフバランスの一部を数理最適化問題として処理できる可能性を見出した。

注意点。無償で行われる家事の価値と、家事代行業などといった労働市場での家事労働の価格は別物である。

用語

有償行動:金銭を得るための行動。「有償労働」とほぼ同義だが、より広い範囲を含むためにこう呼ぶこととした。
 無償行動:人の生活時間のうち、判明している有償行動以外の全て。

1 家事とは何か

1-1 家事の経済価値(既存手法)

家事の経済価値を測る既存手法の問題点を挙げる。内閣府男女共同参画局による「家事活動等の評価について」

OC法は、家事の担い手が有償労働をしていたらどれだけ稼げていたかで家事の価値を測ろうとしている。家事は誰かがやらねばならないため、これ単体では無意味。

無償の家事はサポート業務である。その価値は、サポートされた人達の出す成果(世帯収入)に依存する。RC-S法とRC-G法は、労働市場の需給で価格のほとんどが決まる賃金労働と、無償の家事を無理やり同一視している。

どれも家事を捉えきれていない。そもそも家事の内容は時代によって違う。家事は変容する。代行される内容も変容している。しかし「家事」と呼ばれ続けている。普遍的な何かがあるはず。

1-2 家事の変遷

今、私にとっての家事とは何か?主要なのは掃除、洗濯、炊事、ゴミ捨て、買い物。それと「見えない家事」あるいは「名もなき家事」等と呼ばれる様々な細かい作業。

昔の人達にとっては?例えば糸紡ぎ。機織り。水汲み。火おこし。これらは工業化によって紡績産業、水道、都市ガス等で家から外部化されてきた。

私の祖母は庭で季節毎の野菜等を栽培していた。農業(庭の手入れ)も家事の一部だった。それらはどうして外部化された?高い公共性があるか、経済性を実現できる技術が現れたからだ。

例えばきゅうり。子供の頃、雑草取りや水やりを手伝いつつ庭で採ったきゅうりは、スーパーでは見たことないほど不恰好で、まずくて、少なかった。作るのに何時間、何日かけた?「買った方が安い」農学、化学、機械工学などによるプロ農家の進化は、我が家から栽培という家事を外部化させた。

1-3 家事と技術と公共性、経済性

今、私は情報化による家事の外部化をまさに体験している。例えば、あすけん。「サブスクした方が安い」栄養管理の主に計算を丸投げできる情報ツール。では、私の栄養管理という家事は消滅したか?

家事には管理業の側面がある。買うべきか買わざるべきか。今やるべきか後でまとめてやるべきか。知的な作業の連続。あすけんに栄養計算を丸投げしていても、私の栄養管理をしているのは私。食事を用意するのも私。料理をせずに弁当を買ってきても、栄養や食事を管理しているのは私。管理のもとでは、外部化するという判断自体も家事となる。

例えば「料理をせずに弁当を買う」という判断も家事だ。「妻に家事を丸投げする」という判断も(その貢献度には覆し難い差があれど)家事だ。家事をしないという判断も、家事。

1-4 小括

家事とは何か。公共性や経済性を見出された特定の家事は外部化される。残されるのは、無価値に見えるが生活には必須という矛盾を抱えた家事。個人の生活には必須かつ無償の、作業や判断。家事を外部化する、あるいは家事をしないという判断も家事に含む。

工業化や情報化の進んだ現代の家事は、本質的に無償である。

これでたぶん2022年の日本の家事を全て包括できるんじゃないかな。

2 有償行動と無償行動の等価値原則

2-1 家事の経済価値

「世帯の収入と世帯の家事の価値は等しい」私が直感でそう認めただけ。

2-2 価値とは何か

人が何かに見出すものだ。人や世界は価値を生まない。ただ、人がその価値を認めるだけ。どんな良い物でも値切られてしまえば安物。活用されなければゴミ。人が、その感覚で、勝手に見出すのが価値。

私が勝手に見出した家事の価値。これだけでは発展性の無い単なる主張。

実用性を得させるために1つのルールを用意した。

2-3 有償行動と無償行動の等価値原則

都市化が進み、十分な量の通貨が流通している資本主義社会の日本。この国で生きる糧を得るにはお金を得なければならない。お金を得る行動を有償行動と呼ぶことにする。また、だいたい賃金労働となる有償行動のために、気力や体力を回復する行動が必要とされる。これを無償行動と呼ぶことにする。人の基本生活はこの2つで成り立つ。どちらが欠けても生きられない。故に、有償行動と無償行動の価値は等しい。

家事は本質的に無償のものであると先に論じた。つまり、全ての家事は無償行動に含まれる。家事は無償だが、気力や体力を消費する労働である。気力や体力は、家事以外の無償行動で回復される。また、気力や体力を回復する無償行動は家事によって支えられている。

例えば、体力を回復する無償行動としての安眠には、寝具の管理という家事が必要。つまり、家事以外の無償行動のためには家事が必要で、家事をするには家事以外の無償行動が必要。どちらが欠けても生活は破綻した。故に、家事と、家事以外の無償行動の価値は等しい。

そして、家事を分離抽出された無償行動の価値は、原則に従って維持される。

「有償行動と無償行動の等価値原則」この機能の要は、無償行動からその一部を分離しても、無償行動の価値は有償行動と等しいという点だ。無償行動から特定の要素を抜き出して生活に新たな価値を導入しつつ、その他の捉えにくいものを捉えないまま、無償行動という「その他の塊」として扱う。存分に恣意的な運用が可能なので、導入する価値の選定や定義には気をつけねばならない。

この原則の便利な点は、個人や共同体のワークライフバランスを時間あたりの総保有価値で測る最適化問題に落とし込める所だ。

試しに、総務省統計局「平成28年生活基本調査」のデータセットと「有償行動と無償行動の等価値原則」を用いて、日本人の平均的な生活を分析してみる。

2-4 共働き夫婦世帯における家事負担の不均衡さについて

愛などの情緒を全て無視し、夫婦それぞれの有する価値を試算する。

夫婦間の家事負担の不均衡さを計算するにあたって使用するデータセットは2つ。どちらもe-Statで取得できる2016年のものです。コロナ禍前という点に留意。

一つ目

政府統計名
 社会生活基本調査
提供統計名
 平成28年社会生活基本調査
提供分類1
 調査票Aに基づく結果
提供分類2
 生活時間に関する結果
提供分類3
 主要統計表

表番号8「世帯の家族類型,共働きか否か,行動の種類別総平均時間-週全体,夫・妻」

a00800.xls

週の平均で1日何分を仕事か家事に割り当てているかを参照しています。

二つ目

政府統計名
 家計調査
提供統計名
 家計調査
提供分類1
 家計収支編
提供分類2
 二人以上の世帯
提供分類3
 詳細結果表
提供周期
 年次

表番号3-11「妻の就業状態,世帯類型別」

a311.xls

世帯収入の値を参照しています。

計算モデルを単純化するため、対象範囲を「共働き夫婦のみ世帯」に絞る。仕事時間、家事時間、収入をデータセットから抽出。

世帯収入は2人の収入の和。

「有償行動と無償行動の等価値原則」から、2人の家事時間の和は世帯収入と等価値。

この場合、世帯の有する総価値は

世帯収入(有償行動)+家事+その他の無償行動=世帯収入の3倍

収入の比と、家事時間の比から、世帯内で夫婦それぞれの有する価値の割合を計算する。なお、家事以外の世帯無償行動を2人に分割しても、原則により世帯収入と等価値。

収入の貢献度。個人収入/世帯収入
家事の貢献度。個人の家事時間/世帯家事時間
その他の無償行動の貢献度。1/世帯人数

それぞれで夫婦の和は1になる。単位と総量を揃えたので単純に加算できる。計算結果は

価値割合 夫:妻=1.3:1.7

2016年共働き夫婦のみ世帯における家事負担の不均衡さについて1

夫の家事時間が短すぎる。では、夫に家事をさせれば解決……とはならない。

2-5 夫婦の価値を均衡させる

「労働時間 国際比較」ぐぐると内閣府男女共同参画局の資料が出てきます。男は家事をする時間がない。

国際的に見て、日本の男女は共に限界まで働いている。男は限界まで仕事をして自らの価値を下げ、女はそれを限界までサポートして価値の低下を助長している。報われない過剰勤労者達。間違った努力。

まず、夫婦の価値を均衡させる。夫の仕事時間をt分短縮し、夫の家事時間をt/2分増やし、妻の家事時間をt/2分減らす場合を考える。

2016年共働き夫婦のみ世帯における家事負担の不均衡さについて2
2016年共働き夫婦のみ世帯における家事負担の不均衡さについて3

1日平均で75分ほど夫の仕事時間を減らし、妻の家事時間を37分ほど夫に移動すると夫婦の価値をほぼ等しくできる。ただし、月に7万円程度の収入減となる。

ここで重要になるのが、夫婦それぞれに確保した1日あたりt/2分の余暇。均衡させる際に妻の仕事時間を増やさなかったのは、単純に妻の仕事時間を増やしても減収分を埋め切れないからだ。

次は、t/2分の余暇に新たな価値を見出す。

2-6 夫婦の総価値を増やす

t/2分の余暇にどんな価値を見出すか。とりあえず人間ドックと癌検診。あとは何でも良い。休む、遊ぶ、眠る、運動、夫婦でデート。心身の健康を維持増進できるなら、医療費の圧縮に繋がる。健康寿命を伸ばせば生涯収入が増える。

要は、減った分の世帯価値を別の価値で補えれば良い。

正攻法は、余暇を昇給や転職のための訓練や勉強に費やすこと。

月の昇給幅x期待勤務月数が訓練期間の総減収分を上回るなら、訓練する価値がある。下回るなら経営の失態。この視点は、実際、ハイスキルな労働者を必要とする経営者に最も強く求められるものだろう。

いくつか仮定してみる
例えば資格手当5000円/月の資格取得勉強をする。
取得後に10年間勤務する。
1日あたり75分の世帯訓練時間。
損益分岐点となる取得までの期間は?

2016年共働き夫婦のみ世帯における家事負担の不均衡さについて4

およそ8ヶ月。

仕事時間を短縮してから8ヶ月以内に資格を取得すれば、減収分を埋めつつ余暇も確保したままにできる。

経営の話は主題ではないため、ここまで。

2-7 小括

私が勝手に見出した価値と勝手に作った原則によって夫婦間の家事負担の不均衡を示してみた。これが本当に妥当で有用なものかについては、私一人では検証しようがないだれかたすけて

3 国民のワークライフバランス

注意点

会計とファイナンスの知識があればもっと良い感じにできるとわかっている。そのうち大きく改稿するだろうが一応残しておく。

3-1 育児、子育て、学業

育児とは。未就学児(6歳未満)の世話。
子育ての扱い。6歳以上の子の世話を家事に含める。
これらは「平成28年社会生活基本調査」の「用語の解説」に基づく。

育児の価値を定義する。例えば国民全体が全ての育児を放棄すれば絶滅する。半分放棄したら未来に国民が半減する。よって、全国民の育児の価値は、全国民によってなされる仕事と等しい。

日本社会での労働は、一定水準の教育を受けた前提で構築されている。よって、全国民の学業や訓練の価値は、全国民の仕事と等しい。

3-2 みなし有償行動

育児と学業は将来の有償行動を直接生産するので、この2つを「みなし有償行動」とする。「有償行動と無償行動の等価値原則」により、無償行動と家事のそれぞれの価値は最大で仕事の3倍となる。

3-3 ライフステージ別の保有価値ランキング

平成28年社会生活基本調査のライフステージ分類と生活時間を参照し、国民の時間を「無償行動」「仕事」「学業」「家事」「育児」の5つに大別して分析した。

使用したデータは

社会生活基本調査
平成28年社会生活基本調査
調査票Aに基づく結果
生活時間に関する結果
主要統計表
表番号 4-1
ライフステージ,行動の種類別総平均時間-週全体,男女総数(10歳以上)

育児期なひとり親の保有価値が全国民の中で最も大きい。次点で育児期間の夫婦。そこからかなり差が開いて子育て期の親と子。独身と高齢者は全体的に低い。

2016年国民のワークライフバランス1
2016年国民のワークライフバランス2

3-4 分析してみた感想

とにかく高齢者と独身者の価値が乏しすぎる。ぐは。言葉の刃で自傷ダメージ。

育児で忙殺されている世帯の隣家では老人が1日中ぼんやりテレビを眺めて運動不足と痴呆になり医療福祉資源を消費していく。私の観測範囲内にある、日本社会の1つの象徴的な光景。だからと地域の老人に育児を託そうとしても、老齢男性は育児も家事も心得すらない者が多く、老齢女性は夫の世話で手一杯。加えて、各種デバイスを使えない方が多く、体力も乏しいので子供の遊び相手すらできない。

男性保健師や男性保育士、イクメンなど、旧女社会に飛び込み始めた男達の世代が老境に差し掛かるまで、多分、この問題に取り組むことすらできない。少子化を止められる時が来るとしたら、それは20-30年後に老人となる「男女共に家事又は育児経験のある人口割合が大きい世代」によって成されるのではなかろうか。

3-5 この分析の欠点

欠点を思いつく限り挙げておく。

  • 収入が考慮されていない。特に、妥当そうな生涯収入のデータを見つけられなかった。

  • 全国民の育児の総価値は子供の数に比例して増えるが、人数を考慮せず割合で概算した。学業も同様。

  • 私と総務省の調査データとで家事の定義が違う。

  • 「ながら作業」を分析できる調査票Bに私が手を出していない。

  • 育児や教育の仕事は収入とあわせて二重の価値を持つが、それを計算できていない。

  • 計算モデルをできるだけ単純化するために無視した項目が多数ある。

  • コロナ禍前の2016年のデータを使っている。令和3年の結果がもう出てるからいじりたいけど会計学修めてからっ

  • 実務的には産休育休で人員管理に負荷がかかる。カバーするのは子なしの大人や熟年者。この価値の扱い

  • 会計学って価値の整理整頓を専門とする分野よね?たぶんこの価値計算でとても有用だと思うのだけど私が全然知らない

3-6 小括

だいぶ雑だけど、保有価値の大きい層を可視化できたのではなかろうか。保有価値の大きい層というのは、つまり、税金でサポートしがいのある層ということ。育児期、子育て期世帯への社会保障を一層厚くすべきだろう。

4 特定世帯の分析例

ある大学生とその世帯の価値について

世帯の概要
父(世帯主)
母(パートアルバイト)
子1(男。大学生)
子2(女。高校生)
子3(女。中学生)

この世帯の生活を「無償行動」「有償行動」「学業」「家事」で分類し、価値を測った。

学業は未来の収入を増やす行動なので、学業により増える差分をみなし有償行動として扱う。例えば大学4年分の価値は、「(大卒の生涯収入)-(高卒の生涯収入)」と等しい。

ある大学生とその世帯の価値について1

結果は、子1の総貢献度を100としたとき、
母: 72
子3: 43
子2: 40
父: 33

お金を生活に変換するのは家事である。お金が不足するのは非常にまずいが、いくら稼ぎが良くとも、家事を疎かにして何も考えず通帳の数字を増やすだけではガラクタを集めてくるのと変わらない。

子1が過労ストレス等で潰された後に世帯の生活が破綻したのは当然だった。

5 総括

まず気になっていることを。「有償行動と無償行動の等価値原則」これと同じか似たようなテクニックは経済学か会計学あたりにありそうなものだけど、私は専攻していないので、あるかないかすらわからない。

実際に価値を計算してみてわかったこと。扱いが物凄く難しい。誰かの価値を勝手に計算する行為。使い方を誤れば、人間関係を容易に破壊しそう。自分自身に向けるのも非常に危ない。価値の高すぎる(働きすぎな)人を休ませる目的か、働かされすぎている環境から自身を逃げ出させるきっかけとして使うべきだろう。誰かを攻撃するために使うのは推奨しない。止めることもしないが。値切られるものには価値がある。

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