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仙台赤ヘルおじさんの主張

仙台のメインストリートから少し離れた「ふらんど~む一番街」を往復するおじさんがいた。スクーターを押しながら、大きな声で何かを叫んでいるようだった。その日、特に何もすることがないため、「ふらんど~む一番街」の通りで往復したりきょろきょろしたりしていた私は、必死に声を上げ続けるおじさんに何か惹かれるものを感じ、その主張を聞いてみることにした。

真夏だというのに深紅のヘルメットをかぶったおじさん(以降、このおじさんは赤ヘルおじさんと呼ぶことにする)の主張は、一部聞き取れなかったものもあるが、概要は以下のようなものだった。

「皆さん、――――という薬物の本当の恐怖を、どうか知ってください!! ――――とは、政府で認可され、ドラッグストアで手に入る医療品、食品、――――などにも使用され、もしかしたら、政府の管理する、水道水にも、含まれているといいます!! この毒は、決して自然由来のものではなく、人工的に作られ、意図的に混入されています!! 
 この薬品の危険性に対して、言及した論文もたくさんあります!! イギリスの研究では、この薬品は、蓄積することで体調不良、遺伝子の操作、そして不妊を引き起こす可能性もあるといいます!! 皆さん、――――社の――――の使用はお控えください! 将来、子供を持つことができなくなってしまう可能性が、あるのです!!
 このコロナウイルスの始まりは、――――だといわれています。また、かつての黒死病や、――――も、同じく――――が発端といわれています。これは、偶然でしょうか。
 みなさん、私の言ったことを、そのまま信じてくれとは言いません、ですが、どうか、政府の情報に疑問を持ち、自分でもしっかりと調べてみてください! 自分の身を守ってください!! 
 大変うるさくしてしまい、失礼しました!! どうか、自分を守れるのは自分だけです!! それを、伝えたかったのです。ご清聴、ありがとうございました!!」


内容としては、ごく一般的な陰謀論であった。しかし、彼の態度は、実直で必死だった。炎天下の下で声は枯れていたが、それでも声量を落とすことなく、彼の声は「ふらんど~む一番街」に木霊していた。

そして、彼の主張は謙虚なものだった。「あなた方の未来のために! 将来、子供を持てなくなってしまって、後悔してほしくない!」と重ね、最後は「大変うるさくして失礼しました」と締めくくっていた。つまり彼は、街中で大声で喧伝することがうるさい、迷惑なのだと自覚している。自覚したうえで叫んでいる。それは、彼にとって、自分が白い目で見られたとしても、笑われてでも、救いたいものがあったということではないか。

まるで、悲しいピエロのようだ。

アンパンマンのような自己犠牲。

赤ヘルおじさんは魂のプレゼンを終えると、険しい表情のままスクーターに乗り、カゲロウ揺らぐ国道へと消えていった。血が出るほど後ろ指をさされ続けたであろうその背中を見送りながら、私は飲み頃を通り越したクーリッシュをすすった。

数年度、世界的な不妊が問題となり、人類が滅んだとき、仙台市民はあの赤ヘルおじさんを思い出すのだろう。この町で、彼だけが冷静だったのだと、初めて理解するのかもしれない。

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