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罪と罰とラーメン

会社の昼休み、図書館へ向かう途中のラーメン屋の外壁に「ヒーハーらーめん」と書かれていた。うっ、辛いラーメンだ。私は辛いラーメンが好きではないが、辛いラーメンを見ると食べたくなる。好きではない。辛いし。なのに、食べてみたくなる。

気が付けば私はラーメン屋の駐車場に来ていた。すごすごと店内に入る。しぶしぶ辛いラーメンを注文する。待っている時間がきつい。自己嫌悪に襲われる。たのまなければよかった、と反芻する。辛いラーメンが好きじゃないのだ。だって辛いから。けれど、頼んでしまったから今更「やっぱりいいです」とは言えない。歯医者さんの順番待ちみたいな気分で、厨房から漏れる辛いラーメンが作られる音を聞いている。心なしか親知らずも痛い気がする。

無慈悲にも、めのまえに真っ赤なラーメンが到着する。オーダーミスであっさり醤油ラーメンが届いてくれないかと期待していたけれど、充血した目のようなラーメンが来た。うっ、食べたくない。辛いラーメンは好きじゃないから。でも、食べなくちゃいけない。どうしてこんなことになってしまったんだ!! 誰のせいだ!! こんなラーメン、そいつが食えばいい!!

蓮華でスープをかき分けると、水面に赤いものが沢山浮いているようだ。もはや泣きたくなってきた。どうして僕がこんな目に合わなくちゃいけないんだろう。前世の僕がどんなに悪いことをしたか知らないけれど、前世の罪は前世で償わせればいいじゃないか。現世の僕はこんなに清廉潔白で、優しくて、愛されていて、こんな罰を受ける覚えは一つもない。神様のバカ! 

麺を持ち上げると、催涙ガスみたいな湯気が立つ。これはねぇ、食べちゃいけない。麵をすする。からい! 好きじゃない! スープを飲む。からい! もういらない!

不愉快な気持でラーメンを完食したときには、ほとんど泣いていた。涙を拭きながら席を立つと、ちょうど入店した他課の同僚と目が合う。違うんです。僕はね、前世の罪を償ったから、涙を流しているんです。マリア像の奇跡と同じ類の涙です。そう伝える前に、同僚は知らない人と目が合ったみたいにすぐに目をそらしてしまった。涙はヒーハーらーめんの味がした。からい!!

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