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【短歌】 ローカルシアターにて

注がれるポップコーンは彗星の成れの果てだと嘯くバイト

将来は主演男優賞を獲る 嘯くバイトにキャップが似合う

期待値と反比例する物質の薄さ空席上のフライヤー

開演のブザーが鳴れば銀幕に伸びる背筋の影が蠢く

運命はあるのだろうかヒロインが燃やす導火線の先の恋

コーラへの口づけで示す哀悼 銃撃戦の末の死に様

白飛びのエンドロールに照らされて朝が来たみたいな幕引きだ

 
 ヴィム・ヴェンダーズ監督、役所広司主演の「PERFECT DAYS」が観たくて出町柳のローカルシアターに足を運んだ。開演まで間があったので上映中の映画を確認していたら「ストップ・メイキング・センス4Kレストア」のフライヤーが目に止まる。この映画はトーキング・ヘッズの1983年のライブを収録したもので、僕は以前スパイク・リー監督、デヴィッド・バーン主演の「アメリカンユートピア」を観てひどく感動した記憶があったので、もうその場で絶対に観る!と心に決めて、次の日も劇場に通って映画を観た。ここは映画評論の場ではないので、内容については語りはしないが(語り出したら朝まで付き合わせてしまう…)、どちらも何度も見返したくなるほど素晴らしい映画だった。
 僕はチョコボールが好きで見かけたらついつい買ってしまうのだけど、心に残る映画に出会えたとき、キョロちゃんのくちばしの裏の金のエンゼルに巡り会えたかのような気分になる。思ってもいなかった大当たりというか最高のおまけというか。僕は観たい映画を選びはするけれども、事前にレビューを読むことはないし、思ってたのと違うってなってもあんまりがっかりしない。僕にとって劇場で観る映画の内容は二の次で、それよりも本編と関係のない予告を観ながら食べるポップコーンだとか、照明が落ちる瞬間の高揚だとか、光と音に支配される感覚だとか、そんな劇場特有の空気感を味わうことを楽しんでいる。お気に入りの座席は最後方列の真ん中の席で、誰にも覗かれることのない隠れた位置から劇場を見渡して、視界に映る観客の動きも含めて映画に浸る。あえて寝不足の日に行って眠りに行くこともあるし、物思いに沈みたいときもよく劇場に足を運ぶ。鑑賞中は誰だって1人ぼっちで、そのくせ名前も知らない他人たちと同じ映像や音に触れていて、そこで生まれる感情は各々違ってくるだろうけど、同じ物語を同じ方向を向いて観ている。日常から隔離されたそんな空間のなかで希釈された孤独を共有する居心地の良さに安心する。

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