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真夏にバイクの免許取った直後で片道8時間の野宿キャンプはやめておけ

身内用アドベントカレンダーの話題を求めたところ「バイクで死に掛けた話を何かしてくれ」と言われたので、一番思い出に残っているこの一件について話す。
「見るからにやめるべきだと分かるだろ」というツッコミへのアンサーとして、まずは動機を話す。
人間の自己開示に興味がなければ「計画」から読むことをすすめる。


いかにしてこの無謀行為に至るのか

俺の名前はシチハという。
会社勤めのサラリーマンで、趣味はアウトドアとインドアだ。

時をさかのぼり2020年。仕事が最高に忙しく、俺は毎日狂ったように残業していた。家が徒歩圏なので帰れはするが、メシを喰う暇すらなく、風呂に入って寝る以外何もできなかった。
だが、そんな日々の中、俺の心は密かに躍っていた。

8月8日。
俺の目の前には一台のバイクが鎮座していた。
親父から受け継いだ、ドラッグスター400。時代遅れなオレンジと銀のペイントが、夏の濃い青空と灼熱の太陽を映し出していた。
社畜をやる傍ら、土日を全部ブチ込んで教習所に通いつめ、俺はこいつを操る資格、中型二輪免許を取ったのだった。

俺は東京で働いている。
ここは窮屈だ。
空を覆うようなビルが俺たちを取り囲んでいる。
時計とカレンダーが俺たちの行動の全てを支配している。
排気ガスが肺を汚し、街の喧騒が耳をつんざく。
何より、どこに行っても仕事のことを思い出してしまう……

だから俺は、そういうもの全部を一切感じないような、「ここではないどこか」を常に求めている。インドアの「ここではないどこか」は、PCをガキの頃から与えられて散々見尽くしてきてしまっていたから、今大人になった俺は、この広いリアルの世界に逃避先を探すしかなかった。
しかし、今まであった移動手段といえば電車やTimesのカーシェアみたいな社会に繋がったままの借り物ばかりだった。
だが、今や俺は、完全に社会を足蹴にできる自分だけの移動手段を手に入れ、終電やら返却予定時間などという小賢しい縛りからようやく解き放たれたのだった。

バイクを手に入れた8月8日から5連休を取り、俺は毎日エンジンを蒸かしてどこかへと出かけた。
その日行く場所は寝る前に決めた。
自由だった。

計画

8/11夜にこの地図を見て行先を決めた

8月11日夜、バイクに乗り始めて3日目の夜。
俺は翌日8月12日に極大を迎えるペルセウス座流星群を見るべく、伊豆半島・伊東を目的地に定め、旅の計画を始めた。

東京からは高速道路を主とした旅程で片道2時間半。
流れ星が見えるのは日付が変わる周辺らしかった。
つまり昼に起きようが余裕で間に合うので出発時間を計算する必要はなかった。

しかし距離が距離なので日帰りとはいかない。
免許を取ったせいで金が滅茶苦茶無かった俺は、押し入れの奥で眠っていたハンモックを取り出し、バイク用の鞄に詰め込んだ。
これで旅費問題は解決だ。

完璧な計画を終え、俺は眠りについた。

計画の誤り

①暑すぎた

昼前に目覚めて俺は1つ目の過ちに気が付いた。
暑い。あまりにも暑い。
2020年の8月は完全にイカれた暑さをしており、昼過ぎから出かけるとなるとそのイカれた暑さがピークに達する時間帯中延々と直射日光を浴びることになる。冗談ではなく死ぬ可能性があった。バイクはアホの乗り物なので天井も空調もない。
俺はこの猛威が落ち着く時間を狙い、おやつ時に出発することを決めた。

②天気を舐めていた

昼暑いとこの国どうなるか知ってるか。
ものすげぇゲリラ豪雨が降るんだよ。

午後17時ごろ。東京都を抜けて神奈川西部に差し掛かり、暑さも落ち着いてきた時間、急に空気が冷え込み空がみるみる曇っていき、雨が降り出した。
高速道路でバイクの走行中にゲリラ豪雨に降られるとどうなるか。
まず全てを諦めることになる。なぜなら路肩に停車しようが何をしようが雨から逃れられないからだ。
次に見えたパーキングエリア、または陸橋の下で雨宿りするかカッパを着る。そこまでは走る。それ以外の行動は何もできない。
なんとか辿り着いた厚木パーキングエリア(内回り)で、俺はしばらく雨宿りすることを決めたのだった。

虹が綺麗だったので全部許した

③疲れた

バイクというのは車の数倍疲れがたまる乗り物だ。
特に俺の乗るアメリカンバイクは風防の機構がなく、高速道路の流れに乗るために時速80kmで走るとそのまま俺自身が時速80kmの爆風を浴びることになる。ハンドルにしがみつく必要があり、めちゃくちゃ疲労がたまる。
このトンデモ仕様による疲労にゲリラ豪雨が重なると、アドレナリンが爆裂に出る。記憶にないが100%「アハハハ!!! アホ!!!!」などと叫び散らかしており、ただでさえ削れた体力をさらに使うことを余技なくされる。
ということで俺はクタクタになっており、行く先々のパーキングエリア全てに停車することになった。

④迷った

なんやかんやで小田原厚木道路を出るところまで辿り着き、伊豆半島を下り始めた俺は、瞬時に道に迷った。
走行中、ナビなしで旅をしていたからだ。
バイクを手に入れたばかりでスマホをつける台を持っていなかった上に、ヘルメットに内臓するヘッドフォン(インカム)の類も装備していなかったため、地図の確認のためには走って下りて止まってスマホを見るしかなかった。
まあいけるやろと思い、目星をつけていた野宿スポットにたどり着くまでの間で1時間ぐらい旅程の手戻りがあった。アホだった。

⑤腹が減った

想定外に時間を食いすぎてヤバイ時間になっており、腹が減りすぎたのでマックに寄ってさらに時間を浪費した。食い始めた時点で21時を過ぎていた。

⑥暗すぎた

キャンプを張れる場所の目星は付けていたのだが、そもそも星が見えるということは死ぬほど暗い。
そんな場所でハンモックとタープが張れるようないい塩梅の木がある場所を探すのは、想像以上に骨が折れた。いざ見つけてからも、手元が見えず設営にかなり手間取ってしまった。
結局、到着が22時、設営完了が23時で丸1時間かかった。

折れたらマジで死ぬので相当慎重に探した

流れ星に見に行く価値はなかった

俺はこの8時間の旅を終えて、岩の上に寝そべり、用意してきたブルートゥーススピーカーの電源をつけ、『君の知らない物語』を1曲リピートで再生した。デネブ、アルタイル、ベガの位置を確認して夜空を眺めていると、空に1つ、軌跡が走った。
流星群という名前で、何百もの星が雪崩を打つのをイメージしていた。だが、実際には全くそうではない。日付が変わる前の23時から星を数え、見えた流れ星はおそらく5個か6個だった。
正直、今、あの流れ星がどうやって流れたか、何秒空に留まっていたか、まったく思い出すことはできない。大して綺麗でもなく、大してドラマティックでもなかった。だからまあ、正直こんな無謀な旅を計画してまでやることでは全くないと思う。やめておいた方がいい。

だけれど、こんな滅茶苦茶な計画の末に、流れ星が大して綺麗でもなかったと思ったことだけは、多分死ぬまで覚えているんだろうなとは思う。

その夜は暑過ぎて寝付けず、おそらく3時頃に寝入った。

帰る

ここで星を見た

7時頃、日の出とともに顔面を焼かれて目覚めた。
比喩ではない。タープで真上を覆っていたが、日が真横から上ってきてハンモックに直射日光が入ってきた。俺は地球の形を呪った。
暑さと眩しさで強制的にたたき起こされて見た景色は、とてつもなく美しかった。疲労でハイになっていたのもあるし、辺りに人間の気配がなく、まさにそこは俺が求め続けていた「どこでもない場所」だった。

ここから先の記憶は、無い。
死ぬ気で帰り、記録によるとどうやら18時に家に着いたらしい。
10時間かかっている。

最後に、写真が残っていたので貼っておく。

ちんちん!

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