わたしが疎明する夜に(うるし山千尋『ライトゲージ』収録)

おもむろに
円周率を唱えはじめた
ひとり
またひとり
居酒屋で
ほろ酔いで
窓をあけると
室外機のファンが
おうおうとしていて
ひとにはそれぞれ思想があり
事情があり
あなたもですか
と問われれば
です です(YES YES)
と 応(こた)えはするのだけど
それが何の苦しみかは無理に考えず
ひとり
またひとり
割り切れないものを並べあう
そういう たとえば
無限のような
切実さについて
わたしが疎明(そめい)する夜に
前触れもなく
山は噴火し
噴煙にはもう慣れた
麓の人びとが
それをみたり
みなかったりした
絆(ほだ)されたり
放ったりした
熱い灰や
枯れた水渋(みしぶ)のうえで
死ねば死にきりで
夏を終えるという
わたしたちの半島では


うるし山千尋

1976年、鹿児島県肝属郡大根占町(現・錦江町)生まれ。
詩集『時間になりたい』(ジャンプラン、2016年、現代詩歌花椿賞最終候補)、2021年「ライトゲージ」他十四篇で南日本文学賞。
2022年、詩集『ライトゲージ』(七月堂)で第72回H氏賞。


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