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『詩と死をむすぶもの 詩人と医師の往復書簡』

臨床にたずさわる医師徳永進さんと、詩人の谷川俊太郎さんの2年にわたる往復書簡をまとめた一冊です。

徳永さんは鳥取赤十字病院内科部長を経て、鳥取市内に「野の花診療所」を開設。
『死の中の笑み』で講談社ノンフィクション賞を受賞しました。

本作のなかで谷川さんがこうおっしゃいます。

「僕はつまり、ほとんどすべてのことを1と考える人なんですよ。すべてのものは1であると。1つであると。全体は1つなんだと。言葉ができたおかげで2になっちゃったと。だから、善と悪とか、男、女とか、言葉って全部そうやって分割しているわけですよ。言葉の分割のおかげでこっちはいろいろ整理ができて、世界に秩序ができたんだけど、もとのもとは1なんだから、言葉が分けたものをもう一遍ちゃんと1にしたいという気持ちはすごい強いんですよ。」

これは徳永医師が、「老いという問題も西洋と東洋とかいうことも、そのどっちもとらえた方が面白い」と言われたことに対しての言葉でした。

生と死の、どちらも考えながら生きていく。

詩を読んだり書いたりすることで、その分け隔てをとっぱらっていく。

徳永さんは、「死のそばにいさせてもらってる。ありがたいなぁ」とおっしゃり、谷川さんは、「詩のそばにいさせてもらってる。ありがたいなぁ」とおっしゃる。

徳永さんが診療所で人と向き合って一体一で発する具体的な言葉にくらべると、詩ははるかに抽象的だろうとも。

でも、そんな一般的ではない言葉が、死と拮抗できる可能性を秘めているかもしれない、と谷川さんは、徳永さんから送られてくる、日々診療所で繰り広げられる人間ドラマに散文と詩で呼応します。

往復書簡のひとつひとつは、谷川さんの詩で終わります。

良し悪しなどという感覚はまったく通用しない、語れないことを読んでいくわけですが、さいごに読む谷川さんの詩に、想像しているよりもずっと、深くて遥かな世界があるのかもしれないと感じたりもするのです。

谷川さんの言葉にはたびたび「宇宙」が登場しますが、詩を読みながら、宇宙から眺める世界とごく個人的な「あなたとわたし」という世界を行ったり来たりしているうちに、どちらがどちらか分からなくなってきて、それこそおんなじ場所のような気にさえなってきてしまう面白さがあります。

そして、こんな風に寄り添ってくれる診療所や医師やスタッフがいるということは、希望そのものであると思います。

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