雨のなかの友達(澤田七菜『阿坂家は星のにおい』より)
夜の歩道
はげしい雨がふるなか
友達のうしろを 傘をさしてあるいていた
車が通ると
ライトがぬれた道路に反射し
そのたびに友達は
その光のなかに埋もれてしまう
黒い髪
赤い服
透明な傘
声
白い光のなかに埋もれていって
一瞬姿を消す
かろうじて影をのこして
わたしはそれをみて
友達は
いつか死んでしまうんだと思い出した
いま目の前にいる友達は
若くて健康で
みずみずしくて
生で
溢れかえっている
けれど
いま の
い のあいだに
息絶えてしまうかもしれないことを
忘れてしまう錯覚のなかで
わたしたちはあるいていることを
光に消える友達をみて
思い出す
友達も
わたしも
風が吹けば折れて
鳥がつつけば穴があき
誰かのものとすり替えることができる
うすく もろいもので
とめどなくふり注ぐそれらを
かろうじてふせいで
生きている
澤田七菜『阿坂家は星のにおい』収録
発行:七月堂
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