星のうまれる(古屋朋『てばなし』より)

きしんでいる
手をひろげて
宙をつかむように
わやわやと指をうごかす
折れ曲がる部位が
くくく と
音を鳴らす ひびが入るような音
骨が鳴るほどのものではなく
骨と肉がすこしだけこすれるような
何度かそうやって指を泳がせていると
部屋の隅がきしみはじめた
音のした方に視線をうつす
耳をそばだてればいいだけなのに
何かいるのではないかと
音があることを確かめたくなる
あまりの形のなさに圧倒され
ないものをあるものとする
あるものをないものとする
あとすこしで眠れそうな夢のなかから
夜の雨音が膨張して
ふちどるまつげを意識する
窓があいていた
足の裏につめたい風
骨でも肉でもない
ぼくの身体にある通り道に
湿った酸素が吹き抜けていく
カーテンのすきまからみえたひとつ星の
点滅にあわせてまた音がする
指のあいだから 天井のどこかから
とぎれとぎれに聞こえる
かわいた音にあわせて
小さな星たちが
はじけては消え
上へ上へと
すいこまれていく
うまれたのはこの星で
星はうまれる ぼくらのなかで


古屋朋『てばなし』収録
発行:七月堂

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