午睡(萩野なつみ『トレモロ』より)

屋根にひかる
雨の名残
リネンの隙間を泳ぎわたる
蜩、潮騒、とおい会話

ひとつ、ふたつ
猫をみつけた子供のように
呼びとめてしまう
わきあがる雲の峰を
すでに決めた足どりで
駆けのぼる季節風のさなか
かすかにうなずいて去る
うすあおい足音たち

日付は打たないでおく
無数のまなうらに
あかるく濡れた切手を貼って
誰へともなく送りたい
ぬるくたわむ午後
ここにいてここにいない
やがて
むせかえるほどしずかな凪がくる
そのまえに

看取るべきものを看取り
わらったはずの窓辺に
余白のようにさざめくカーテン
ふれて、
なくした呼気をにじませたなら
濃い影をしたがえて
あらゆる景色に
ひるがえる

出会いたかったあなたに
うたいたかった歌を
まどろみの底に浅く埋める
いつか
墓碑を濡らす雨にめざめて
ほそく立ち上がる
めぐりの果てで

誰も知らぬ夏に降り立ち
名も知らぬ屑星のように
すれちがう



萩野なつみ『トレモロ』収録
発行:七月堂

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