魚の歌(小笠原鳥類『鳥類学フィールド・ノート』より)

よいことがあると、いい。あの、ええ、
それが、とても、いい。
とても、穏やかに、うれしい、ことが、いい。
あの川に、いろいろな、種類の歌が
魚が(魚の図鑑は歌の図鑑だ)楽譜が……
泳いでいて、魚の背中が見える。
魚は透明なので、内臓も見えるだろう健康な。
健康な健康だ、
魚のウロコがたくさんあって、それらの
輪郭の線が黒くなって、見える。
黒い絵、というものが、あった。魚を描いたんだろう
魚の図鑑が、画集で、あって
版画、だった。版画の群れ。
版画は十九世紀で、とても線が細いものだ
銅版画。銅の、版画。よいことである
そこに、後で、水彩で、着色を、していた。
淡水の魚の図録で、あった……魚の
絵の、下には、アルファベットで
魚の名前が、記されてある。印刷だ
とてもよいことである。泳ぐ透明な魚は
版画だった、ウロコが多くて
ウロコの輪郭が黒い線になっていて、
それらの線が、たくさんあって、
格子になっていて、版画の線だった。細かい
版画の、作業……よいことだ
よいことだけが、あるのが、よい。よいこと
だけを、考える。水が透明で
緑色だ、この水中で銀色の魚が泳いでいて
銀色で、とても、透明で、あった。
水から飛び出す魚の、側面を、見ていると
とても銀色に光っている。
穏やかな気候がいつまでも続くとよい。
川の底には、砂が、あった
私は舟の上から魚たちを見ていた。見ることが
できた。魚を料理して調理して
食べることが、あった。よいことが
続くとよい。料理は版画である。
版画の黒い線と白い余白の上に、いろいろな
色を塗った。よい。緑色を塗った。
その魚にはいろいろな色があるので、
赤く塗る部分もあった。やや淡い赤だな
それから、紙の白を残す部分もあり
そこは光であるように、見えた。よい
よいことがあると、いい。おはようございます
よいことだ、よいことがあればよい。
私は、ありがとうございます、を言う。
魚の背中を灰色に塗った。
暗い、灰色で、あった……魚は背中が暗い色の
生きものである、あの、とても透明であるように
見える、魚である。魚は
透明で、内臓は、金属の色(銀色)に光る、
袋の、中に、入っていた。おはようございます
魚の内臓を食べる人も、いるだろう
それは苦くて美味だ、と言われる。歌われた
よいことだ。レコードで歌を聞いていた
歌を聞きながら、料理を、作っていた。
おそろしいことは、ないのが、よい。
魚の小さな歯が、見えている。ギザギザだ
おそろしい夢から、逃げている。
魚の歯はとても白くて、透明だ……魚の目は
魚の、とても、光る、部分である。版画で描くなら
金色を少しだけ使うだろう。よいことが
光っているのが、よい。いい。
よいことがあると、いい。
おそろしい未来が来ないのがよい。魚の
版画を集めた本を、ギギギギギーと開くと、
「明るい未来もある」と、書いてあった。
どうなんだろうなあ、よいことが、
あれば、とても、よい。いい。歌うだろう
それから魚を描くだろう、魚の
ウロコたちの線をたくさん描くだろう。
背中にウロコがたくさん描かれるだろう。背中を
濃い灰色で塗った。水彩で描いた。
とてもよいことになればよい。よいことが、
あれば、いい。おはようございます


小笠原鳥類『鳥類学フィールド・ノート』収録
発行:七月堂

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