見出し画像

「I just wanted to be one of those ghosts」(いと・をかし①)

今年発売されたアークティック・モンキーズの新譜『Tranquility Base Hotel & Casino』のオープニング・トラックの「Star Treatment」。

この曲中に登場する歌詞「I just wanted to be one of those ghosts」がなぜかっこいいと感じるのかを分析してみました。

そもそもどういう意味なのか

正確な意味はアレックス・ターナーに聞いてみるしかありませんが、おそらくここで言う「those ghosts」は、ジョン・レノンやマイケル・ジャクソンなど、すでに他界したミュージシャンのことを指しているのだと思います。宇多田ヒカルさんの2016年発売のアルバム名『Fantome』と近いですね。

つまり、「I just wanted to be one of those ghosts」を日本語に訳すと「ただそんなレジェンドたちになりたかったんだ」という意味だと思われます。

ポイントは2つ

このフレーズがかっこよく聞こえるポイントはおそらく2点に集約されると思います。それは「ギャップ」と「比喩」です。

ギャップとは

「I just wanted to be」=ただ~になりたかった

「I just」からしゃべりだす人間の態度として、オラオラ系ではなく、ややシャイではないかと考えられます。オラオラ系だったら「just」って入れる可能性が低い。なので、話者は多少シャイとか謙遜を込めて言い出している。また、日本語で語順を逆にして「なりたかったんだよねー」から言い始めた場合、そのあと「もっとハンサムな男に」とか「もっとできた夫に」とか、ある程度そのシチュエーションで何を言い出すか想定できると思います。

そこで、

「those ghosts」=先達たち、レジェンドたち

と言われると、シャイな態度からの高低差と、想定を超えた答えに一瞬「え?」となります。

比喩とは

「レジェンド」とも「ヒーロー」とも「スター」とも言わず、ただ「ghost」=「幽霊」と呼ぶ。「ヒーロー」「スター」は在り来たりだから、その単語を聞いたら、なんとなく言いたいことがわかる。だけど、「ghosts」と言われると、一瞬「?」となる。なんでもそうなんですけど、何かを印象付けるには、一瞬の「?」がめちゃくちゃ重要なんです。でも「?」のあとに、前後から考えて前述のような解釈を考える。このプロセスで、フレーズが強く印象に残る。ただ、一瞬「?」を作る=かっこいい とはならない。ここでの「かっこいい」はやはり先達たちを「幽霊」と呼ぶことにあります。「レジェンド」とか「スター」って言っちゃうと、自分がなりたい人=キラキラした人となっちゃいますが、ここで「幽霊」と言うことで、世間とは別の自分の物差しの存在を感じさせます。意思、というか。

まとめ

シャイっぽい感じで言い出したフレーズが一瞬の「?」を生み出し、よく考えると実は尊大なことを言っていて、だけど確実な意思を感じる。これが「I just wanted to be one of those ghosts」だと思います。ギャップも比喩も要するに「?」であって、さりげない意思をちいさな「?」を含ませながら形にしていくと、ちょっとかっこいいフレーズが生まれるのではないかと思います。

ただの文字の並びなのに、感情を喚起するのって不思議ですよね。脳と言語の関係も勉強しながら、個々のフレーズについて、どうして一定の感情を呼び起こさせるのか、引き続き考えていきたいと思います。

本当にありがとうございます。いただいたサポートは音楽文化や食文化などの発展のために使わせていただきます!