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日本酒を哺乳瓶で飲んでいた話

これはむかーしむかし。まだマゾ猫が在宅ワークでずっとおうちにいたときのはなし。

マゾ猫は暇だった。

家で一人でいると、大した楽しいことがない。
毎日サブスクで映画を見て、仕事をして、誰ともしゃべらずに一日が終わる。
SNSで会話をしていても、相手がロボットなのか人間なのか、いまいち実感がわかない気持ちになっていた。
正直部屋にペッパーくんの導入を考えるくらいだった。
ルンバでもいい。大して変わんないだろ、どっちも動く機械だし。

そんな中、とりあえず外に出るときは日用品を買う時だけだった。

トイレットペーパーの後ろの棚の粉ミルクと目が合った。

人間は面白いもので、運動を大してしていないと空腹が日増しに減っていく。
もう自分のためにご飯を作るのはめんどくさいよパトラッシュ……。
1人でちょっとしたフランダースの犬状態になる日も少なくなかった。

ある日、マゾ猫はトイレットペーパーが切れそうになっていた。
万年酒飲みでお腹は常時ドライブスルー。加え、過活動膀胱の頻尿マン。
好きな飲み物は利尿作用のあるもの、たまに水。
もうこうなってくると家の中で一番いるところはトイレである。
トイレットペーパーの消費が大家族並みに早い。
突撃!隣の大家族。……え? 単身者なんですか? うっそォ……。
テレビ局も困惑である。

今月何回目かわからないトイレットペーパーを買いに出かけた。
駅前のスーパーの中のドラッグストアのトイレットペーパーが安いもので、いつも通りのトイレットペーパーを手に取った。
一日に六回以上おしりを拭くと痛くなる、ギリ粗悪品のトイレットペーパーである。もっといいやつ買えや、おしりの神様に怒られるぞ。大切にしろ。

その時ふと、振り返ると粉ミルクが目に入ったのである。

赤ちゃんって粉ミルクで育つよね?

運命の出会いだと思った。
目と目が合う~瞬間~好きだと気づいた~。
成人女性が粉ミルクと目が合った時に、アイドルマスターの曲を歌うなんてだれが考えたんだろう。ごめんね、作曲家さん。君の曲は愛されているよ。

食事を作るのがめんどくさい。そして常時お腹が緩い。
ザ・育ち盛りの赤ちゃんが飲むものなら、きっと栄養抜群。
これで生きていけるのではなかろうか。
日本が時空要塞マクロスばりに宇宙に旅立つころ、きっとはじめはディストピア飯になるはずだ。
そんな時に乗り越えられる訓練にもなるし、これは飲むしかないと思い立った。

母乳に近づけました、と書かれているなんかいい感じの値段の粉ミルク「はいはい」を手に取ったマゾ猫。
缶が「はいはい、あんよは上手、おつむは残念」とマゾ猫に訴えかけている。

だがしかし、粉ミルクの飲み方なんてわからない。
……なるほど、哺乳瓶に入れるのか。
なら哺乳瓶も買わなきゃいけないな。

真横にあった哺乳瓶も買い物カゴに入れたマゾ猫。大量のトイレットペーパーと粉ミルクと哺乳瓶。ついでに大荒れのおしりを気遣うために、おしりふきまで入っている。
どこからどう見てもお母さんである。
お母さん(ワンルーム一人暮らし未婚出産経験なし)
そんなイマジナリーお母さんになりながら、マゾ猫は大荷物を抱えて家へと帰っていった。

粉ミルクって意外とまずい

皆さん、粉ミルクって飲んだことがあるだろうか。
赤ちゃんがおいしそうに飲んでいる粉ミルク。
ごくごく飲んでる粉ミルク。
それはそれは、砂漠の中で飲む水みたいに吸われている粉ミルク。

成人女性には味が薄かった。

当たり前だ。成人女性対象商品じゃねえ。
多分そもそも大人が飲むことを考えて作ってねえ。

マゾ猫はおいしくないものを口に入れるとそれはそれは落ち込むので、すっかり一日のやる気をなくしてしまった。
お酒でも飲むか……。でも、最近飲み過ぎだしな……。お腹はピーピーだし、あんまり飲みすぎるのもよくないな……。

その時、マゾ猫は気が付いたのである。
哺乳瓶に入れて飲めばいいと。

哺乳瓶は飲みづらい

哺乳瓶は、コップのレベル100というぐらいとにかく飲みづらい。
吸うだけでなく、若干噛んで、哺乳瓶自体を上に向けなければならないのである。

なるほど、ここに入れれば、飲みすぎ防止になるかもしれないと、マゾ猫は箱買いしていた鬼殺しを哺乳瓶の中に入れた。
なんてもん飲んでるの! マゾ猫! ぺっしなさい、ぺっ!!!!!
イマジナリーお母さんに叱られるのをしり目に、マゾ猫は哺乳瓶を吸った。

……なるほど、凄く良い。

倒してもこぼれない上に、噛むことによりおつまみがいらない。
そして酔いが遅くなるので、ずっとお酒を飲んでいられる。

片手にタバコ、片手に哺乳瓶。EDMを聞きながら麻雀をする、不貞腐れ赤ちゃん(成人)の爆誕である。

哺乳瓶で飲むお酒うめえ~~
タバコもうめえ~~~。

人には絶対見せられない姿で、オンライン麻雀を楽しむマゾ猫。
その姿はきっと、あかちゃんの笑顔のように輝いていたと思う。

ちなみに哺乳瓶は、物凄く洗いづらくて、消毒の方法もめんどくさかったので、3代目までは買ったけど、結局飽きてやめてしまった。

世のお母さんはあんなにめんどくさい煮沸をこまめにするなんて凄いなと、子供が居ない状態で学んだマゾ猫であった。

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