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スパイスカレーを200皿作ってみて。

なんとなく作っていたカレーが、とうとう200皿に達した。
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学生のときに自炊を始めてから普通のカレーはちょいちょい作っていたが、大久保に行ってミックススパイスを入手し、いわゆるスパイスカレーを作り始めたのが2018年の6月だった。
およそ2年、年間100皿、3日に一回位食べていたことになる。
僕はもともと要領がいい方でないので、覚えるには人より数をこなすしかないのだが、続ければなんとやら、バリエーションも増え、コツも分量も目分でわかるようになり、皿盛りも楽しめるようになった。
そのほか色々と分かったことがある。それを下記にまとめた。

1.カレーは失敗しにくい
とんでもなくブレない調理法である。スパイス調製を数回やって基本を憶えちゃうと、あとは適当にやってもほぼ失敗しないのである。
スパイスには素材のクセを抑え込んでしまう強力な香り成分があり、意図的に失敗しようとしない限り、どうやっても何らかのカレーになる。
僕自身、調子に乗って色んな素材を具として鍋に放り込むようになったけど、それでも最後はたいていカレーにたどり着くのだ。
つまり冷蔵庫の中身の処分に最適な家事メニューであり、季節感もないのでコンスタントに作り続けられる。これが200食の正体といってもいい。

2.カレーは簡単
ちょっと教えれば子どもにも憶えられる程度には簡単。
原始的な調理法や器具を使用するせいか、形を成すだけなら複雑さや繊細さを求められないからだと思う。たいてい鍋一つでスパイスや香草などを炒めてから、材料を放り込んで煮ればおしまい。
先に説明したとおり、基本からむやみにズレなければスパイスの調製にミスることはほとんどないのだ。
そのぶん、カレーを作り続けても調理法のバリエーションが多く身につくものではない。ここらから更にカレーを100皿作っても、おそらく、僕はフレンチやイタリアンなどの手の込んだ調理はできないと思う。

3.カレーの苦手なもの
ここまでの過程で、カレーと相性の悪いと感じるものが2つほどあった。
1つ目は過多な酢。
カレーには、タマリンドやアムチュールという酸味を加えるための材料もあるし、ビンダルーという酢をきかせたカレーもあることにはある。
しかし適当にやっても完成するとはいえ、酸味は他の調味料に比べて慎重に使わないと変な味になる。前晩の夕食の残り出汁をベースにしたカレー作りにハマっていたとき、手羽元を酢で煮込んだ料理の汁でカレーを作って痛感した。そこにはカレーには見えるがカレーではないなにかがあった。食えなくはないのだけど、これは人には食べさせたくないなあと感じた。
2つ目はゴマ油。
カレースパイスの強さは多くの材料を包み込んでブレない点に着目し、油も色々試してみた。基本のギー(水牛の乳脂肪)やココナッツオイル、サラダオイル、オリーブオイル、そしてマヨネーズなどでも代用して、いろんな風味を楽しんでいたところ、ゴマ油だけはカレーに匹敵する風味の強さがスパイスと拮抗し、やはりよくわからない料理になってしまった。チキン65というオリジナルレシピにゴマ油を使ようなメニューを除いては、避けたほうがいいと感じた。
そのほか、空豆やカリカリにした鶏皮などは意外に匂いが強く、何も考えずに組み合わせると風味が乱れるので注意したい。

4.カレーをおいしくするもの
結果から書くと、コーヒー、バター、ウスターソース、そしてコンソメや魚介など和洋の出汁。要するに何かしらの味要素が圧縮されているもの。
どれも日本で作る料理の隠し味としてポピュラーである。
そしてこのへんを最後に使用すると、間違いなく"うまみ"はアップする。
特に魚系の出汁は、入れた瞬間に一気に日本人好みの味となる。馴染みのある魚介の味要素がカレーに馴染むとやはり"うまみ"を感じるようだ。
しかしそれによってインドカレーから遠のく。なぜならインドカレーは香りと塩だけで味づけするのが普通だからだ。食材からしみ出す味はあっても、意図的に出汁を入れることはしない。
で、この手の"うまみ"の追加メソッドを極めるとどうなるのかと言うと、日本で市販されているカレールーの味となる。スーパーで簡単に手に入るカレールーは、日本の食品会社が無限に近いスパイスの組み合わせを試行錯誤し、更にみんなが好きな"うまみ"を加えて作り上げた芸術品である、とインドカレーを作っていて理解できた。
どちらも大変美味しいけれど、僕は別のものと考えるようになった。
だから今は「インドカレー」を作りたいときは"うまみ"は使用しないというマイルールがある。
それに一皿に含むスパイスが多ければ多いほど同じ味にたどり着くという印象も否めない。
せっかくスパイスを選んで使えるなら、少ない種類で自分なりの尖った風味を目指したい。

5.カレーの健康的なところ
適量のカレーは健康に寄与すると思う。たぶん。なにしろ一定量のスパイス=漢方薬を毎食で摂取できるのだから。
医学的効用のあるブレンドかはともかく、漢方単体ごとに体にいい要素があることは周知の事実。いくつかの注意事項(シナモンやフェンネルは妊娠中に摂取しないほうがいい、など)だけ把握していれば、美味しく楽しく漢方の恩恵に預かれる。さらに唐辛子のカプサイシンによる代謝アップなども見逃せない。たっぷり入っているショウガもむやみに体が暖かくしてくれる。効能はよくわからないけど、ターメリックが健康にいいとも聞く。そういえばここ二年間、風を引いた憶えがない。
ちなみに、スパイスカレーを提供する店が「グルテンフリー」や「低糖質」をうたっていることがあるが、そもそもインドのスパイスカレーには小麦粉などの糖質は入れない。
カレーに小麦粉が入っているのは最初にカレーが渡ったヨーロッパのシチュー文化由来であり、それが日本に伝わって小麦粉入りのカレールーができたからだ。

6.カレーの不健康なところ
一方で、カレーの不健康な点も挙げておかねばならない。
何が不健康って、塩分と脂質が尋常でないことである。最初に作ってみてびっくりした。
最初にスパイスを高温で加熱して焦げないように香りだたせるため、鍋底を覆う量の油が要る。この香油がカレーのベースとなる。
更にココナッツミルク、ヨーグルト、生クリーム、カシューナッツペーストなど、とにかく脂肪分に脂肪分を加えて組み立てる。菜食主義者用の豆カレーも植物性脂肪はガンガン使用する。
唐辛子の辛味成分も脂溶性なので、これまたたっぷりの油で炒め揚げて良い風味を出す。
そして最終段階に熱した香油を追加することもある。
油が多いので味付けに塩が多い。心地いい塩味を得るためには、一皿にカップ麺一杯近い食塩が必要だと感じる。
また、低糖質であっても高脂肪のカレーソースをごはんやナンのお供にしてしまうと少なくともダイエット的には意味がない。
インドは近代化した途端に一気に生活習慣病大国になったとも聞いたので、健康面への意識は必要だろう。

7.だけど食べたい
だがしかし、200食作っても飽きる気がしない。間違いなくカレーにはなにかの中毒性がある。
スパイスカレーに限らず、日本人の老若男女のカレー好きを見てもわかることだろう。


そんなわけで200皿作ってきてみて、不器用な自分にもいろんなことが理解できた。間借りカレーや多人数分のカレーの調理と運搬など、色んな経験で知ることも多かった。カレーは人生の一部に大きな影響をもたらした、と胸を張って言える。

スパイスには無限の組み合わせがあり、知らないことも無限にあるだろうから終わりもない。
だから、ここでちょっとカレーはお休みしようと思ったけど、作りたいものが残ってるのでカレー生活はマイペースに継続しようと思う。

201皿目は何にしようかなあ。

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