小説 介護士・柴田涼の日常 61 「オムツゼロ」に取り組むFユニット

 翌日は夜勤。夜勤は隣のFユニットも見ないといけない。

 Fユニットは、「オムツゼロ」に取り組んでいる。日中はオムツを使わず、トイレに立てる人はトイレで排泄をしてもらうという取り組みだ。夜間は安眠のためオムツを着けている人もいる。

 ただし、内部の職員からは、トイレに立てない人も無理やりトイレに連れて行って、これじゃあ虐待だよ、という声も聞かれる。

 僕が調べたところによると、「オムツゼロ」は、十分な水分摂取と常食で噛む力をつけることに加え、適切な歩行訓練があってはじめて取り組めるプロジェクトのようだ。十分な根拠のある理論に基づいて「オムツゼロ」が実践されているのならいいが、どうやらFユニットはそうではないらしい。まずFユニットには常食のご利用者はおらず、ほとんどがペースト食かキザミ食混じりのペースト食だ。また、すべてのご利用者が適切な歩行訓練を受けている様子は見られず、毎食後すぐに臥床させているようだ。適切な訓練がなされていないのに、足に力が入らないご利用者をトイレに立たせ続けるのははたして適切なケアと言えるのか。しかも、看取り対応で寝たきりのご利用者までトイレに立たせているという。そこまでする意味はあるのだろうか。甚だ疑問だ。こうした実態を上層部は把握しているのだろうか。

 Fユニットのご利用者は、活気のない人が多い。ユニット内部のことはユニットにいるご利用者や職員しかわからないが、外側から見ていると、隣のユニットはあまり楽しそうな感じはしない。日中の生活が楽しくないから、夜になって不穏になるご利用者や全く寝ないご利用者が出るのではと勘繰ってしまう。

 その日の夜勤は百歳のイノウエさん(女性)が不穏で、何度も起き出しがあり、その都度臥床を促したり、トイレ誘導したりした。ベッドには睡眠状態を把握するセンサーがついており、離床するとPHSに表示されるアイコン上の眠っている人がベッドからいなくなり、かつ特定の通知音が流れるので離床したとわかるが、イノウエさんは動きが早いので、センサーの反応が追いつかないことがある。そこで、ベッドの足元に床センサーを置き、その反応でも離床が検知できるようにしてある。その床センサーがひっきりなしになるので、何度も訪室し、「まだ夜なので寝ていてください」と臥床を促すが、「仕事に行くだ」と言ってきかない。もう仕方がないと思い、離床していただき、テーブルで洗濯物たたみをお願いする。Fユニットは洗濯物たたみが間に合っておらず、洗濯かごに大量の洗濯物が放置されたままになっている。仕事に不足はない。しばらくは洗濯物をたたんで過ごしてもらおう。


参照

・ニッポンの介護学「オムツを使わない介護」が全国で急増中!歩行機能向上に寝たきり防止といったメリットも」

https://job.minnanokaigo.com/news/kaigogaku/no566/

・介護ポストセブン「自立支援ケア 施設レポート「おむつゼロ」で若返る!歩けるようになった人も」

https://www.news-postseven.com/kaigo/13797

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